第二十九話『まさかの再会と、エルフの店員さん』


 皆と一緒にハーブティーのお店に足を踏み入れると、独特な香りが鼻をつく。


「いらっしゃいませー。4名様、こちらのお席にどうぞー」


 直後にエプロン姿の店員さんに案内され、あたしたちはカウンターに近い席に腰を落ち着ける。


「注文がお決まりになりましたら、お声掛けくださいねー」


 そう言って去っていく店員さんの耳は尖っていた。どうやらエルフ族らしい。


「……あれ? もしかしてメイさんですか?」


 こんな場所にもエルフがいるのねー……なんて考えながらメニューを手に取った時、カウンターの向こうから弾けるような声が飛んできた。


「へっ?」


 どこか聞き覚えのある声に目線を向ける。そこには一人の少女が驚愕の表情を浮かべて立っていた。


「もしかして、アクエ? 久しぶりねー」


 だいぶ大人びていて一瞬わからなかったけど、あの黒髪と大きな三つ編みは間違えようがない。以前この街でお世話になった、アクエだ。


「お久しぶりですー。またお会いできるとは思いませんでした」


 ぱたぱたとこちらにやってきて、満面の笑みを向けてくれる。


 あたしも立ち上がって挨拶をするも、一つ気になることがあった。


「このお店って、アクエのお店なの?」


「そうなんです。元々は知り合いのおじいさんが一人で経営していたんですが、半年ほど前に体を壊してしまいまして。お店を閉めると言っていたところを、ハーブに詳しい私が引き継いだんです」


 胸の前で手を合わせながら、アクエは嬉しそうに話す。


 そういえば、以前彼女の家にお邪魔した時もハーブティーを淹れてくれた記憶がある。


 この街にいればそのうち会えるとは思っていたけど、まさかお店をやっているとは思わなかった。


「それで、こちらの方々はメイさんのお仲間ですか?」


 続いて、アクエはあたしと同席する皆を見渡しながら尋ねてくる。


「そうなのよー。色々あって、旅の仲間が増えちゃって。紹介するわねー」


 あたしはそう言って、年長者のルメイエから順番に紹介していく。


「……まぁ、フィーリちゃんは魔法使いなんですね。小さいのに、すごいです」


「えへへー、それほどでもー」


 最後にフィーリを紹介すると、アクエはそんな反応を見せる。


 あたしたち錬金術師も頑張ってはいるけど、まだまだ魔法使いの地位は揺るがないみたいだ。


「あ、実は最近、この街にも魔法使いさんが滞在しているんですよ。せっかくなのでご紹介しますね。ニーシャちゃん、ちょっと来てー」


 アクエは続けてそう言うと店内を見渡し、一人の少女に声をかけた。


「はいはーい、店長さん、どうしましたー?」


 そして呼ばれたのは、先程あたしたちを席に案内してくれた店員さんだった。


「こちら、旅の錬金術師のメイさんと、そのお仲間さんです。以前、お世話になったんですよ」


「そーなんですねー。どーもどーも。ニーシャです」


 体の前で両手を揃え、丁寧にお辞儀したあと、ニーシャと名乗った少女は微笑んだ。


 肩ほどまである金髪をサイドポニーにまとめていて、瞳は鮮やかな翡翠色。どことなく活発な印象を受けた。


 この子が魔法使いなの? どことなく、これまでの魔法使いのイメージと違うような気がする。


 それに、どうしてこのお店で働いているのかしら。


「それで、こっちのフィーリちゃんはニーシャちゃんと同じ魔法使いなんですよ」


「そ、その年で魔法使いだなんて……!」


 そんなことを考えていた矢先、フィーリの職業を聞いたニーシャが目を丸くしていた。


 ニーシャの背格好もフィーリのそれとそこまで変わらないのに……なんて思うも、彼女がエルフ族であることを思い出した。きっと、見た目通りの年齢ではないのだろう。



 その後、再会のお祝いということでアクエがハーブティーをごちそうしてくれる。


 入店直後はそれなりにお客さんがいたけど、いつしか店内はあたしたちだけになっていた。


 そうなるとアクエもニーシャも手持ち無沙汰となり、あたしたちのテーブルに寄ってきて会話を楽しんでいた。


「メイさんたちって、観光目的なのー?」


「半分そうだけど、半分違うのよ。実はね……」


 その会話の中で、あたしはこの街で期間限定の錬金術学校を開くつもりでいることを伝える。


「錬金術の学校ですか。いい考えだとは思いますけど……」


 あたしの話を聞いたアクエは一瞬賛同してくれたものの、すぐにその表情を曇らせた。


「マイナーな技術だってことは、百も承知よー。それでもこの街の現状を考えたら、なんとかして錬金術を普及させたいのよ」


 あたしは真剣な表情でそう口にする。


 アクエのお店にしても、本来この手のお店につきものの料理やスイーツのたぐいは一切なく、ハーブティーのみの提供だった。


 それはつまり、砂糖や食材に余裕がないという証拠だろう。


「メイさんの気持ちはわかりますが……時間がかかると思います。この街には宿屋もありませんが、どれくらい滞在するつもりですか?」


「空き地に万能テントを張って……そうね。二週間くらいは様子を見るつもりだけど」


「えぇっ、テント!?」


 その時、ニーシャが驚愕の声を上げる。


「この街の周辺は風も強いし、テントに四人はきついでしょー。店長さん、お店の二階、まだ部屋空いてるよね?」


「そ、そうですね。二週間くらいなら使っていただいて構わないですよ。テントなんて吹き飛ばされてしまいます」


 万能テントは広いし頑丈だから……なんて説明をする間もなく、アクエとニーシャの間でそんな会話がされていく。


 そして気がつけば、あたしたちはお店の二階で寝泊まりさせてもらえることになったのだった。

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