第十二話『謎のドラゴンを討伐せよ』

「食らいなさい、ビリドラボム!」


 突如として出現したミラージュドラゴンに向けて、あたしは雷の爆弾を投げ放つも……奴はその銀色に輝く翼を盾に、爆風を難なく防いでいた。


「き、傷一つつけられないなんて……どれだけ頑丈なの」


「それなら魔法です! ファイアーボール!」


「あ、フィーリちゃん、ちょっと待って!」


 直後にカリンが叫ぶも、フィーリは赤いオーラを身にまとい、杖の先から火球を飛ばす。


 それは竜の体を直撃するも、まるで鏡のような鱗に弾き返されて方向を変え、あたしのほうへ向かってきた。


「え、ちょっとー!?」


 全力で横っ飛びし、なんとかその火球を回避するも……飛竜の靴の性能を持ってしてもギリギリだった。正直、服の端が少し焦げた。


「あ、あっぶなぁ……」


「ミラージュドラゴンはあの鱗で魔法は跳ね返しちゃうんだよ。フィーリちゃんってば、伝える前に攻撃しちゃうんだもの」


「そ、そんな……わたしの取り柄が……」


 その事実を伝えられると、フィーリはほうきの高度を下げながら、がっくりとうなだれる。


「でも、世界の竜百科の95ページによると、あいつは背中が弱点らしいから。そこに思いっきり強い攻撃を加えれば、きっと倒せるよ!」


 カリンは握りこぶしを作りながら力説するも、常に空を飛んでいる飛竜の背中をどうやって狙えばいいのかしら。


 重力ボムの効果で地面に押さえつけようにも、高すぎて届かないし、飛竜の靴の機動力を使っても、一対一で背中を見せてくれるかどうか。


「……メイさん、わたしが囮になりますので、その間に背中を攻撃してください」


 フィーリはそう言うが早いか、あたしに自分のほうきを差し出してくる。


 これは錬金術で作ったほうきなので、魔法使いじゃないあたしも扱うことができる。できるけど……。


「囮なんて、いくらなんでも危ないわよ?」


「それは覚悟の上です! こうみえて、わたしも成長してるんです。まかせてください!」


 複数枚の属性媒体を取り出しながら、フィーリは覚悟を秘めた目であたしを見てくる。


「……メイ、任せてみなよ。本当に危なくなったら、ボクたちもできる限り彼女をサポートをするからさ」


 それでも思い悩んでいると、ルメイエがそうフィーリの肩を持つ。


「……わかったわ。フィーリ、お願いね」


「おまかせください!」


 結果的にあたしが折れると、フィーリは元気よくうなずき、すぐに身体能力強化魔法を発動した。


 そして飛竜へ一気に近づくと、杖の代わりに爆弾を構え、投げ放った。


 その攻撃は竜の翼によって容易く防がれてしまったけど、あたしは驚きを隠せなかった。


 囮になるとは聞いていたけど、まさか錬金術で作った道具を使うなんて。


「メイさん、いまのうちに!」


 魔法によって身体能力を上昇させたフィーリは、右へ左へと移動しながら、手持ちの爆弾で攻撃を続ける。


 その威力は微々たるものでも、竜の気をそらすには十分のようだ。


 フィーリが錬金術で戦っていることに感動すら覚えながら、あたしは彼女から借りたほうきに飛び乗って、一気にその背後へと向かう。


 その手には、あの子の魔力がチャージされた魔力ボムがある。


 フルチャージすると周囲一帯を灰燼かいじんに帰すほどの威力があるので、現在の威力は最大値の二割ほどに抑えてある。それでも、奴を倒すのに十分な威力があるはずだ。


「……あった。あそこが弱点ね!」


 思案しながら竜の背後に回り込むと、その背から尾にかけて、明らかに鱗の薄い部分があった。


 そのまま魔力ボムを投じようとした時、竜が咆哮して周囲の空気が震える。

……直後、奴はその口からブレス攻撃を繰り出した。


「フィーリ、危ない!」


 フィーリの周囲に展開されていた見えない盾が即座に反応するも、その攻撃範囲は広く、とても防ぎきれそうになかった。あたしはとっさに目をつぶってしまう。


「……やっぱり来た! ドラゴンブレス!」


「カリンの言ったとおりだね。やるよ。せーの!」


 その時、ルメイエとカリンの声がした。


 慌てて目を開けて見ると、二人は絨毯から飛び降り、フィーリと並び立った。


 必然的に見えない盾が三枚並ぶこととなり、それによってブレス攻撃をやり過ごすことができていた。


「……ふう。なんとかなったみたいだね」


「お、お二人とも、ありがとうございます」


「フィーリちゃん、気にしなくていいよー。三本の矢ならぬ、三枚の盾って感じだね!」


 カリン……それ、あたしにしか通じないわよ……なんて内心苦笑しつつ、ミラージュドラゴンの背に向けて魔力ボムを投下。すぐさまほうきを反転させ、できる限り距離を取る。


 一瞬の間をおいて炸裂したそれは、青い火球となって竜を飲み込み、そこから発せられた衝撃波は周囲の森の木々をなぎ倒すほどの威力だった。あたしも危うく、ほうきから振り落とされるところだった。


 その光と音の波が収まると、飛竜はかろうじて原形をとどめた状態で、地面に横たわっていた。


 フィーリの頑張りと、ルメイエたちの機転。あたしたち皆で掴み取った勝利だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る