第四十四話『雪の街にて・その①』



「晴れたーーー!」


「旅日和ですよ―――!」


 フィーリ先生の魔法講座の翌日。空はすっきり晴れ渡っていた。あれだけ吹雪いたし、当然雪は積もってるけど、これでようやく移動できる!


「それじゃ、しゅっぱーつ!」


 半分雪に埋もれていた万能テントをしまいこむと、あたしとフィーリは新雪をまき散らしながら、各々の乗り物で雪原を飛ぶ。


 万能地図で確認した限り、15分もしないうちに街が見えてくるはず。


 ……ちなみにあの後、調子に乗ったあたしはフィーリにたくさん質問をして、さらに魔力について勉強した。


 あたしなりに噛み砕いた結果、この世界の魔力は万能性が増した電気みたいな存在で、それは多少なりとも、錬金術の道具にも応用されていたみたい。


 例えば、つるはしや釣り竿といった全自動シリーズには魔力を含む妖精石が必須だったし、これは電池みたいなものだと解釈した。


 だけど、先日調合した自動販売機のように、大きなものになると直接電気……魔力を補充する必要があるっぽい。


 かと言って、毎回魔力のチャージにフィーリの手を借りるのも悪いし、大気中の魔力を集めてストックしておける道具……言うなら、太陽光発電とか、蓄電池みたいなものが作れないか調べてみた。


 けれど、それっぽいレシピはなかった。似たレシピを探しては、思いつく素材を加えてカスタムを試みたけど、全て失敗。素材ははじき出されてしまった。


 本来なら、相性の悪い素材同士を錬金釜にぶちこんだら、どっかーん! ってなるのがテンプレだけど、それで素材を失わない辺り、究極の錬金釜のチート能力なのかも。


 でも、伝説のレシピ本を元にオリジナルレシピを作ろうと試行錯誤するあたし、すごく輝いてる!


「……なにブツブツ独り言を言ってるんですか? 聞こえてますよ?」


 思わず握りこぶしを作り、達成感に浸っていると、いつの間にか並走していたフィーリがジト目で見ていた。どうやら口に出ちゃってたらしい。


「な、なんでもないわよ!」と誤魔化して、あたしは前方に視線を戻した。


 実を言うと、なんとか自力で魔力チャージできないかと、魔力ドリンクを魔法陣にぶっかけてみたりした。効果なかったけど。


 人体を経由しないと駄目なのかしらと、初めて魔力ドリンクを一口飲んでみたけど、恐ろしく不味くて、思わず吐き出してしまった。フィーリ、よくこれを平気で飲むわねぇ。


 ……というわけで、もうしばらくは魔力チャージにフィーリの協力が不可欠になりそう。不本意だけどさ。


「あ、街が見えてきましたよ!」


 そうこうしていると、白い雪と青い空の間に、小さな街が見えてきた。ようやく人に会えるわねー。


 ○ ○ ○


「お嬢ちゃんたち、昨夜の吹雪の中を進んできたのかい?」


 雪かき作業が進む街の大通りを歩いて、最初に目についた宿屋に飛び込んだ直後、亭主からそう驚かれた。


「まぁ、色々ありまして」と、はぐらかして、数日の宿を取る。猛吹雪の中、テントで数日耐えてました……なんて言っても信じてもらえないだろうし。


 亭主は「子持ちでの旅は大変だろう」と言い添えてから、あたしたちを部屋に案内してくれる。はて? 子持ち? 子連れではなく? この亭主、まだ40代くらいに見えるけど、目が悪いのかしら。


「そうだなぁ、女性二人ならこの部屋はどうだい?」


 そして案内されたのは、二階にある、結構な広さの部屋。テーブルセットと大きなベッドが一つ置かれ、中央にだるまストーブみたいな大きな暖房器具があり、窓は二重窓。寒い地域ならではの宿って感じ。


「食事は三食とも宿代に含まれているから、後で部屋に持っていくよ。お昼は12時でいいかい?」


 それでお願いしますと伝えると、フィーリが「この宿、食堂はないんですか?」なんて尋ねる。


 すると亭主は笑って、「一階にあるけど、冬は使ってないんだ。広すぎて暖房が効かないからね」と教えてくれた。続けて、「お酒の提供もしてないんだ。酔っぱらって廊下で寝ると、凍え死ぬからね」とも。


 うーわー、それってつまり、夜は室内でも平気で氷点下になるってこと? 雪国怖い。暖房器具様様だわ。


 ○ ○ ○


 それから部屋でしばしの休息を取り、昼食を済ませてから街へと繰り出す。


「うひー、顔が凍りそう―」


 室内との温度差がある分、寒さが身に染みる。一日のうち、一番気温が高い時間帯を選んだはずなんだけど。今、一体何度なのかしら。気温計を確認してみたいような、そうでないような。


「メイさん、どこいくんですか?」


「決まってるでしょー。冒険者ギルドよ、冒険者ギルド」


 宿屋の亭主に確認したところ、こんな寒い地域でも冒険者ギルドは絶賛営業中とのこと。


 雪国限定素材も手に入れときたいし、お金も稼げるうちに稼いでおきたい。寒い寒い言ってられないわ。


「……あら?」


 フィーリと二人で白い息を吐きながら、縮こまるようにして大通りを歩いていると、賑やかな声が聞こえてきた。


 見ると、大通りの脇で何人も子どもたちが雪玉を投げ合って遊んでいた。雪に埋もれて分からないけど、元は小さな公園みたい。


「この雪の中、子どもたちは元気ねー」


「ですねぇー」


 そんな様子をフィーリと微笑ましく見て、ふと気づく。


「だーかーらー! あんたも子どもでしょ! 冒険者ギルドにはあたしが行ってくるから、あんたはあの子たちに混ざってきなさい!」


「えー、だって、寒いですよぅ」


「うっさい! 子供は風の子! 地域住民との交流大事!」


 全力で渋るその背中をどん、と押し、あたしは一人で歩き出したのだった。トークリングは持たせてるし、少しくらいなら平気でしょ。


 ○ ○ ○


「おばちゃん、この雪、もらっていい?」


「雪かきした後のだから構わないけど、何に使うんだい? 泥が混ざってるから、沸かしても飲めないよ?」


「飲んだりはしないから大丈夫よ。ありがとー」


 フィーリと別れた後、あたしは目についた素材を回収しながら、冒険者ギルドへの道を進んでいた。


 おおっ、つららゲット! 氷素材! この凍った木の枝も拾っとこ!


「いやー、街中でも色々手に入るもんねー。持ち主がいそうな品は一応確認するけど、皆簡単にくれるしさ」


 言うなら、砂漠で砂や石をくださいと言っているようなもの。ありふれていて、無価値になってる感じ。


「ああ、この氷があれば、常夏の島でどれだけ楽だったことか……」


 凍った噴水から氷の破片をいくつも拾い上げながら、呟く。思わず頬ずりしそう。


「ねぇママ、あの人……」


「ケビン、見ちゃ駄目。帰るわよ」


 ……さっきから、背中に無数の視線を感じるけど、あたしは気にしない。


 まぁ、ぶつぶつ言いながら道端の……街の住民にとってはゴミにしか見えないものを集めて喜んでる人間がいたら、気味悪がる気持ちも分かるけど。あたし、負けないから!


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