第一話『初めての調合』
目が覚めると、あたしは土のにおいがする地面に仰向けにひっくり返っていて、目の前にはどこまでも青い空が広がっていた。
本当に異世界転生しちゃったんだろうかと思った矢先、あたしの視界の隅を立派なドラゴンが飛び去っていった。あー、これはバッチリ異世界だわ。
一度深呼吸をした後、ゆっくりと体を起こして五体満足か確認する。うんうん。右手ある。左手もある。
そして安堵するあたしの手には、いかにも錬金術師が持ってそうな杖があった。うっわー、本物! 何の金属でできてんのかさっぱりわかんないけど、この装飾とか、間違いなく本物だわ!
嬉しさのあまり、立ち上がってぶんぶんと意味もなく杖を振り回す。その拍子に、腰元のポシェットの存在に気がついた。何か入ってんのかしら。
不思議に思いながらチャックを開けると、一通の手紙が飛び出してきた。おそるおそる開いてみると、それは例の神様からの手紙だった。
「転生者メイへ。伝え忘れていたのじゃが、お主の『最強の錬金術師』という願いを叶えるために、チートアイテムを用意した。しっかり役立てるのじゃぞ」
そんな文章の下には『伝説のレシピ本』、『究極の錬金釜』、そしてこのポシェット……『容量無限バッグ』の取扱説明書がついていた。ほうほう。伝説に究極、そして無限ときましたか。厨二心、くすぐってくるじゃない。
新しい玩具を買ってもらった時のような、ワクワクした気持ちで説明書を読み、大体の使い方を理解する。
容量無限バッグはまるで青い狸のポケットのように、アイテムや素材がいくらでも入る代物だった。ただ入るだけじゃなく、自動で整理整頓もしてくれ、望んだものをすぐに取り出せる仕様だ。うん。さっそくチートだわ。
残りのチートアイテムである伝説のレシピ本と究極の錬金釜もこのバッグの中に収納されているらしく、試しに引っ張り出してみたら、錬金釜の方は予想外に大きくて、地面に置くと砂埃が舞った。大体、直径2メートルって感じ?
「で、こっちがレシピ本ね。どれどれ……」
続いて、ずっしりと重い辞書みたいな本を手に取る。表紙は青色をベースに美しい金細工が施されていて、いかにもな雰囲気。パラパラとめくると、定番のポーションから賢者の石の作り方まで、全部載ってた。これ、垂涎ものだわー。
「いやー、マジで攻略本手に入れた気分。さっそく試してみよ」
思い立ったらなんとやら。あたしはさっそく、レシピ本の一番最初のページに書かれたポーションを作ってみることにした。
『ポーション 必要素材:植物・水』
書かれていた材料は以上。なんかざっくりしてるけど、植物ってその辺の草でいいのかしら。
あたしは立ち上がって周囲を見渡す。おあつらえ向きに草が生えている場所があった。その向こうには小川も流れているし、水も難なく手に入りそう。
「なーにができるかなー♪」
まぁ、できるのはポーションなんだけど。なんて考えつつ、あたしは適当に採取した緑色の草と川の水を、これまた適当に究極の錬金釜に放り込んだ。
……すると、特にかき混ぜたりすることもなく光が溢れ、瓶に入った緑色の液体が吐き出された。え、これで完成?
手に取った瞬間、理由はわかんないけど、ポーションってわかった。たぶん、そういうものなんだろう。
試しに一口飲んでみると、HPが回復した気がした。自分のHPがどれくらいあるのか、わかんないけどさ。
「き、君。その手に持っているのはポーションかい?」
何とも言えない充実感に浸っていた矢先、銀色の甲冑を身につけた、ファンタジーの塊みたいな兵士が声をかけてきた。ところで、どうしてこの世界の言葉が分かるんだろ。謎だけど、この際気にしないことにしよ。
「いかにも、ポーションですが?」
そしてあたしはわざとらしく瓶を振ってみせる。続けて「これが欲しいんですか?」と問うと、「是非譲って欲しい」とのご返答。
見ればこの兵士さん、随分ボロボロだった。話を聞いてみると、戦場から命からがら逃げてきたらしい。
「それはさぞお困りでしょう。欲しいだけ譲ってあげますよ。格安で」
もう一度、チャポンと瓶を揺らす。あたしにも当然良心はあるけど、タダであげるわけにはいかない。あたしの夢は錬金術を使いながら旅をすること。旅をするにはそれなりにお金が必要だから、こういうところで少しずつでも稼いでいかないと。地道なお金稼ぎ、大事。
「もちろんだ。このような場所だし、店の販売価格より高く買わせてもらうよ。一本200フォルでどうかな」
……フォル。どうやらそれがこの世界のお金の単位らしい。
お店の値段より高く買い取ってくれるということで、あたしはその取引を承諾。先程と同じように川の水とその辺の草でポーションを作り出し、兵士さんへ売り渡した。その数、6本。一気に1200フォルも儲かった。
材料費はタダ同然だし、この商売ヤバいわね。
○ ○ ○
……それから浴びるようにポーションを飲んで回復した兵士さんは、リチャードと名乗り、改めてお礼を言って去っていった。どうやらあの人、ただの兵士じゃなく、この近くの街で騎士団長をしてるみたい。
続いて聞いた話によると、あたしが倒れていたこの場所は街道らしく、まっすぐ進めば街にたどり着けるらしい。
「これだけあれば宿代は足りるだろうし、とりあえず街に向かって歩こうかしらねー」
余ったポーションをくぴくぴと飲みながら、あたしは歩き出す。
伝説のレシピ本にはあらゆる錬金アイテムの作り方が書いてあるし、究極の錬金釜のおかげでまず失敗しない。材料も無限に持ち歩ける。
素材を集めながら旅をして、ゆくゆく素材が集まったら、賢者の石を生み出して金を量産して大金持ち。最高の人生設計だと思う。異世界転生。夢の錬金術師生活。悪くない。
あたしの錬金術師としての第一歩が今、始まった。
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