第十一話『魔物の群れを倒せ』
「それじゃ、やるわよー! まずは足止め!」
あたしは絨毯から降りると、迫りくる魔物たちの眼前に無数のトリモチボムをばらまく。
それは直後に炸裂し、粘着質のある灰色の液体が街道いっぱいに広がった。
「グギャア!?」
先頭を走る魔物たちがそのトリモチに足を取られ、群れの動きが一気に遅くなる。
「フィーリ、やっちゃってー!」
「はい! ウィンドカッター! アイスニードル!」
そこを狙ってフィーリの魔法が発動。風の刃と氷の槍が魔物たちの頭上から降り注ぐ。
「おお、フィーリちゃんすごい……さすが本職……!」
属性媒体を使い分けながら華麗に宙を舞うフィーリを見ながら、カリンが目を見開く。
ほうきに乗ったフィーリに対し、地上のゴブリンたちも投石で対抗するも、見えない盾が全て防いでくれていた。
「あたしも負けてらんないわねー。重力ボム! からの、ビリドラボム!」
謎の対抗心を燃やしながら、あたしは飛竜の靴で跳躍。高重力を発生させる爆弾で魔物たちの動きを封じたあと、雷の爆弾で一網打尽にする。
「ちょっとメイ、あまりやりすぎると、せっかく直した街道が崩れてしまうよ」
「ちゃんと考えてるわよー。フィーリも、最上級魔法は使っちゃダメだからね!」
「わかってます! ファイアーボール!」
ルメイエにそんな言葉を返しつつ、あたしたちは魔物の掃討を続ける。
遠距離攻撃もほぼ無力化し、飛行能力を持つ魔物もいない。一方的な展開だった。
「フィーリちゃんの魔法もさることながら、メイ先輩の爆弾もすっごい威力。これだと私が弱点伝える意味ないかも……え?」
その時、後方で戦いを見守っていたカリンが驚愕の声を上げる。どうしたのかしら。
「フィーリちゃん、危ない!」
カリンがそう叫んだ直後、どこからともなく巨大な岩が飛んできた。
「うひゃー! かすりました! かすりました!」
ギリギリのところで大岩を避けたフィーリは涙目だった。見えない盾を展開していたとはいえ、あのサイズの岩が直撃していたら無事では済まなかっただろう。
「え、なにあれ」
視線を魔物の群れに戻すと、群れの奥にひときわ大きな魔物が見えた。その見た目はまるでレンガの巨人のようだ。
「ブロックゴーレム!? あんなの、この周辺にはいないはずなのに!?」
カリンが狼狽えながらそう口にした時、彼女が乗る絨毯に向けて巨岩が飛んでくる。ルメイエがとっさの判断で絨毯を動かし、難を逃れていた。
「いないもなにも、実際に目の前にいるじゃないか。メイ、なんとかできるかい?」
「あの投石攻撃はやばいわね。フィーリ、あいつから先に倒すわよ!」
「はい!」
あたしはフィーリに指示を出したあと、群れの上を跳ぶように移動していく。
「いきますよー! ライトニングスピア!」
その刹那、あたしの頭上をフィーリの雷魔法が飛んでいくも、ブロックゴーレムは全くダメージを受けていない。
「フィーリちゃん、あいつに雷は効かないよ! 顔の部分を水魔法で攻めて!」
「は、はい! ウォーターシュート!」
カリンから助言をもらったフィーリはすぐさま属性媒体を変更し、水の初級魔法でブロックゴーレムを攻めたてる。
すると、弱点属性で攻撃されたゴーレムは苦しそうにその場に膝をついた。
「今がチャンス! 食らいなさい、ビックリハンマー!」
その隙を見逃さず、バッグから取り出した武器をその脳天に向けて振り下ろす。
頭部を殴られた魔物は、その衝撃でレンガの巨体を半壊させつつ地面へと倒れ込んだ。
このハンマーは浮遊石の欠片やエルトニア鉱石を素材にしていて、フィーリの魔力がチャージされている。
その魔力を消費することで威力が格段に上昇する、いわば錬金術と魔法のハイブリッド武器なのだ。
「よーし、いっちょあがり!」
「メイ先輩やるぅ。びっくりしたー」
「メイ、手加減しろって言ったじゃないか。街道に大穴が空いたよ!」
動かなくなった魔物の背に乗って、ハンマーを手に誇らしげな顔をするも、ルメイエから呆れた声が飛んでくる。
「結果的に倒せたんだからいいじゃない。さあ、残りの魔物たちも倒しちゃうわよー!」
その後もあたしたちは魔物を倒し続け、半刻と経たないうちに群れをほぼ壊滅させるに至った。
「はー、数は多かったけど、なんとかなったわねー」
「そうですねー。さすがに疲れました」
傷の一つも負うことなく魔物を蹂躙したフィーリは、額の汗を拭いながら安堵の表情を見せる。
「ところで、けっこう魔法使ってたけど、属性媒体や魔力ドリンクは足りたの?」
「はい! ドリンクはそれなりの数を飲みましたけど、わたしも成長してるので! 魔力量も増えているのかもしれません!」
えっへん、と胸を張るフィーリを見る。その胸も心なしか大きくなっている気がするし、心身ともに成長しているのだろう。
「……キミたち、気を抜くのはまだ早いよ。何か様子が変だ」
その矢先、ルメイエとカリンが絨毯ごと近づいてきて、空中を指差す。
見ると、そこだけ空間が歪んだようになっていて、まるでブラックホールのような渦の中心には、謎の穴が空いていた。
呆気にとられながら穴を眺めていると、そこから全身鏡のような鱗を持った飛竜が飛び出してきた。
「げ、ミラージュドラゴン!? さっきのブロックゴーレムもそうだけど、こいつもこの辺にはいない魔物のはずなのに!?」
カリンは信じられないといった様子でその竜に視線を送っていたけど、現に目の前にいるんだから、どうにかするしかない。
あたしはフィーリと目配せしたあと、再び爆弾を構えたのだった。
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