第九話『村を守るために』
「ど、どうして魔物の群れが? この村の近くに、魔物の巣でもあるの?」
「そのような話は聞いたことがありませんが……川の上流から魔物の群れがやってきているという知らせが届きまして」
村長さんは顔面蒼白で言葉を紡ぎ、その場に座り込んだ。
「この村には自警団もありませんので、頼りになるのはメイ様たちしか……」
「村長、何があったんですか?」
その時、騒ぎを聞きつけた村人たちが集まってくる。
「すまぬが、村の皆に知らせてくれ。魔物の群れが現れたとな」
「ま、魔物の群れが……!? どうすればいいんだ!」
「うわーん、怖いよー!」
あたしたちが止める間もなく、村長さんは魔物襲来の事実を村人へと伝えてしまう。その話は瞬く間に村中へ広まり、大騒ぎになった。
「あっちゃー、これって、一番やっちゃいけないことだよねー」
「そうねぇ……この事態、どう収集しようかしら」
恐怖で逃げ惑う村人たちを見ながら、あたしとカリンは顔を見合わせる。
そうこうしている間にも、噂が噂を呼び、『メノウの騎士団でも倒せなかった魔物の群れが来る』だの、『山と同じ大きさのドラゴンが来る』だの、どんどん話が大きくなっていく。
「皆、落ち着いてー!」
声の限り叫ぶも、恐怖に支配された皆は聞く耳をもたず。村長さんになんとかしてもらおうと隣を見るも、オロオロするばかりだった。
あたしは思わずため息をついたあと、頭上に向けて爆弾を投げ放つ。
やがて乾いた音がして、皆の視線があたしに集まった。
「魔物たちは川の上流からやってきてるみたいよー! この村に来るまでまだ時間があるし、あたしたちがなんとかするから、皆は家の中に隠れててー!」
そう声を張り上げると、村人たちは一様にうなずいたあと、我先に家の中へと駆け込んでいく。
中には、「魔女様が言うなら大丈夫だ」なんて言葉も聞こえる。
あたしは錬金術師だけど、この際どうでもいい。
実際問題、魔物たちが村からどのくらいの距離にいるのかわからなかったけど、これで多少の安心感は得られるはずだ。
……しばらくすると、先程までの騒ぎが嘘のように村は静まり返る。
「さすがメイ様です。一言で村人たちの混乱を収束させてしまうとは」
「それは本来、キミの役割だと思うけどね……ところでメイ、どうするんだい?」
傍らで一連の流れを見ていた村長さんがそう口にすると同時に、ルメイエが呆れ声で言う。
「魔物はなんとかする……高らかに宣言していたけど、本気なのかい?」
「本気も何も、やるって言っちゃったしねー……まあ、フィーリだっているし、大丈夫でしょ」
あたしは言いながら、万能地図を開く。
この地図は索敵モードにすれば、人や魔物の位置をある程度特定できるのだ。
「あー、大小合わせると、かなりの数の魔物がいるわね。場所は……まだかなり離れてる。足の遅い魔物がいるのか、動きはゆっくりね」
「すごーい。メイ先輩、これも錬金術で作ったの?」
「そうよー。スマホのアプリみたいでしょ」
「いや、あれじゃ動きの把握なんてできないし、それより高性能な気もする……」
あたしの手元にある地図を一瞬だけ見て、カリンが驚きの声を上げた。
そんな彼女に続くように、フィーリやルメイエ、村長さんも地図に視線を送る。
「相当な数ですな。森ではなく、川の上流にこれだけの魔物が住んでいたとは……」
村長さんはそう言って首を傾げるも、魔物は実際に存在していて、確実に村へ向かってきている。
「おそらく、大量の魔物が移動している原因は例の土砂崩れにあるんじゃないかな」
地図全体を食い入るように見ていたルメイエが、小さな声で言う。
「それって、どういうこと?」
「ここを見てごらんよ。ボクたちは川や街道周辺の土砂は撤去したけど、もっと上……山のほうの土砂には手を付けていないだろう? あそこが魔物たちの巣になっていたとしたら?」
「住む場所を追われて街道にあふれ出て、道に沿って移動し始めた……ってこと?」
「あくまで憶測だけどね」
ルメイエは得意げな顔で言う。彼女の意見は理に適っていた。
「むー、原因がわかったとして、魔物さんたちを説得はできませんよね?」
その小さな体を左右に揺らしながら、フィーリは眉をひそめる。
確かに、この先には村があるから、大人しく帰りなさい……なんて言ったところで、まず伝わらないだろう。
「なるべく倒さないで、山に追い返す方法を考えてはみるけど……」
あたしはそう言ってから究極の錬金釜を取り出し、思いつく限りの道具を調合していく。
「まずは動きを封じるトリモチボムでしょ。スリープボムで眠らせるのもありかもしれないし、驚かしたら逃げるかもしれないから、ビリドラボムも……」
「むむむ……やっぱり片手間に調合できてしまうなんて反則です! ずるいです!」
ぽいぽいと素材を投入し、次々と道具を完成させるあたしを、フィーリは睨んでくる。
そんな目で見られたって、レシピ本に載っているものであれば極めて短時間に、ほぼ確実に成功させるのが、あたしの持つチートアイテム……究極の錬金釜の特徴だ。今更何を言われようと、これがあたしのアイデンティティーなのだ。
「……大体こんなもんかしら」
それからしばらくして、あたしは完成した無数の道具たちを見渡す。これだけあれば、あの数の魔物たちとも渡り合えると思う。
「それじゃあ村長さん、あたしたちは魔物を止めに行ってくるから、あとはよろしくね」
戦闘用の道具を全て容量無限バッグに収めたあと、村長さんにそう伝えながら、あたしとルメイエは空飛ぶ絨毯に乗り込む。
その隣で、フィーリもほうきにまたがっていた。この子も出発準備万端のようだ。
「あのー、メイ先輩、少しお願いがあるんだけど」
魔物のひしめく地へ、いざゆかん……としていた時、カリンがおずおずと手を上げた。
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