第三十一話『浮島の街にて・その③』
門番の双子が飛び込んできたと同時に、外が騒がしくなった。あたしは反射的に窓から顔を出す。
「あー! あの鳥!」
そして思わず大きな声が出た。目に飛び込んできたのは、大空を舞う巨大な鳥。銀色の翼に、真っ赤な頭。あの姿には見覚えがある。確か『アルマゲオス』。山岳都市で暴れてた怪鳥だ。
「あいつ、こんな所まで来るの!?」
あたしが吐き捨てるように言うのと、「皆を避難させないと!」とララが言うのが同時だった。忘れかけてたけどこの二人、この街のリーダーだったわね。
「あいつはあたしがなんとかするから、二人は避難誘導をお願いね。建物に入ってれば、大丈夫だと思うから!」
以前、アクエがやっていた対策を思い出しながらそう伝え、あたしは錬金釜とレシピ本を取り出す。あいつと戦うには、もう少し装備を整えないと。
そんなわけで、あたしは手早く火炎放射器とトリモチボムを調合する。火炎放射器は先日手に入れた太陽の素を素材にして作れる武器で、ドラゴンのブレスよろしく、強力な炎を射出する。
あまり錬金術師っぽくないけど、こういうのも持っておく必要がありそう。もう一つの武器、トリモチボムは……いまいちなネーミングだけど、対鳥獣用の爆弾。爆発した際に粘着性のある液体が飛び散って、その動きを封じることができるらしい。
他にも使えそうな武器がないか調べてみると、『ジュンコーミサイル』なんて名前の、明らかにオーバーテクノロジーの塊みたいな武器があった。アルミナサイトとかいう聞いたこともない素材が必要だし、作れないけど。
また、防御用のアイテムとして、『迎撃用カカシ』ってのがあった。迎撃用って何。鳥を迎撃すんの? 畑に置いたら、頼りになりそうだけどさ。
○ ○ ○
子どもたちの避難が進む中、あたしは装備を整えて表へ飛び出す。
現状、あたしの最強装備は、移動手段としてのほうきと飛竜の靴。防御手段として見えない盾。メイン火力として勝手に戦う剣と全自動のこぎり、各種爆弾に、火炎放射器。だいぶバラエティーに富んできたけど、これであの鳥と渡り合えるかしら。
「そこの鳥! あたしが相手よ!」
ほうきで一気に近づいて、あいさつ代わりの爆弾を一発。やっぱり素早くて、避けられた。前回戦った時もそうだったけど、飛行時は攻撃が当たらないと思った方が良いかも。
あたしの存在に気づいたのか、怪鳥は浮島から離れて、遠くで様子をうかがうように旋回しだす。ぐぬぬ、さすがにあそこまで飛べない。
……にしてもあの怪鳥、なんで浮島までやってきてるのかしら。
あたしは遠巻きにバードウォッチングしながら、考えを巡らせる。ここ、結構空の上の方よね?
「メイさん、危ない!」
そんな声で我に返る。すると、先程まで遠くにいたはずの怪鳥があたしの方に突進して来るのが見えた。やばーーい!
ほうきを直角に方向転換し、ギリギリの所で回避。あっぶなぁ。肩、肩掠った。見えない盾、仕事しろぉ!
急ぎ振り向いて追撃に備えるけど、怪鳥の姿は見えなくなっていた。どこに行ったんだろうと思っていると、「うわあ、怪鳥が鳥小屋の方に!」という、門番の子の声が聞こえた。
一瞬、どうして鳥小屋に? という疑問が浮かんだけど、思えばあの怪鳥は肉食系女子で、トリア鳥が大好物だとアクエが言っていた気がする。なるほど。トリア鳥が食べたくて、この街を襲ったわけね。
「まずいよ! まだミーアが戻ってきてないんだ!」
勿体無いけど、鳥が食べられる程度で済むなら良いかなー……なんて思った矢先、門番の男の子が叫ぶ。ミーアって確か、鳥のお世話をしてた子よね。
「え、あの子、戻ってないの?」
「一度は避難したんだけど、ヒナ鳥が心配だって、鳥小屋の様子を見に行ったんだ!」
「それ、死亡フラグだからーー!」
あたしは叫んで、ほうきを全力で飛ばす。目指すは鳥小屋。間に合えーー!
○ ○ ○
「そこの鳥! ちょーっと待ったーー!」
あたしは全速力で鳥小屋に飛び込む。見ると、怪鳥は鋭い爪とくちばしでその屋根を滅茶苦茶にはぎ取り、今にもトリア鳥に襲いかかろうとしていた。そして、そんな鳥たちを必死に守ろうとする、ミーアの姿も。
「させるかーーー!」
あたしは怪鳥とミーアの間に割って入り、火炎放射器を最大出力で射出する。さすがに焼き鳥にはなりたくないのか、怪鳥は炎の存在を察知すると、すぐさま空へと逃げた。
「ミーアちゃん、大丈夫!?」
背後のミーアちゃんに声をかけると、か細い声で「あ、ありがとう」と返ってきた。無事を確認したあたしは、再び怪鳥へと視線を戻す。随分高い所に逃げられてしまった。火炎放射器じゃ射程が足りないし、爆弾を投げたところで届かない。どうしよう。
「……かくなる上は」
あたしは思いついた作戦を、即実行する。対鳥獣用のトリモチボムをつけられるだけ、ほうきに結びつける。つまり、ほうきをミサイルのように飛ばして、怪鳥を攻撃しようと考えたわけ。
究極の錬金釜で作った爆弾だし、それが至近距離で炸裂すれば、このほうきもさすがに耐えられないと思う。
……だけど、背に腹は代えられない。
「爆弾付きほうき、射出!」
あたしが怪鳥を指差し叫ぶと、無人のほうきは猛スピードで上空へと飛び上がる。あたしが乗っていない分、普段とは比べ物にならない速さだ。そして警戒する怪鳥を追尾ミサイルのごとく追いかけ、やがて命中。爆砕した。
……さよなら、あたしのほうき。
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