第14話 合宿 後
先週の日曜日からはじった合宿だが、それも今日で六日目。本日は金曜日だ。
この日は、朝から訓練を行い、昼以降はスケジュールにボランティアが入っている。中間考査を免除する代わりに入った措置であり、少なくとも楽しいイベントではない。
午前の訓練後であることも相まって、ボランティアに向かう一行の足取りは重い。訓練による疲労、昼食による満腹感がコラボし、中には今にも眠ってしまいそうな者もいる。
とはいえ、市民からの印象を良くする為にも、この活動は重要だ。重いとはいえ、しっかりとした歩みで、指定された場所へと向かう。
「ごめんなさいね、休みの日にこんなこと頼んじゃって」
「いえいえ、こっちもこれが役目ですから」
資材を運びながら、すまなそうに謝る市の準備委員会の女性に凪は何でもないように振る舞う。おそらく女性は、彼女に本来は男性の仕事であろう資材運びを手伝ってもらっている事に負い目を感じているのだろうが、フィジカル面で同年代の男子に勝るとも劣らない凪にしてみれば、これぐらい軽いものなのだろう。辛い表情一つ見せず、軽々と資材を持ち上げている。
「悪いわね、力仕事が多い割に、男手が少なくて……。ホント、うちの男どもときたら、昼間っからお酒ばっかで」
「うちの旦那もそうよぉ。この街挙げてのイベントだって言うのに、今日なんか朝から釣りに行って、まだ帰ってきてないんだから」
「あ、あはは……」
同じく手伝いに来ていた女性達に囲まれ、珍しく困惑した表情を見せる凪。他のメンバーに目配せで救援を求めるも、皆忙しいようで、凪の視線に応える者はだれ一人としていなかった。
「しっかし、物の多さが……、よいしょっと……」
「あらぁ~、随分と力が強いのね。おばさん感心しちゃった」
凪と同じように、資材を肩に担いていると、近くにいた女性から称賛を受ける和沙。しかし、彼女の近くでは、和佐以上に悠々と力仕事をこなしている隊長がいるのだが……。
「いくら若いとはいえ、女の子にこんな力仕事させるなんて気が引けてたんだけど……。良かったわ~、みんな結構力があって」
「……ん? みんなってどういうことですか?」
和佐が女性の言葉に違和感を感じたのか、首を傾げて聞き返す。
「え? みんなって、ほら、六人とも女の子でしょ?」
「ちょ、今何か聞き捨てならない事をき……」
「えぇ、そうです。六人全員女の子ですとも!」
「そうよね~。みんな可愛い子たちばっかりで、おばさんびっくりしちゃった」
「もがー! んがー!」
「ありがとうございます。普段から鍛えているので、少しは力に自信があるんですよ。それがお役に立てて嬉しい限りです」
「あらまぁ、なんて良い子なの。それじゃ、おばさんは向こうで細々とした仕事を片付けてくるわね~」
手を振りながら去っていく女性を見送り、七瀬は後ろから塞いていた和沙の口をようやく解放する。
「ぶはっ! はぁ、はぁ……、何するんだよ!?」
「……あまり市民の方を不安がらせるような事はしないでください。ただでさえ、貴方は不確定要素が強いんです。本来女性しかいない巫女隊に男性がいれば、怪しく思われるのは当然です。迂闊な発言は控えるように」
「……まぁ、それもそうか。以降は気を付けるよ」
「そうしてください。……それに、改めて見ると、女性っぽいので、あの人の発言もそこまで間違ってはいないと思いますよ。……ふふ」
「笑うな! わーらーうーなー!!」
七瀬の含んだ笑みに抗議を行うも、全くと言っていいほど相手にされない。結局、このボランティア中、和沙は他の人からも終始女子扱いされていた。
「納得いかない」
ボランティアの作業が終わった一同が、作業を手伝ったお礼としてもらったお菓子やドリンクを広げ、疲れを癒している中、和佐がボソリと不満を漏らす。
「ぶっ、ふふふふ……」
「何が可笑しい!!」
あれからどこに行っても女の子扱いされたため、和佐は現在やさぐれ中だ。とは言っても、仕方のない事であるため、誰一人としてフォローや擁護はしない。
「でも、こうやって私達に混じってても違和感無いくらいには和沙先輩って女の子っぽいよね」
「どこかがだ!!」
「強いて言うなら……、全部?」
「はぁ!?」
日向の言う事も分からないでもない。中途半端ではあるが、長い髪、少し高い声質、女性っぽい顔、同年代の中では高いとは言えない身長。少なくとも、初見で和沙を男子と断定できる人間は少ないだろう。
