十一話 内訳

 無駄に大仰な動作で光を纏った明は、次の瞬間には御装の姿へと変わっていた。紅葉のものとは少し異なり、どちらかと言うと軽装と言えばいいのか、全体的に動きやすそうな御装だ。佐曇の巫女隊が着用する御装と比べると、本局メンバーの御装を開発した人は実用派なのだろう。あまり装飾は見当たらない。

 御装も特徴的だが、それよりも更に目を引く物があった。


「ボクのポジションは前衛、主に切込み隊長だね。持ち前の機動力と紅葉君には劣るが一発の火力が持ち味さ」


 その特徴的なナックル……リボルビングナックルを握りしめる。

 明の戦法は敵に肉薄してのインファイトだ。あの軽装も、この戦い方を行う為のものだろう。見た目からはそこまで火力があるようには見えないのだが、おそらくあのリボルバー部分に秘密があるのだろうか。彼女の武装に関しては、実際に戦っているところを見なければ、想像するのも難しい。


「次は私ね」


 まだ語りたそうにしている明を端に押しやり、前に出て来たのは睦月だ。彼女も既に変身を済ませていた。


「私の武器は薙刀……なんだけど、ちょっと秘密があってね。それはまぁ、おいおい分かって来ると思うわ」


 随分と思わせぶりな言い方だ。明の武器もそうだったが、睦月の得物にも何らかのギミックが搭載されているのだろうか? 見た目は普通の薙刀にも見えるが……


「私の役割は主に牽制と闇討ち、かな? 他のメンバーが崩れた時の為のフォローも兼ねてるわ」

「近接支援、という事ですか?」

「そう言う事になるかな。あまり前に出てガンガン戦うっていう印象じゃないわね。あくまで味方のフォローがメインと考えてくれればいいわ。それじゃあ、次は……」

「……はい、私です」

「じゃあ千鳥ちゃん、お願いね」


 今の今まで一度も言葉を発さなかった千鳥が鈴音の前へとやって来る。彼女の御装は明とは反対に、かなりひらついた部位が多いように見受けられる。一見すると、大鎌を持った魔法使いのようだ。

 そう、大鎌だ。

 御装と同じ真っ黒で、尚且つどこか禍々しさすら感じる歪な形の大鎌が千鳥の武器のようだ。


「……私の役目は、主に瑠璃ちゃんの露払いです……」

「露払い、ですか……?」

「そういえば、君たちは基本的にセットだったね。お互いがお互いを想い、支え合う……なんて素晴らしい関係なんだ!!」

「ちょっと黙ってて」

「ふふ、厳しいね……」


 おかしな事を口走っている明の口に釘を刺しながら、睦月が瑠璃に視線を向ける。


「千鳥ちゃんは、基本的に瑠璃ちゃんと一緒に行動する事が多いんだけど、それは戦闘時も同じなの。基本的には千鳥ちゃんが瑠璃ちゃんの侵攻ルートを作り、そこを瑠璃ちゃんが一気に詰めていく、というのが基本的な段取りね。もちろん、そればかりじゃないけれど、それがメインだと思ってくれればいいわ」

「なるほど……」


 チラリ、と鈴音の目が瑠璃を捉える。相も変わらず、彼女の目は鈴音へと熱い視線を送り続けている。


「そ、そうなると、灘さんも樫野さんと似たような武器を使うんですか?」

「ん? 私? 私は……これ」


 ずい、と差し出してきたのは、一本の太刀。……なのだが、鈴音が使用している物と比べると、拳一つ分程柄の部分が長い気がする。


「私は、こう、さって近づいて、ズバッてやるの」

「……??」


 戦い方を説明してくれているのだろうが、なんとも要領を得ない説明の仕方に、鈴音が思わず首を傾げる。


「瑠璃が得意とするのは居合だ。それこそ、何メートルも離れた場所から一瞬で相手の懐に潜り込む程の速度で踏み込むのでな、櫨谷とはまた違った切込み役なんだ」

「居合ですか……」


 剣の道に生きる、と言う程では無いものの、剣を教わっている身としては、居合という言葉は聞きかじった程度では済まない。彼女自身、片倉から簡単な手ほどきは受けており、基本的な事は出来るものの、それを実戦で使えるレベルに昇華させるなど到底出来はしない。しかし、目の前の少女はそれがメインの戦法だと言う。


