第十七話『いざ、鉱山都市へ!』


 山裾の村を発ったあたしたちは、鉱山都市エルトニアへと続く街道に沿って絨毯を飛ばしていた。


「おおおおーー」


 そんな絨毯の上で、カリンははしゃいでいた。


「……前も一度乗せたことがあるよね。何をそんなに感動しているんだい?」


「いやー、乗り物って偉大だなーって、しみじみ感じてるところ。文明の利器ばんざい!」


 流れるように通り過ぎる景色を見ながら、カリンは感嘆の声を漏らす。


「見てよ。あの石だらけの道。私、あそこを何日もかけて歩いてきたんだよ?」


 続いて絨毯の端から身を乗り出して眼下の街道を指差す。絨毯の上を所狭しと動き回り、本当に落ち着かない。


「あたしも旅を始めた頃、この道を歩いたわねー」


「メイ先輩も? やっぱり大変だったよねー。わかってくれる人がいて嬉しいよー」


 先日フィーリからプレゼントされた容量拡大バッグを大事そうに抱えつつ、彼女はニコニコ顔で絨毯の中央に戻ってきた。


 せっかく親近感を持ってくれているので、悪路に耐えかねて空飛ぶほうきを調合したことは黙っておく。


「でも、この道がきちんと整備されれば、往来も楽になると思うんだけどなぁ。この範囲に落石ネットを設置するのはさすがに無理そうだけど、せめてアスファルトで舗装したい。メイ先輩、調合できない?」


「調べたことすらないけど、仮に調合できたところで舗装する技術がないわよ」


 次にそう訊いてくるカリンに、あたしは苦笑しながら言葉を返す。


「そっかぁ……じゃあ、フィーリちゃん、落石が起こらなくなる魔法とかないの?」


「山ごと吹き飛ばせば、落ちてくるものもなくなりそうですが」


「……そんなことしたら、街道ごと地図から消え去ってしまうじゃないか。フィーリも真面目に答えるんじゃないよ」


 まるで日向ぼっこをする猫のように絨毯に寝そべっていたルメイエが、気だるげに呟く。


 確かにその通りなのだけど、このままだと荷馬車が通るのも一苦労だ。なんとかできないものかしら。



 ……そうこうしていると、あっという間に鉱山都市へと到着した。


「は、早い……まさか、一時間かそこらで着いてしまうとは」


 目の前に広がる街並みを見上げながら、カリンは驚嘆の声を上げる。


 そんな彼女をよそに、あたしは手頃な場所に万能テントを設置していた。


「……あれ? メイ先輩、街に来たのにわざわざテント張るの?」


「そーよー。この街の宿屋、大部屋に皆で雑魚寝でしょー。さすがに不安だから」


「外でテント生活っていうのも、十分不安なんだけど……」


「このテントのセキュリティは厳重だからいいのよ。自律人形たちを見張りに立たせることもできるしさ」


 あたしは言いながら、容量無限バッグから二体の自律人形(液体)を取り出す。


 地面に降り立った彼らは、その銀色の体を人の上半身のように変形させた。


「うわ、何この銀色のおばけ」


「失礼な言い方しないのー。この子たちは液体金属でできた自律人形で、頭もいいんだから」


 明らかに引いているカリンに、あたしはそう説明してあげる。自律人形たちはそれに応えるように、大きく胸を張った。


「自律人形ってことは、ルメイエちゃんと同じだよね? 悪いけど、ルメイエちゃんのほうが100倍かわいいよ」


「持ち上げてくれるのは嬉しいけど、背後から抱きしめるのはやめてくれるかい?」


 ルメイエがなんともいえない顔をする一方で、自律人形たちはがっくりとうなだれていた。


「ほ、ほらほら、テントの見張りはあんたたちにしかできないんだから、頑張って!」


 あたしは彼らを励ますように言ったあと、そそくさと外出の準備を始めたのだった。


「……それじゃ、見張りよろしく!」


 びしっと息のあった敬礼を返してくれた自律人形たちに見送られ、あたしたちは万能テントを後にする。


「私は商人ギルドに行ってくるねー。三人は採掘ギルド?」


「一応そのつもり、なんだけど……」


 そこまで言って、あたしは言葉に詰まる。


「じー」


 ……隣を歩くフィーリが、何か訴えるような視線を向けてきていた。


「じぃぃー……」


「……わかったわよ。採掘ギルドにはあたしとルメイエの二人で行くから、フィーリは自由行動していいわ」


「わーい! ありがとうございます!」


 飛び跳ねながら言って、フィーリはバッグからほうきを取り出す。


「いつでも連絡できるように、トークリングだけはつけときなさいよー?」


「わかってます!」


 彼女は右腕にはめた金色の腕輪を見せるように手を振ったあと、ほうきに乗って颯爽と飛び去っていった。


「予想通りというか……リディオに会えるのを本当に楽しみにしてたんだね」


「みたいねー。かなり久しぶりだし、まー、いいんじゃない?」


「なになに? もしかしてその子、フィーリちゃんの彼氏だったりする?」


「いいから、あんたは早く商人ギルドに行きなさい」


 その手の話が好きなのか、瞳を輝かせるカリンを軽くあしらって、あたしたちは採掘ギルドに向けて歩き出した。

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