第六十二話『錬金術師、ボスに挑む・その①』
「……よう! 待ってたぜ!」
開け放たれた扉の先には、全身に氷と炎を纏った怪人が立っていた。あー、予想通り、これはボス戦の流れ。
「あのー、あたしたち、この先に用があるんですけど。通してもらえません?」
「はっはー! 俺様を倒さない限り、この先には進ませねぇぜ! ここがお前らの墓場よ!」
どっかに台本あるんじゃないかってくらい、テンプレートな台詞。この展開、久々ねー。
「久しぶりの来客だ! 盛大にもてなしてやるぜ!」
怪人さんは炎と氷の拳を打ち鳴らし、やる気満々。
続けて、「いかにも強そうな魔法使いが二人! 相手に不足はねぇ!」と、嬉しそうに叫んだ。
「ちょいまち! あたしは魔法使いじゃないわ! 錬金術師よ!」
「……なんだ、錬金術師かよ」
あたしが自分の職業を訂正すると、怪人さんは鼻で笑った。
「何よ! その興味なくなった感じ!」
「うるせぇ! 隣のガキも錬金術師か!?」
「わたしは魔法使いです!」
「なにぃ、魔法使いだとぉ!?」
フィーリの職業を聞いて、今度は怪人さんがたじろぐ。何この扱いの差。もう嫌。
「いや、待てよ……錬金術師といえば、以前、俺様を不意打ちしやがった奴も錬金術師だった! なら、やはり相手に不足はねえ!」
思い出したように言って、燃え盛る右腕をあたしに向ける。いやー、暑苦しいわねー。
あたしは率直な感想を抱きながら、フィーリとともに戦闘準備を整える。奥に扉が見えるけど、こいつを倒さない限り通れそうにない。なら、選択肢は一つ。
「穏便に話し合いで済ませられそうにないし、フィーリ、ここはやるわよ!」
「はい!」
飛竜の靴を履いたあたしが右に動くと、ほうきに乗ったフィーリが低空飛行のまま左へと動く。左右から挟み撃ちにして、速攻で仕留める作戦。
「挟み撃ちか! 上等だぜ! このグレン様が相手をしてやる!」
咆哮するように言って、属性の違う左右の掌から、あたしに向けて氷弾を、フィーリに向けては火球を、それぞれ撃ち放ってきた。げっ、飛び道具!?
直後に「ひえっ」と声がして、フィーリがその身を屈め、炎攻撃をやり過ごすのが見えた。あたしも飛竜の靴の機動力で無数の氷塊をかわし、お返しとばかりに爆弾を投じる。
「ふん! 効かねぇぜ!」
近くに投げられた爆弾が炸裂する直前、グレンは体を反転させた。結果、生じた爆風は奴の鎧の炎側に命中。まったくダメージを与えられなかった。同属性だし、むしろ吸収されたっぽい。
「反対側、がら空きですよ! ファイアボール!」
「おっと!」
その時、体勢復帰したフィーリが属性媒体を構え、氷で覆われた左半身へ向けて炎魔法を放つ。けれど、これもうまく体をひねられて、炎側で受けられた。うーわ、めんどくさい。
「どうだ! 俺様の炎と氷の鎧は!」
「すごく面倒! 炎と氷、両方使えたらって、まんま厨二病の発想じゃない!」
あたしは正直に感想を言って、氷の爆弾を投げつけた。奴は再び体を反転させ、氷側の鎧でそれを受け止める。例によって、ノーダメージ。
「厨二病上等だよ! かっこいいだろ!」
……あたしが思わず口走った言葉に、グレンが反応していた。あれ? その単語知ってるってことは、もしかして。
「……ねえあんた、もしかして転生者?」
「な、何!? どうしてわかった!?」
グレンは驚きの声をあげる。そりゃもちろん、厨二病ってキーワードだけど? 思い出してみれば、あの炎と氷の鎧、なにかのアニメで見たことある気がするわ。
「せっかく異世界転生したのに、なんであんたはこんな迷宮の奥深くでボス紛いのことしてるわけ?」
炎と氷の鎧を着てはいるけど、目を凝らすとその奥に普通の肉体があるようにも思える。厨二病スキルで無双したいなら、もっと別のやり方もあったでしょうに。
「うるせぇ! この世界へ転生する時、目の前に現れた神に『二つの属性を操る守護者になりたい』なんて頼んだら、このざまだ! 目が覚めた時から、俺様はここにいたんだよ!」
えぇ……確かに願いは叶ってるけど、守護者は守護者でも、迷宮の守護者? しかも、この場所にいるってことは、長いこと閉じ込められてるのと同じじゃない。あの神様、思いっきりやらかしてる?
「そんな話をするってことは、さては錬金術師のお前も転生者なんだな!はっはー! まさか同業者に出会えるとは思わなかったぜ! こいつは、倒し甲斐がある!」
「同業者ゆーな! フィーリ、水魔法! 最大出力!」
「はい! 蒼き乙女よ、盟約の言葉により……以下省略! アクエリアスパイラル!」
相手が一層気合を入れたのを見て、あたしはフィーリに指示を出した。直後に青いオーラを纏ったフィーリが、大魔法をぶっ放す。
「あたしもとっておき! 消しとびなさーーい!」
フィーリの魔法攻撃と同時、あたしも魔力ボムを叩きつけた。直後、轟音とともに魔力と火薬が反応。周囲が青く染まった。
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