第43話 生きるという事
『敵、確認しました!! これは……、大型!?』
端末から、ようやく観測班による敵の補足情報が上がってくる。が、どうやらその情報は、凪達にとっては既に古いものと化していたようだった。
「そうね……、大型ね、どう見ても」
凪の目が反転し、下がっていく大型へと向けられる。どうやら、これ以上の侵攻は無いようだ。
「風美さんと仍美さんの二人は!?」
『待ってください! こちらも付近の監視カメラ映像からようやく捉えられた状態なんです! そうすぐには……、!! いえ、反応が復活しました! そこから西に三百メートルの地点です!』
「大型が離れたからかしら? いや、今はそんな事を考えている暇は無いわね。双子を探すわよ!」
凪が他の三人に視線を向けると、全員が頷く。
移動を開始した一同だったが、付近は酷い有様となっていた。
「これは……」
「酷いですね……。爆撃と……、あれは杭でしょうか?」
「なんともえげつない……」
地上が瓦礫だらけなのが災いし、跳躍して進む一同。高く飛び上がる事もあり、周辺の状況がどれだけ酷いのかがよく分かってくる。
やがて、指定されたポイントに到着するが、そこに二人の姿は無い。と言うよりも、破壊された建造物や道路のせいで色んな所が死角になり、見渡して探すのが非常に難しい状態だ。
「手分けして探すわよ」
「分かりました」
「はい!」
「了解」
三々五々に散り、思い思いの場所を捜索する。
瓦礫を分け、それぞれ目に付く所を片っ端から探していく。しかし、二人の体が小さいせいか、それとも別の理由があるのか分からないが、なかなか見つからない。
まるで映画に出てくる大怪獣が破壊尽くした後だ、などと考えながら、凪が端末を操作する。
「ほんとにここで合ってんのよね?」
『はい、明確な場所はまだノイズ混じりなので分かりませんが、その付近に風美さんと仍美さんの反応があります』
「かと言っても、この瓦礫じゃあ……」
『……割り込み、失礼するぞ』
凪が観測班との通信を行っていると、不意に和沙が割り込んできた。その声は、非常に思い。
『見つけた』
「すぐ行くわ」
端末をしまい、別の所を探していた七瀬と日向を呼び戻す。
その声の重さに覚悟を決め、和沙が探していた場所へと降り立つ。すると、少し離れた場所に瓦礫に腰をかけ、顔を手で覆っている和沙がいた。
「どこ?」
「……」
指差したのは、瓦礫が積み重なり、ちょうどバス停程度の大きさの空間が出来ている瓦礫の隙間。
そこに、手を繋ぎながら倒れている双子がいた。
「……くそっ!!」
凪がすぐ傍の瓦礫に拳を打ち付ける。その理由は明白だ。二人は既に死んでいた。
「……っ!?」
「……日向は下がってて下さい」
後から来た日向は口元を手で覆い、そんな彼女をかばうようにして七瀬が隙間の中へと降りてくる。
近づいて見ると、死体は無残なものだった。
姉は半身が吹き飛ばされ、妹は全身を細長い物で貫かれている。御装の防御なんて関係無い。一方的にやられたのが見て分かる。
よく見ると、凪達が入ってきた場所から、まるで尾を引くように仍美の体まで血の跡が残っていた。外で致命傷を負い、ここで力尽きた、ということだろう。そこまでして、彼女は姉と共にいる事を選んだのだ。
「……報告してきます」
「……お願い」
それ以外には、誰も、何も言えなかった。
先程まで、一緒に笑い、食べ、遊んでいた二人が、今はもう、何一つ発することも出来ず、そこに横たわっている。そんな事実を受け止める覚悟など、彼女達にありはしない。
何も言わず、瓦礫の隙間から出ていった凪の背中を震わせているものは、悲しみか、それとも怒りか。それを知る者は、誰一人としていなかった。
七月三十日、大型温羅戦にて、引佐風美、引佐仍美の両名を殉職とする。
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