第四十三話『フィーリ先生の魔法講座』
あたしは旅する錬金術師メイ。現在、猛吹雪によって足止めを食らっている。
「あー、暇ねー」
「暇ですねー」
一時の辛抱だろうと、万能テントに飛び込んだまでは良かったものの、それから二日間吹雪は続き、一切外には出られず。
万能テントの中は安全だし、快適なんだけど、とにもかくにもやることがない。こんなに長い間、テントの中に缶詰って状況も初めてかも。
「雪、止まないかしらねー」
「止んでほしいですよねー」
フィーリと二人、窓の外を見ながらため息をつく。ああ、採取したい! 調合したい!
「メイさん、禁断症状出てません? 大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫大丈夫。深呼吸しろ。落ち着け、あたし」
「心の声が漏れてますよ……気持ちはわかりますけど」
「ありがと……せっかくたくさんの素材が目の前にあるのに、手を出せないなんて……」
思わず、窓に張り付く。冷たさは感じないけど、窓の向こう、寒いんだろうなぁ。
「わたしも覚えた魔法、試したいんですけどねぇ。魔力が溢れすぎて、ムラムラします」
愛用の杖を手に、宙に文字を書くようにしていた。ムラムラ。よくわからないけど、そういうもんなのかしら。フィーリは膨大な魔力を持ってるし、使わなきゃいけない的な?
「そうだ。どーせやることもないし、魔法について教えてくれない?」
「え、本気ですか?」
「本気よ。最近、あたしの道具も魔力を使うものが増えてきたしさ。少し勉強しておこうかと思って」
先の自動販売機やビックリハンマーも魔力が必要だし、あたしが魔法に詳しくなれば、今後の錬金術にも生かせるかも。レシピにオリジナル要素を加えたメイカスタム、まだまだ改善の余地があるわよ。
「それじゃ、この本の内容から教えますね。言っておきますが、初歩的な内容ですよ?」
フィーリは言って、鞄から以前買ってあげた魔導書を取りだした。最近読んでいない所からして、その内容は全て頭に入っているんだろう。
「よろしくねー、フィーリ先生」
あたしは冗談半分に言って、その場で正座をした。魔法の授業なんて初めて。どんなのかしら。
○ ○ ○
「魔力の源である魔素、一般的に言うところのマナは世界中に溢れていて、あらゆる動植物、大気の中に存在するとされています。精霊と契約して、その魔力と具現化、力として行使できる人間のことを総じて『魔法使い』と呼びます」
「ふむふむ」
「……現代の魔法は、古来より存在する地水火風の4つの属性に加えて、光と闇、氷と雷の4属性が確認されています。その中でも、光と闇の魔法は扱いが難しく、消費魔力も大きいんですが、強力なものが多いんです。というわけで、メイさんには今後、四属性以外の属性媒体も作ってもらいたいところです」
「……」
「強力な魔法ほど、精霊と契約する際に交わす『契約書』の内容が濃くなります。それが呪文詠唱が長くなる要因なんですが、わたしのように多めの魔力を支払うことで、呪文を短縮し、魔法の発動を早めることができます」
「……」
「魔法は各属性につき、初級魔法、中級魔法、上級魔法、大魔法、究極魔法とランク分けされているんですが……あのー、メイさん? 聞いてます?」
「……はっ」
フィーリに肩を揺すられて目が覚める。難解過ぎて、完全に意識が飛んでた。そーいえばあたし、古文とか苦手だったっけ。
「ごっめーん。光と闇がどうこうってところから、意識飛んでた」
「思いっきり最初の方じゃないですかー! せっかく話してあげたのに―!」
むきーーー、と両手を上げて叫ぶフィーリ先生に謝りながら、やっぱりあたし、錬金術以外はまるでダメなのねぇ……と実感したのだった。
○ ○ ○
……その後、属性や呪文詠唱の部分は省いて、錬金術に関係しそうな魔力についてだけもう一度、ゆっくり丁寧に教えてもらった。
「つまり、魔力は大気中に溢れているから、それと反応させる道具を作れれば、錬金術にも魔力を利用できる……と」
一番に思いついたのは、周囲の魔力に引火させるような爆弾。基本的な爆弾のレシピを参考に、メイカスタムで作れないかしら。
あたしはレシピ本を見ながら、まずは火薬とテンカ石といった爆弾の材料を錬金釜に投入する。
本来なら、ここで錬金釜をかき混ぜて完成だけど……魔力を使った爆弾を調合するには、何が必要かしら。
少し考えて、手元にあった魔力注入ドリンクを放り込んでみた。妖精石にする手もあったけど、直感で前者を選んだのだ。さて、どうかしら。
いつもより長く渦巻く錬金釜に一抹の不安を感じたけど、やがて魔法陣がついた爆弾が吐き出された。完成……したのかしら。
その矢先、開かれていたレシピの内容が変化していく。そして『魔力ボム(メイカスタム)』と書かれたページが現れた。
え、これってもしかして。
あたしはそのレシピを確認する。必要素材は火薬とテンカ石、それに魔力ドリンク。メイカスタムって名前がついてるし、これはあたしが放り込んだ素材が偶然一致したんじゃなく、あたしが生み出したレシピがこのレシピ本に登録されたということで間違いない。
「フィーリ! これ見て!」
嬉しさのあまり飛び跳ねながら、手にしていたレシピ本をフィーリに見せる。だけど「わたしに見せられても、白紙なんですが」なんて言葉が返ってきた。
……そうだった。この本はあたしにしか扱えないチートアイテム。あたし以外の人間には、ただの白紙の本に見えるんだった。自分の作ったものが伝説のレシピ本に載った喜びを共有できないなんて……ぐぬぬ。
「それで、魔力を使った爆弾はできたんですか?」
「え、ええ。できたわよー。正確には魔力を消費して、威力を高めた爆弾みたいだけど」
言いながら、完成した魔力ボムをフィーリに手渡した。その小さな手に乗った瞬間、表面の魔法陣が淡く光り、魔力ボムがフィーリの魔力を吸い上げた。
「あー! してやられました!」
全くそんなつもりはなかったんだけど、結果的に魔力を吸い取られたフィーリは「魔力、返してください!」と、ご立腹だった。悪いけど、一度吸い取った魔力は返せないのよねー。
投げ返された魔力ボムを上手くキャッチして容量無限バッグにしまいながら、あたしは狭いテントの中を逃げ回る。
実際に使用するのはまだ先だろうけど、確かに勉強になった。今後は錬金術と魔法の良いとこどりの、ハイブリッドな道具がたくさん作れるかもしれない。ありがと! フィーリ先生!
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