「兄弟に女性がいると、女の子っぽくなるとは言いますけど……、どうでしょう?」
「どうだと言われても……、記憶が無い以上は分かるはずもないし。いたとしても、それは身体構造的なものじゃなく、性格とか見た目が姉や妹に影響するってレベルじゃないか?」
「そうでしたっけ? そもそも、この中で兄や弟がいる人って……」
「私、妹が一人います」
「あたしは仍美と双子~」
「お姉ちゃん以外に兄妹姉妹はいません」
「私も私だけですし……。凪先輩は?」
「あ、私は弟がいるわよ」
『えぇ!?』
「えっ!?」
まるで初めて聞いた、とでも言いたげな一同。逆に和沙は、その驚愕に対して驚く。和沙が知らなくても付き合いが浅い為、納得はするが、他のみんなはそれなりに付き合いが長いはずだ。それなのに知らないと言うのだから、それこそ驚くべきことだろう。
閑話休題。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「言ってません! 初めて聞きましたよ、そんな情報」
「先輩にも弟さんがいたんですね! 今度紹介してください!」
「待って下さい、日向。あの凪先輩の弟ですよ? とんでもない性格をしていても不思議ではありません」
「破天荒、傍若無人、自己中心的……、どんな人なのか、ちょっと気になります……」
「凪ちゃんがもう一人いるの? すごーい、ダブル凪ちゃんだ!」
好き放題言ってくれる一同にを見て、凪は思わず頭を抱える。これでは隊長扱いではなく、問題児扱いだ。
「あんた達が普段どんな目で私を見てるのかよ~く分かったわ……。弟は私とは全然違うわよ。大人しすぎてびっくりしちゃうくらいよ」
「大人しい? 仍美ちゃんみたいに?」
「仍美よりもずっと、よ。それこそ、自己主張はおろか、存在感すら示さないから、ほんとにそこにいるのかすら分からないくらいよ」
「透明人間みたいだね~」
「そうね~。少なくとも、和沙ほど自己主張は激しくないわね」
「……ん? 今のはディスられたのか?」
「そ、存在感があるってことですよ、多分……」
「どういうことだよそれ……。っていうか、弟がいるのにも関わらず、俺にあんな絡み方してたってことですか? 弟にやってみたらどうです? どんな嫌がられ方されるか、楽しみだ」
「あんたにあれだけやるのに、弟が無事だと思ってるの?」
「あぁ、既に魔の手が及んでいたのか……、可哀想に」
「あんたみたいな面白いリアクションはとらないけどね。いっつも苦笑いするだけで嫌がりもしないし……。ホント、つまんない弟よね~」
和佐は、既に姉への諫言を諦めているであろう、未だ見ぬ同志に想いを馳せながら遠い目で空を見上げる。どれだけ抵抗しても、一切止まることの無い暴君に対しての、精いっぱいの力無い抗議だったのだろう。その様相が目に見えるようだ。
「うちの事はいいわよ。それより、あんたの体よ。そのままじゃ、火力担当だって言うのに、ロクに前に出れないわよ。もっと食べなさいよ、もっと」
「ノリが近所のおばちゃんみたいですよ、先輩」
「凪ちゃんはおばちゃんだった!?」
「日向! 余計な事言わない! 風美も真に受けるな!」
「あはははははは!」
「お姉ちゃん……」
訓練とボランティアの疲労が溜まっているはずだが、妙に元気な少女達。その事を知ってか知らずか、遠くで見ていた大人たちが、彼女達を見て微笑ましい表情を浮かべている。
神奈備ノ巫女、と言っても、内面は普通の少女と大差は無い。ただ、やるべき事があるか否かの違いだけだ。
「そういえば、明日で合宿終わりでしたよね」
日向が切り出したのは、この一週間、ひたすら彼女達を虐めぬいたあの訓練の事だ。
「あ~、明日いっぱい頑張れば、ようやく解放だ~……」
「でも、まだクリアしてませんよね?」
「……もういいんじゃない? 私達、頑張ったわよ。来る日も来る日もターレットの猛攻に耐えてさ、何回も何回もターゲットの目の前まで行けたじゃない。あれでクリアって事に……」
「なりません」
遠い目で語りだした凪を、七瀬が無慈悲にも一言で切り捨てる。
しかし、実際問題与えられた課題は大方クリアしているものの、訓練目標であるターゲットを破壊するには至っていない。あと一歩が足りない、というところだ。
