第四話『水が枯渇したわけ』


「いきますよー! ウォーターシュート!」


 ほうきに乗って水瓶の上空に浮遊したフィーリが、その広い注ぎ口に向けて水魔法を撃ち放つ。


 まるで滝が流れるような音がして、巨大な水瓶にどんどん水が溜まっていく。


 そんな様子を、あたしは空飛ぶ絨毯に乗って見ていた。


「いやー、さすがフィーリ、すごいわねー」


「褒めても水以外何も出ませんよ! メイさん、魔力補充をお願いします!」


「ほいきた! 魔力ドリンク!」


「……もう一回! ウォーターシュート!」


 投げ渡した小瓶を一気にあおってから、フィーリは再び魔法を発動させる。


 手に握られた水色のカード……水の属性媒体が光を放ち、その全身に青いオーラを纏う。


 そして構えた杖から、大量の水が溢れ出す。


 そんな作業を何度も繰り返していると、あっという間に水瓶は満杯になった。


「ありがとー。助かったわ」


「……はぁ、まったく、人使いの荒い錬金術師さんです」


 疲れた顔で言うフィーリに労いの言葉をかけて、一緒に地上へと戻る。


 そこではルメイエが子どもたちに水道の使い方を教えていた。


「……いいかい? ここを左に回すと水が出るんだ。右に回すと、水が止まる」


「すっげー! ルメイエ、これって魔法なの?」


「違うよ。錬金術だ。よーく覚えておくように。錬金術だからね」


 目をキラキラと輝かせる子どもたちに対し、ルメイエは何度も『錬金術』という言葉を繰り返していた。


 ゆくゆく水問題が解決して村に平穏が戻ったら、あたしたちはここで錬金術の学校を開く予定なのだ。先を見据えて、錬金術の素晴らしさを広めておくに越したことはない。


「レンキンジュツって魔法なのか! すっげー!」


「いや、魔法の一種ではなくてね……まったく別系統の……」


 ルメイエがさらに説明を加えるも、子どもたちは聞く耳を持たず。


 錬金術の普及……そう簡単にはいかなそうだった。


 ◯ ◯ ◯


 翌日になると、あたしたちは水路の水が途絶えた原因を探るべく、川の上流へと向かう。


 その調査に出発する際には、リティちゃんからは心配されるわ、ティム君は同行したいとあたしにすがりつくわで、色々と大変だった。


 ティム君はリティお姉ちゃんのゲンコツにも屈しない男らしさを見せたものの、帰ってきたら絨毯に乗せてあげるという条件を飲んでくれ、最終的に笑顔でお見送りしてくれた。


 ……まあ、あの水瓶を用意したおかげで当面水の心配は不要だろうし、子どもたちの作業量も大幅に減っている。あたしたちはあたしたちで、こっちに集中しよう。


「メイさん、どうして急に水路の水がなくなっちゃったんですかね?」


 川を遡るように絨毯で移動していると、あたしの隣に座ったフィーリがそう尋ねてくる。


「地震があったって言ってたし、土砂崩れか何かで川がせき止められてるんでしょうねー」


「村長の話からしてそうだろうね。村に続くこの川は支流のようだし、ちょっとしたことで流れが変わりそうだよ」


 いぶかしげな顔をしながら、ルメイエが絨毯から身を乗り出して下を覗き込む。


 眼下に見える川幅に対して、流れている水はほんのわずか。これは明らかに上流で何かが起きている。


「それにしても、川が近くにあるのに井戸を掘るなんて、変わった村ですよね」


「川の水が全部飲めるとは限らないからさ。おそらく、川の水は洗濯や畑に使っているんじゃないかな」


 再びフィーリが口にした疑問に答えてくれたのは、ルメイエだった。


 この川は鉱山都市のほうから流れてくるし、それこそ鉱石が溶け込んでいたら、飲めない場合もある。


 この世界では水質の調査なんてできないだろうし、川の水は飲むな……みたいな言い伝えでもあるのかもしれない。


 そんなことを考えながら絨毯を飛ばすことしばし。急に土の山が目の前に現れた。


「うわ、二人とも、あれ見て」


 絨毯の速度を下げながら、そんな声を出す。


「これは……予想以上に酷いね」


 そこでは、山から崩れ出た土砂が完全に街道を塞いだ上、そのまま川の八割近くをせき止めていた。


 元々の水量が少ないのか、はては支流の始まりに近いのかわからないけど、幸いなことに川が氾濫を起こしている様子はなかった。


「メイ、もう少し近づいてみてくれ。慎重にね」


 ルメイエに指示され、あたしはゆっくりと絨毯を土の山に近づけていく。


「すごいことになってますね……メイさん、これ、なんとかできるんですか?」


「容量無限バッグの能力を使えば、たぶんいけると思うけど……」


「なんじゃこりゃー! こんな大きな岩、重機でもなきゃどかせないよー!」


 考えを巡らせながらそう口にした時、積み重なった土砂の向こう側から、女性の叫び声がした。

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