第三十二話『焼きそば対決!?・その②』
「リティちゃん、久しぶりねー。おめかししてるからわからなかったわー」
「お久しぶりです。私も一瞬、メイさんだとわかりませんでした」
そう言って笑顔を向けてくれたのは、山裾の村で父親や弟と暮らす少女、リティちゃんだった。
「ところで、どうしてこんなところで焼きそば売ってるんです?」
その代金を手渡してくれながらも、不思議そうに首をかしげていた。
「あはは、それがねー」
あたしも品物を渡し、これまでの経緯を簡単に話して聞かせた。他に並んでいるお客さんもいないし、いいわよね。
「……はぁ、つまり、向こうの魔法使いの子と売上対決をしていると」
「なりゆきでそうなっちゃってねー。まぁ、結果は火を見るより明らかなんだけど」
ちらり、とフィーリのほうを見る。相変わらず行列ができていて、順調に焼きそばを売りさばけているよう。
あの調子だと、あたしのストックしてる麺が必要になるのも時間の問題かもねー。
「姉ちゃん、ごはん買えた!?」
そんなことを考えていた時、飛び跳ねるようにして一人の男の子がやってきた。リティちゃんの弟、ティム君だ。
「買えたわよ。それよりほら。メイさんよ」
「ホントだ! メイ姉ちゃん、こんにちは!」
リティちゃんに言われて気づいたのか、ティム君が両手を振りながら挨拶をしてくれる。あたしも鉄板越しに笑顔で手を振り返した。
「さすがに二人だけでここまで来るのは無理だろうし、お父さんも一緒なの?」
「はい。と言っても人が多すぎて、はぐれてしまったんですけどね」
「父ちゃん、大人なのに迷子なんて、しょうがないよな!」
姉弟揃って笑う。どっちが迷子なのかしらと思うも、リティちゃんがしっかりしてるし、心配はなさそう。
「……それにしても、村からここまで結構距離あるはずよね。馬車で来たの?」
「いえ、メイさんのおかげで村の暮らしにもだいぶ余裕が出てきましたが、さすがに馬車に乗るお金は確保できなくて。歩いてきました」
「歩いてきた!?」
思わず大きな声を出すと「えへへ、一週間くらいかかりました」と、特に苦でもなさそうに言った。
どうやらこの二人にとって、この祭りはそれだけの移動時間を要してでも参加したかったイベント……ということなのだろう。
「姉ちゃん、姉ちゃん! やきそば、食べていい!? ぼく、もうお腹ぺこぺこだよ!」
思わず感心していると、ティム君がそう言いながらリティちゃんにすがりついていた。
あーもう、一挙一動が可愛いわねぇ。
「そうね。どこか落ち着いて食べられそうな場所は……」
リティちゃんはキョロキョロと周囲を見渡すも、どこも人だらけ。空いている場所といえば、錬金焼きそばに恐怖して人が近づかない、あたしの屋台周辺くらい。
「この辺が空いてるから、適当に座って食べてくれていいわよー。向こうのテーブル席も全部埋まっちゃってるしさ」
そう伝えると、リティちゃんたちはお礼を言って、屋台の脇に腰を落ち着ける。
そして挨拶をして、錬金焼きそばを食べ始めた。
「うわー! おいしいー!」
……直後、ティム君が心の底から美味しそうに言った。
「ちょ、ちょっとティム、恥ずかしいから大きな声出さないの」
「だっておいしいもん! ぼく、こんなおいしい焼きそば初めて!」
ニッコニコの笑顔で言って、錬金焼きそばを次々とフォークで口に運ぶ。本当においしいのか、今にも踊りだしそうな勢いだった。
「ほら、姉ちゃんも食べてみて!」
「……あ、本当。食べたことない味だけど、おいしい」
弟に急かされるように、リティちゃんも焼きそばを口にする。その反応からしてお気に召した様子だ。
「なぁ……あれ、本当にうまいのかな」
「香りは良いが、うーむ……」
……そんな姉弟の無邪気な食レポが功を奏したのか、店の前を行く人が数名、足を止めていた。
「よし……俺、買ってみるよ。300フォルなら出せない額じゃないし」
そのうちの一人がそう言い、覚悟を決めたような顔でお店に向けて歩いてきた。
「いらっしゃいませー。錬金焼きそば、いかがですかー?」
これは、リティちゃんたちに感謝だわ……なんて心の中で思いつつ、努めて冷静に接客したのだった。
……それをきっかけに、その後はかなりの人数が錬金焼きそばを買いに来てくれ、売上も急激に伸びた。
だけど、フィーリにスタートダッシュを決められていたのが響き、最終的な売上はフィーリが焼きそば30人前。
対するあたしが20人前と、完敗だった。
「まー、結果的に食材全部売り切ったんだから、良しとしますか。ちょっとだけ、悔しいけど」
大盛況だった海祭りも終わり、夕日が海の向こうへと沈む中、あたしは屋台の片付けを手伝いながら、思わずそう口にする。
「まさか、焼きそばを全部売り切ってしまうとは思いませんでした。本当にありがとうございます」
ようやく体調が戻ったクレアさんが鉄板を洗いながら言う。
「あまり褒められたものじゃないかも。勝手に値下げしちゃったしさ。その分、自前で出すから」
そのタイミングで、あたしは焼きそばを勝手に値下げしたことを謝り、差額を支払うと申し出る。
だけど、彼女は笑って許してくれたばかりか「これ、バイト代とお礼です」と、あたしたちに売上の一部を渡してくれたのだった。
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