その一歩をどこで作り出すか、考えても考えてもそれが見いだせない。
「まぁ、あと一日、頑張ればいいんじゃないかな?」
「適当ですね。作戦の一つでも立ててください」
「立ててもねぇ……、いい作戦は思いつかないわねぇ……。そういえば、この間の戦闘で和沙が立てた作戦がドンピシャで決まったんだから、あんた、また何か作戦立ててよ」
「絶対、嫌だ。俺は作戦立案よりも、指示される方が理にかなってるんだ。もうあんなめんどくさい事は絶対やらない」
「め、めんどくさいって……」
「仍美さんはどうですか?」
「わ、私はそもそもそこまで広く見てないので……。和沙先輩と同じで、作戦には従う方でお願いします」
「おおう……、未来の隊長候補が軒並みアウトかい。んじゃまぁ、いつも通り七瀬に逐一指示してもらうしかないかぁ」
「そうなると、七瀬ちゃんが隊長ですね!」
「隊長……、隊長が二人……、凪ちゃんが隊長じゃなくなったら……ナニ?」
「ナニ? ナニと来たか!? あんたの中の私はどうなってるのよ!?」
「隊長で……壁!!」
「壁役だけどさぁ、壁役だけどもうちょっと言い方ってもんがあるでしょうに!」
夜も更け、そろそろ町の灯りも消え始めた頃、未だに湯気が漂う露天風呂に一つの影が現れる。
「やっと、やっとか……」
入ってきたのは、疲労の色がこれでもかと言うくらい濃く表情に出ている和沙だった。
実は、客が少ないという事もあり、現在女湯が故障中で、男湯が混浴扱いになっている。それだけならばよいのだが、和佐の前に入った女子連中の入浴があまりにも長く、和佐の入る時間がこんなにも遅くなってしまった。
「はしゃぎ過ぎたって……。まぁ、いつもの事か……」
午前中は訓練、午後はボランティア、帰ってきてからも散々遊び倒していた彼女達だったが、まだはしゃぐだけの体力があったのか、風呂の中でもかなり好き放題していたようだ。
「あんの体力お化け共……」
それに巻き込まれかけた和沙は、一目散に逃げ出し今に至る。
「……」
雲一つ無いおかげか、見上げると満天の星空が見える。この光景も、あと一か月もしたら梅雨になり、そこからひと月ほど見る事が出来なくなるだろう。
「一か月、か……」
和佐が巫女隊に入ってから、一か月と半月ほどが過ぎた。初めに菫に言われた疲れる、という言葉を今頃思い出し、その意味を今頃理解する。
要領がいいわけではない、と自分で思っている和沙は、果たして上手くやれているのかどうか不安なのだろう。温泉に身を委ねていながらも、その表情は晴れない。
「っ!?」
一人で自問自答を繰り返していた和沙だったが、唐突に鳴り響いた露天風呂と脱衣所を隔てる戸を開いた音に反応し、お湯の中にも関わらず、素早い動きで振り返る。
またあの暴君か! そう覚悟していた和沙の目に映ったのは、予想外の人物の姿だった。
「……いくら混浴とはいえ、そんなに超反応するような事でしょうか」
「……は?」
間抜けな顔を晒す和沙をどこ吹く風と通り過ぎた七瀬は、檜の風呂椅子に座ると、体を流し始めた。
「……あまり凝視されると恥ずかしいのですけど」
「はっ……、す、すまん……。想定外だったからちょっと思考がフリーズしてただけだ。断じて興味があったとかじゃない!」
「それはそれで失礼だと思うのですが……。まぁ、そういうことにしておきましょう」
七瀬が体を流す水音が響く。
「……」
室内でも無いのに、音が異様に響き渡るのは、和佐と七瀬の間に沈黙が流れているからだろうか。
一瞬、和佐が上がろうとする素振りを見せたが、何故かやめた。それは、決して同じ空間に女性がいるからではない。七瀬の背中が暗に出るな、と語っているような気がするからだろう。無言の圧力が和沙をその場に留まらせる。
おそらく、今ほど凪の突撃を欲した事は無いだろう。それほどまでに空気を重く感じる。
生真面目且つ几帳面な七瀬らしく、体を流すのにもかなりの時間を要している。その間も、本来はリラックスできるはずの温泉の中で、和沙が緊張しながら待っていた。
「ふぅ……」
ようやく流し終えたのだろう。長い髪を上げた七瀬が、体をタオルで隠しながら湯舟に入り一息入れる。
「……凝視するな、とは言いましたが、だからと言って相手を目の前にしながらそっぽを向くのはどうかと思います」
