第三十二話『浮島の街にて・その④』
ほうきミサイルにくくりつけたトリモチボムが炸裂し、怪鳥はくるくると回転しながら、街の外の草原へと落下していった。
急いで状況確認に向かうと、そこには見事にトリモチまみれになって、草原にへばりついている怪鳥の姿があった。作戦成功! と、心の中でガッツポーズをしながら近寄ってみると……。
「あたた……ちょっとアンタ! 一度ならぬ二度までも! どういうつもりなの!」
突っ伏しながら、怪鳥が話しかけてきた。えぇー、こいつ、喋れるの?
「このネバネバ! ネバネバ取りなさいよ! 動けないでしょ!?」
人語を話す怪鳥は、薄緑色のトリモチを両翼にこれでもかと纏わせながらも、なんとかその場から脱出しようともがいていた。
「たーすけてー! うわーん!」
……ついに泣き出しちゃった。さすがに可哀想に思ったあたしは、この怪鳥……ううん。怪鳥さんと話をしてみることにした。事情によっては、解放してあげてもいいし。
「落ち着いてください。以前の山岳都市もそうでしたけど、どうして街を襲うんです?」
「襲う? そんなつもりないわよ。アタシはお腹が空いたから、トリア鳥を食べに来ただけ」
……言われてみれば、山岳都市でも浮島の街でも、一直線に鳥小屋に向かって行った気がする。これは本人には悪気がなくて、周囲の人間が勝手に騒いでたパターン?
「むしろ、突然攻撃を仕掛けてきたの、アンタのほうじゃない。動物虐待よ!」
「う……」
動物虐待とか、なんで魔物相手に言われなきゃいけないのよぉぉ。
「あれは正当防衛ですよ。皆が一生懸命育ててるトリア鳥、食べちゃ駄目ですって」
「薄々そんな気はしてたけど、食べちゃ駄目なら、そう言いなさいよ! 皆、怖がって逃げるばかりで、誰も教えてくれないし!」
……怪鳥さんの主張はもっともだった。
うーん、嘘ついてる感じもしないし、何も知らなかったんなら、しょうがないわよねー。
○ ○ ○
……その後、「人里にいるトリア鳥は人間が世話してる可能性が高いので、食べたくても我慢してください。人の恨みは怖いですよ」と言い聞かせてから、トリモチを外しにかかる。
「それじゃ、引っ張りますよ。そーれ!」
「あいたたた! 羽が抜けちゃう! タンマタンマ!」
右翼と地面の間に入り込んで、力づくで引き離そうとしたら、怪鳥さんが痛がった。そういえばトリモチってどうやって取るのかしら。考えたことなかった。
「腕っぷしで何とかしようとしないでよ! あんたも錬金術師の端くれなら、なんか道具作って、ぱぱーっと取り除きなさいよ!」
「……錬金術師を知ってくれてるのは嬉しいですが、なんかカチンとくる言い方ですね。私がその気になれば、この火炎放射器で周囲の草ごと怪鳥の牧草焼きに……」
「わーっ! わーっ! 冗談です! 助けてください、錬金術師様!」
ちょっと脅かしたら、土下座しそうな勢いで謝ってきた。本気で可哀想になってきたし、そろそろ助けてあげよ。
……というわけで、あたしはトリモチ用の中和剤を作ることにした。
強力な接着剤には中和剤がセットになっているように、強力なトリモチにも中和剤が存在している。レシピ本を見ると、必要な素材は油と小麦粉、そして石鹸。
「石鹸?」
思わずそう口にして、そっちの作り方も調べる。必要素材は油と灰。容量無限バッグを漁ったところ、材料は揃ってた。現実世界の石鹸と、基本的な材料は同じね。
○ ○ ○
「それじゃ、動かないでくださいね。ばしゃーっと」
ちゃちゃっと中和剤を調合し、怪鳥さんの上から振りかけてあげる。少し時間はかかるだろうけど、これでトリモチは取れるはず。
「はー、良かったぁー」
「……ところで、一つお願いがあるんですが」
「え、何よ?」
安堵したのか、大きなため息を漏らす怪鳥さんに、あたしは言葉を投げかける。
「トリモチが取れたら、私をその背中に乗せて、地上に連れていって欲しいんです。この浮島、今更ながら脱出方法がなくて」
頭を掻きながら笑ってみせると、「アンタ、脱出手段も考えずに、ここに来たの?」と呆れ顔で言われた。だってしょーがないじゃない。好奇心には勝てないんだから。
「もちろん、タダとは言いません。報酬はトリア鳥10羽でどうです?」
「少ないわよ。せめて20羽ね」
「では、それで手を打ちましょう。明日の朝には出発したいので、ちゃんとここにいてくださいね」
鳥さんは「はいはーい」と、軽く返事をした。交渉も終わったということで、あたしは一旦その場を離れる。ここを出発する前に、もうひとつだけ気になることがあったから。
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