第二十六話『熱気球の調合!』
それから伝説のレシピ本をパラパラとめくっていると、ルメイエの言っていた通り『熱気球』のレシピが出てきた。
その調合に必要な素材は、大まかに2種類。大量の布と、同じく大量の植物だ。
この布たちは気球の本体部分になり、植物たちは四角いゴンドラ部分になるらしい。
「ふむふむ。数は必要だけど、素材はいたってシンプルね」
レシピ本を見ながら一人頷き、容量無限バッグから必要素材を片っ端から取り出していく。
次に、取り出した素材たちを究極の錬金釜に放り込み、ぐるぐるとかき混ぜる。
「よーし、熱気球の完成!」
やがて虹色の渦の中から、空間法則を無視した巨大な気球が飛び出してきた。
立派なゴンドラもついていて、本体部分を膨らませれば、すぐにでも飛び立てそうだ。
「はー、一瞬でできちゃったね……さすがメイ先輩の錬金術」
「相変わらず、反則だよ」
そんな言葉を漏らすカリンとルメイエを尻目に、あたしは長いロープを調合。それを気球とルマちゃんの体にそれぞれ結びつけておく。
「これが空を飛ぶんですか? 布でできた大きな袋にしか見えませんが」
さらに通話用のトークリングをルマちゃんに手渡した時、地面に横たわる気球を見ながらフィーリがそう口にする。
「それが飛ぶのよー。そのためには、フィーリの力が必要になるんだけど」
「……はい?」
言うが早いか、あたしは彼女の小さな両肩をしっかりと掴む。
熱気球を飛ばすには、袋状になった気球本体に風を送って膨らませたあと、その内部の空気を温めることで気圧を変化させ、浮力を得る。基本は元の世界の気球と仕組みは同じだ。
けれど、この世界には送風機もなければ、空気を温めるガスバーナーもない。
その代わりになるのは、フィーリの魔法の力だけだった。
「というわけで、まずは風魔法で気球を膨らませてくれない?」
「……ウィンドカッターでいいですか?」
「いいわけないでしょ。切り裂いてどうするのよ」
「ちぇー、わかりましたよー」
フィーリはどこか不満顔をしながら、熱気球に向けて杖を構える。反対の手には、風属性の属性媒体があった。
「いきますよー! 風よ、吹けー!」
フィーリが叫んだ直後、彼女は緑色のオーラを纏う。そしてその杖先から渦巻く風が発生し、気球をゆっくりと膨らませていく。
「いい感じよー。その調子でお願い」
「うー、なんか低出力すぎて、気持ち悪いんですが」
「頑張ってー。ある程度膨らんだら、今度は炎魔法で溜まった空気を温めてね。気球を燃やさないように、火力調整に気をつけて」
「むむむ……注文が多いですよ……」
ぶーたれながらも、フィーリは魔法を切り替える。
やがて内部の空気が十分に温まったのか、気球はゆっくりとその身を起こしていく。
「ほら皆、急いで乗って!」
それに伴ってゴンドラも上昇をはじめ、あたしたちは急いで飛び乗った。
「おおー、本当に浮かび上がりました!」
「すごいでしょー。これだったら快適な空の旅ができるわよ」
ゴンドラの縁にくっつくようにして外を見るフィーリにそんな言葉をかけてから、あたしも景色を見やる。草原の遥か向こうに山裾の村が見え、その奥にそびえる山々は些か低くなったようにすら感じる。
「……カリン、ちょっと持ち上げてくれないかい。ボクは背が低いから、壁しか見えないんだ」
「しょーがないなぁー。よいしょっと」
どこが恥ずかしそうにルメイエが言うと、カリンはわざとらしい笑みを浮かべながら彼女を抱き上げてくれる。
『うまくいったみたいねー。これなら、出発してもいいかしら?』
そんな様子を微笑ましく見ていると、あたしのトークリングにルマちゃんからの通話が入った。
「こっちは大丈夫よー。ロープ、きつくない?」
『大丈夫だけど……こんなもん結びつけてくれちゃって。別料金取ろうかしら』
「硬いこと言わないでよー。あたしとルマちゃんの仲じゃない」
『親しき仲にも礼儀ありって言うでしょ。あとで特別手当つけてもらうからね』
そう言った直後、ルマちゃんは翼を羽ばたかせた。
やがて飛び上がった彼女に牽引される形で、あたしたちを乗せた気球は移動を始めたのだった。
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