「な、なんで入って来た!? さっきも入ってたはずじゃ?」
「少し野暮用で外していましたので、先輩達とはタイミングがずれたんです。それに、あなたとも少し話がしたかったので」
「は、話!? 俺、責められるような事は何にもしてないぞ!」
「どういうことですか……。そんなに緊張しないでください」
詰問か、言及か。そんなことばかり考えていた和沙の体は、萎縮と呼ぶのも甘いと感じるほど緊張仕切っていた。訓練中、彼女にこっぴどく叱られる事も少なくないうえに、普段の態度が敵意に満ちている、ほどではないが、柔らかいとは言い難い。和沙が警戒するのも当然の事だろう。
「別に怒っているわけではありません。ただ、貴方が私達の一員になって一か月半……、もうすぐ二か月になりますが、そろそろ慣れましたか?」
「……事と場合による」
一概に慣れたと言っても、和佐にしてみればその内容は多岐に渡る。例えば、訓練自体には慣れたが、実戦ではまだぎこちない部分も多々ある。今日行ったボランティアに関してもそうだ。纏めたものに慣れたか、と言うのならば、まだまだと返すしかないだろう。
「はぁ……、深読みし過ぎです。私は、私達の中にいる事に慣れたか、と聞いたんですけど?」
「あぁ、そういうこと……。目の前の人の目が未だに怖い事を除くと、ある程度は慣れた、とは思う。……多分」
「……今の言葉がどういう意味か小一時間問いただしたいところですが、まぁ、いいでしょう」
歯切れの悪い和沙だが、実際この短い期間でよく馴染んでいる方だろう。周りのおかげ、と言ってしまえばそれで終わりだが、七瀬はどうやらそう思ってはいないようだ。
「実のところ、和佐君はよくやっていると思います。訓練にしろ、メンバーへの接し方にしろ。まぁ、どこかの隊長に振り回されて、結果的にそうなっている節もありますが……。それでも、貴方は既に私達佐曇の巫女隊の一員です。一人で頑張るのも大事ですが、もっと周りを見た方がいいですよ」
彼女の言わんとすることは分からないでもない。おそらくは、この合宿中の訓練で、特攻する事が多かった和沙を諫めている、のと同時に理解させようとしているのだろう。闇雲に突っ込むのではなく、もっと周りの人間を利用しろ、と。
思い起こせば、一番最初の戦闘でも、一緒に戦っている、と言うよりも個々の攻撃が偶々噛み合った、としか言いようの無いものだった。特に、中型の外殻を無理やりこじ開けた不意打ち。あれなんかは偶然日向が合わせられたものの、一歩間違えれば大怪我を負いかねない博打だ。二回目の戦闘にしても、凪が判断できないのであれば、和佐が退くことを選択すればよかった。それをしないというのは、内心では周りを信用していなかったからなのかもしれない。
「全てを委ねろ、と言っているのではありません。時には、自分で判断し、動いた方がいい場合も少なからず存在します。ですが、まずは考えて下さい。その判断が自分を犠牲にしようとしていないか、一人で何もかも背負い込もうとしていないか」
「そこまで深く考えて行動してないんだけどなぁ……。その時咄嗟に出た考えに体が反応している、ってだけで」
「だったらもう少し考えて行動してください。それが、貴方の未来の為にもなるんですよ」
「善処します……」
「……もしかすると、記憶を失う前に何かあったのかもしれませんね。身近な誰かに信頼を裏切られた、とか」
「記憶かぁ……、結局はそこに帰結するんだよな。記憶さえ戻れば、こんな苦労する必要なんて無いんだけどなぁ……」
未だ戻る兆しすら見えない和沙の記憶。果たして、あの湾に流れ着く前はどこで何をしていたのか。それさえ分かれば、和佐の力の原因や、その本来の使い方が分かるはずなのだが……。
「戻らないものをどうこう言っても仕方ありません。今は明日の事を考えるべきでしょうね」
「明日ねぇ……」
合宿最終日。各々の課題は既にクリアしている。だが、全体の課題は未だ達成ならず。個人の技量でどうしようもないのなら、力を合わせればいいのだが、それが簡単に出来ればここまで苦労していない。
「突破するビジョンが見えない以上、どうしようも無い気がするけどな」
「和沙君はこの合宿の中で確実に成長しています。それは私が保証しましょう。ですので、まずは一つ、周りをよく見て、考え方を変えるところからやってみましょう」