「合点がいきました。それで、灘さんの露払い、なんですね?」

「そういう事だ。一気に距離を詰める方法はあるが、道中に雑魚がいればそこに躓く可能性が出てくる。それらを払うのが灘の役目だ」


 チームワークと言うより、段階を踏んだ攻撃方法と言った方が分かりやすいだろう。しかし、それならば確かに二人の戦法はお互いにマッチしている。


「最後に私だが……見れば分かるな?」


 傍に立てかけた大剣にもたれかかる紅葉。確かに、このメンツの中ではこれほど分かりやすい人物もそうはいまい。


「前衛、盾役と言うべきでしょうか? 基本的に陣形の基礎を担ってらっしゃるんですよね?」

「そこまで大層なものではないが、まぁ概ねそんなところだ」

「メンバーの大黒柱、お父さんみたいなものだね!!」


 盾の代わりにもなる大剣を担ぎ直して、少し表情が和らいだ紅葉だったが、直後の明の言葉で、再度眉を顰める。


「そ、それはともかく、ここにいない最後の一人なんだけど……ここにいる面子を見ておおよそ予想は付くと思うんだけど……」


 鈴音が彼女達に視線を走らせる。そこで、とある事に気付いた。


「全員、近接武器なんですね」


 そう、隊長である紅葉は大剣、睦月は薙刀、明はナックル、千鳥は大鎌、そして瑠璃は太刀と、その武器構成は近接ばかりで構成されていた。


「という事は、残りの一人も……?」

「流石にそれは無いわ。最後の一人は遠距離武器……ライフルを使うの。とは言っても、私達の主な戦闘場所は町中だから、遠距離からの援護はあっても、超遠距離からの狙撃は無いわ。同じ理由で、私達のメインウエポンのほとんどが近距離武器なの」

「なるほど、開けた場所で戦う事はほとんど無い、という事ですか?」

「基本的にはかなり狭い場所での戦闘がメインになる……そう思ってもらって構わないわ」


 確かに、御前市自体は大きな街とは言え、街が大きくなればなるほど建物の密集具合は上がっていく。その結果、満足に動き回れる程の広さを確保するのは極めて困難と化している。佐曇でも、似たような状況に陥った事はあるが、あちらでは基本的に既に放棄された街の跡で戦う為、わざわざ広い狭いを意識せずとも問題は無かった。何せ、狭ければ周囲を破壊し、広くする事も可能だったからだ。


「大きければ良い、というわけでもないんですね……」

「そうでもないさ。大きい事は良い事だ!!」

「……ちょっと、関係無いタイミングで関係無い事を口走る無関係な人は黙っていていただけます?」


 ジロリ、と睦月の目が明を睨みつける。逆に、明の目は宝石でも見るかのように睦月の胸部へと向けられている。何と言うか、よくもまぁここまで欲望に忠実になれるものだ。


「それでその……最後のお一人は今どこに?」

「自己紹介の時にも言ったと思うが、真砂は巫女と並行してモデルもやっててな、今日は撮影があって来られないんだろう。まぁ、いつもの事だ」


 メンバーが来ない事をいつもの事と言い切れるのは、信頼しているからだろうか? それとも、興味が無いからだろうか。今の鈴音には、彼女達の距離感を計る事は出来なかった。


「さて、今日のところはこんなところだ。私達はこれから個別で訓練を行うが、鴻川は私達の訓練を見学するもよし、守備隊の様子を見てきても良い。好きにするといい」

「分かりました。そうさせて……」


 そこまで言いかけて鈴音は自身を瑠璃がジッと見ているのに気付く。先ほどまでのような好奇心溢れる視線ではなく、どこか期待するような目だ。

 自由にしてもいい、と言われた手前、彼女との手合わせもまた一興と言えるが、到底そんな気分では無いのだろう、瑠璃の期待を籠めた眼差しからひたすら視線を逸らしている。


「瑠璃」

「うー……。分かった」


 紅葉に諫められ、また鈴音にその気が無いと理解したのか、千鳥を連れて訓練場を出ていく瑠璃。その後ろ姿を見て、鈴音は小さく息を吐く。


「少々マイペースだが、悪い奴じゃない。すまないが、時々構ってやってくれないか?」

「え? あ、はい。余裕があれば、ですが……」

「すまないな」


 それだけ言うと、紅葉もまた、自身の訓練へと移っていく。そして、それは他のメンバーもまた同じ事だ。

 鈴音は各々自身の訓練を行う彼女達を見て、どうしようかと悩んでいたが、一先ず一通り見回る事に決めたようだ。その足は、ゆっくりとメンバーの一人の元へと向かって行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る