第二十五話『ルマちゃん、まさかの乗車拒否!?』
「え、ルマちゃん、無理ってどういうこと?」
予想していなかったルマちゃんの返答に、あたしは動揺しながら言葉を紡ぐ。
まさかルマちゃん、どこか怪我していて遠くまで飛べないとか?
もしくは、山岳都市の周辺は気流が激しくて、空からは近づけないのかしら?
「そんな泣きそうな顔しないでよ。理由は簡単。単純に定員オーバーなの」
頭の中に様々な理由が浮かんでは消える中、ルマちゃんは片方の翼をばさばさと動かしながら言う。
「ルメイエとフィーリちゃん、この二人なら軽いし、アンタと三人乗っても問題なく飛べるわ。だけど、立派な大人がもう一人追加となると、話は別よ」
ルマちゃんはそう言いつつ、カリンを見た。しかも、その背にはパンパンに膨れ上がった容量拡大バッグまである。総重量がいくらになるか、わかったものではなかった。
「そ、そんな……私の旅は出発することなく終わってしまうのか……」
その視線の意味に気づいたカリンは、へなへなとその場に座り込んでしまう。
「さすがに可哀想ですよ。ルマちゃんさん、なんとかしてあげられないんですか?」
「そう言われてもねぇ……仮に飛べたとしても、背中に四人は不安定すぎるのよ。飛行中に落っことしでもしたら、それこそ一巻の終わりでしょ?」
その様子を不憫に思ったフィーリがたまらず声をかけるも、ルマちゃんは彼女をなだめるようにそう言った。
ルマちゃんの言葉は正論そのもので、フィーリも押し黙ってしまう。
「……つまり、ボクたちの安全が保証できれば、運んではくれるのかい?」
その時、それまで静かに話を聞いていたルメイエが口を開く。
「へっ? そりゃ運んであげるけど……何か策でもあるの?」
「あくまで可能性の話だけどね……メイ、以前、ロゼッタが飛ばした飛行船を覚えているかい?」
「あー……言われてみれば、そんな乗り物あったわねー」
ルメイエに言われ、あたしはようやくその存在を思い出した。
一度だけ乗せてもらったことがあるけど、錬金術の街マナニケアがその技術の粋を集めて作り出した空飛ぶ船で、圧倒的な移動速度と快適さを誇っていた。
「え、ちょっとルメイエちゃん、この世界、飛行船とかあるの!? それを早く言ってよ!」
「カリン、話は最後まで聞きなよ。あるにはあるけど、世界に一台しかない試作品で、おいそれと飛ばすことはできないんだ」
勢いよく起き上がって瞳を輝かせるカリンを押し留めつつ、ルメイエは続ける。
「その飛行船を調合する過程で、いくつか空を飛ぶ乗り物のレシピが見つかったんだ。その中に、『熱気球』と呼ばれるものがあった」
「熱気球」
直後、あたしとカリンの声が重なった。
「ロゼッタも一度だけ調合したことがあるそうだけど、搭乗可能人数が少ない上に動力はなく、移動が風まかせなのがネックとなって、実用化には至らなかったらしい」
「それってさ……完成した気球をルマちゃんに引っ張ってもらえば、動力の問題は解決するんじゃないかしら」
「その通りさ。彼女が動力となってくれるのなら、あらゆる問題は解決したも同じだ」
言い終わると同時に、ルメイエはルマちゃんを見る。それにつられるように、あたしたちも彼女へと視線を向けた。
「気球なら、アタシも元の世界で見たことあるし……サイズにもよるけど、浮力があるなら引っ張れないこともないと思うけど」
皆の注目を浴びたルマちゃんは、少し悩んだあとにそう口にした。
それによって希望が見えたあたしは、熱気球のレシピを調べるべく、意気揚々とレシピ本を開いたのだった。
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