「そんなこと、出来るのかねぇ……」
「例え出来なくても、誰も怒りませんし、恨みません。踏み出そうとする意思が重要なんです。安心してください、先輩も、後輩もみんな頼りになる人ばかりですよ」
渋る和沙の背中を押すような七瀬の言葉は、果たして彼に届いたのか。その表情からはうかがい知れない。
「……」
しかし、そこまで言われて、和佐はふと思いだす。七瀬がクラスで何と呼ばれているのか。
人に教えるのではなく考えさせ、人を引っ張るのではなく導く。面倒見がいい、とはよく言われているものの、そんなレベルではない。
彼女の知らぬ、影の渾名、「鬼教官」。
なるほど、実に的を射ている。口調、内容共に優しいように見せかけ、その実、無理などとは絶対に言わせない、鬼の如き指導。
この歳でこうならば、成長すればどうなるのか。和沙は思わず身震いをした。
「おっかない話だな……」
「? どうしました?」
「いや、何でも」
「??」
七瀬が首を傾げる。これでも、クラス内どころか、学年内でもかなり人気があり、こういう仕草一つでノックアウトされる男子も少なくはない。が、彼女の本質の一端に触れている和沙にとっては、それ仕草すらも得体の知れないもののように感じる。
「……そういえば、ずっと聞きたい事があったんだけど」
「?? 何ですか?」
「何で俺の事をあんなに目の敵にしてたんだ? これと言って不興を買った覚えはないんだけど」
「それはえぇっと、言ってもいいものでしょうか……」
「別にいいだろ。こうして話せてる、って事は、その問題は解消したんだろ?」
何故か唐突に頬を赤らめる七瀬。彼女に限って、やましい事があったとは思えないが……。
「理由が二つほどありまして……、まずは一つ目に和沙君が巫女になった経緯に不満がありまして……」
「あぁ……、候補生を介さずになったって事か。確かに、昔から努力している奴なんかには恨まれそうだよな」
「そんな感じです。実力主義の巫女にとって、ただ珍しいから、という理由で本隊に合流した貴方の事を認めるのは、そう簡単ではありませんでしたから」
「なるほど、妥当だな。で、もう一つは?」
「……こういうキャラが一人は必要かな、と思ってたんです」
「……うん? どういうこと?」
「女性しか使えないはずの洸珠が使える唯一の少年。何も分からないまま配属された女性生徒のみで構成される巫女隊。そんな状況になったからには、必要じゃないですか、主人公に対して憎まれ口を叩きながらも、だんだんと絆されていくツンデレヒロインキャラが! それを実現するならば、私がやるしかないと思ったからですよ!!」
「……」
和佐は今の今まで忘れていた。彼が所属している巫女隊のメンツは非常にキャラが濃い。凪はともかくとして、元気キャラの日向や、火の玉ガールの風美、実は戦闘時と通常時の性格に違いが一番激しい仍美。こんな連中と一緒にいる人間が普通なはずがない。
つまるところ、七瀬はいわゆるオタク趣味と言うやつである。アニメ、ゲーム、小説、その他なんでもござれ。真面目一辺倒のキャラだと思いきや、こんな風に色々盛り込んでくるから油断が出来ない。
「ま、まぁ、理想があるのは結構だけど、だからってキャラ崩壊起こすほど行き過ぎるのは問題だと思うな!!」
「何を言っているんですか! こんな機会、二度とないかもしれないんですよ! なら、一度はやっておきたいシチュエーションナンバー7をやるにはここしかないと……!」
「多いな!? それからそれ以上はやめてくれ! お前はツッコミ側だろ!? ボケに回られると非常に困る!!」
「ボケとツッコミ……、つまりは受けと攻め!?」
「さっきまでのシリアスはどこに行ったんだよ! そっちから持ち掛けてきたんだろうが!!」
「シリアスなんてどうでもいいです。私の趣味を理解してくれる人がこれまでほとんどいなかったので、この際、和佐君に全て受け止めてもらいます!!」
「ふざけるなああああああ!!」
誰と一緒になろうと、結局はこういう結末になる。
果たして、和佐の休まる時は来るのだろうか。乞うご期待。
「ちなみに、私は男性向け、女性向け両方いける口です」
「やかましいわ!!」
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