第四十二話『いざ、白銀の世界へ』
「魔法使い様、船をお救いくださいまして、本当にありがとうございます」
……巨大な氷山をフィーリと協力して破壊し、船に戻ったあたしたちを待ち構えていたのは、大変偏った祝福だった。
いやまぁ、あたしのハンマーより、あの子の魔法の方が派手だったし? それは仕方ないと思うけど。
「さすが魔法使い様……いえ、魔女様ですわ」
そんな折、どっかの上流階級っぽい女性がフィーリを魔女と称えていた。あー、確かこの世界における、魔法使いの最上位の称号だっけ? そんなのあったわねぇ。
「いやー、大したことはしてないですからー」
てゆーか、フィーリも少しくらい謙遜してさ、あたしに手柄を譲ってくれてもいいと思わない? あたしも頑張ったんだから、ねぇ?
「錬金術師の一行とお伺いしていましたが、まさかの魔法使い様がご同行されていたとは。改めて歓迎いたします」
言って、うやうやしく頭を下げる支配人さんを、フィーリは笑顔で見下ろす。なんか、貫禄あるわねー。
……その後、船の危機を救った魔法使いとそのお付きの錬金術師ということで、あたしたちの待遇は劇的に改善。
バルコニー付きの特等客室をあてがわれ、北の港到着までの三日間、夢のような時間を過ごしたのだった。
○ ○ ○
港に到着し、あたしたちは上流階級用の出口から余裕をもって船を降りる。「またの乗船をお待ちしています」なんて、支配人と船長のお見送りつきだ。
「はー、快適な船旅だったわねー。特に終盤は」
「そうでしょうそうでしょう。わたしに感謝してくださいね」
えっへん、と胸を張る。客室変更が決まった時、二段ベッドとお別れするのを心底嫌そうにしてたのは、どこの誰かしら。
「それで、これからどうするんですか?」
「んー、万能地図によると、ここから街道を北上した先に、ケープって名前の街があるの。そこを目指そうと思って」
「……街道、見えませんけど」
「本当よねー」
一歩港を出ると、一切整備のされていない、一面の銀世界が広がっていた。ありふれた表現だけど、それ以外に言い表しようがない。空は晴れ渡っているけど、地面も木も山も、見えるもの全てが真っ白だった。
「……あれだけ乗ってた乗客たち、どこに行ったのかしら」
「専用の犬ソリが出るとか言ってましたよ。とっくに出発しちゃいましたけど」
そんなのがあるのなら、最初っから教えてほしかったわねー。お見送りまでしてくれたのにさ。
「まぁ、この地図があれば大丈夫でしょ。まだ時間もあるし、ゆっくり行きましょー」
あたしは強がるように言って、道なき道を歩き出す。もっこもこの毛皮のコートに手袋、耳当てに帽子と、考えられる寒さ対策はしてきたつもりだけど、北国ということもあって、顔に当たる風は流石に冷たい。
「あのー、時間あるなら、少し寄り道してもいいですか? 雪って、初めてなので」
足元の雪をさくさくと踏みながら、フィーリが目を輝かせていた。まったく、しょうがない魔法使い様ねー。
○ ○ ○
「メイさん、いきますよー!」
「ばっちこーい!」
それから少しだけ街道を逸れて、フィーリと一緒に雪だるまを作ったり、一対一で雪合戦をして遊んだ。
両手に雪玉を握りしめる様子を見ていると、本当に年相応の女の子よね。初めての雪だし、思いっきり遊ばせてあげましょ。
……その後、あたしもつい時間を忘れてはしゃいでしまった。
いやまぁ、時折珍しい素材を見つけては、採取に走ったのもあるけど。だって北国に来るの初めてだから、雪も、その下に隠れるように生える薬草も、半分凍った木も、あらゆるものが目新しかったしさ。
その結果、天候悪化の兆候を見逃してしまい、気づけば猛吹雪に襲われていた。
「無理―――! フィーリ、万能テントに緊急避難するわよ!」
「は、はい!」
空飛ぶ絨毯に飛び乗り、慌ててケープの街を目指して出発したものの、寒さと猛烈な吹雪に翻弄されて移動を断念。容量無限バッグから万能テントを引っ張り出し、その中で吹雪が止むまで待つことにした。
「うう……雪、怖いです」
万能テントの中で、雪まみれになった防寒具を脱ぎながらフィーリが呟く。色々な意味で雪の洗礼を受けちゃったわねー。
ちなみにこの万能テント、どういう仕組みかわからないけど、外気温の影響をほぼ受けない。つまり、この中にいる限りは快適というわけ。
「着替えたら、風邪ひかないように毛布でも羽織っときなさいよー」
さすがに疲れた様子のフィーリにそう伝え、あたしも服を着替える。それから「お昼は体の温まるもの作ったげるから、これでも飲んで待ってなさい」と、調合したホットココアを手渡した。
これは以前、常夏の島で採取したチョコの実と牛乳を使ったもの。温かいし、口にしたフィーリは「生き返りますぅ~」と、とろけるような表情を見せていた。
「さっきまで晴れてたのに、一気に天気悪くなったわねー」
ため息混じりに言って、あたしは窓の外に目をやる。真っ白で何も見えない。いわゆるホワイトアウト状態。
「うーん、この様子だと、今日はこのまま夜を明かすことになりそうねー」
そう口にして一旦ソファーに腰を下ろし、久々に万能地図を天気図モードに切り替えて周辺の天気を確認する。広範囲が雪雲に覆われていた。しばらく止みそうにないわねー。
最寄りの街にも辿り着けない猛吹雪を前に、あたしは「人間の力なんて、所詮自然の猛威には及ばないのね……」なんて、悟りを開いたかのように呟くのだった。
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