第十九話『久しぶりの再会』


 以前も利用した鉱山カレーのお店に場所を移し、そのテラス席で待つことしばし。ほうきに乗ったフィーリとリディオがやってきた。


「予想通りに飛んできたわねー」


「え、なんの話ですか?」


 颯爽と地面に降り立ったフィーリにそんな言葉をかけるも、彼女は小首を傾げていた。


 その背後ではリディオが青い顔をしている。おそらく、ほうきで空を飛ぶのは初めてだったのだろう。


「リディオ、久しぶりー。空の旅、快適だった?」


「正直、生きた心地がしなかったぜ……フィーリのやつ、ふざけて宙返りとかするからさ」


 鉱山作業員の仕事着を身につけた赤髪の少年は、頭を抑えながら大きく息を吐く。


 当のフィーリはニコニコ顔だし、楽しんでいるのだと思う。


「それは災難だったね……リディオ、仕事は順調かい?」


「なんとかやってるよ。これでも、怒られる頻度はだいぶ減ってきたんだぜ?」


 続いてルメイエが声をかけると、彼は頬を掻きながらそう口にした。


 肉体労働なせいか、その体つきが男らしくなってきている気がする。


「もう少ししたらカリンも来るから、席に座って待っててねー」


 空いている席に二人を案内し、コップに水を注いであげる。


「メイねーちゃん、カリンって誰だ?」


「最近行動を共にしてる商人の子なんだけど……あ、来たわよ」


 怪訝そうな顔をするリディオにそう説明していると、通りを行き交う人の波をかきわけて真紅の髪をした少女がやってくる。


「いやー、ちょうどお昼時だけあって、人が多いねー。おまたせー」


 あたしたちの姿を見つけると、額の汗を拭うような仕草をしながら空いていた席へと腰を下ろした。


「お、君が噂に聞くリディオくん? 初めまして。カリンです」


「ど、どうも……」


 そして隣の席に座るリディオに爽やかに挨拶をすると、彼は何故か顔を赤くしてうつむいてしまった。


 鉱山作業は基本、男ばかりの職場だというし、リディオは女性に対する免疫があまりないのかもしれない。


 それこそ付き合いの長いフィーリやあたしたちは別として、彼にはカリンが大人のお姉さんに見えた可能性もある。


「鉱山作業員って大変だよねー。この街のため、頑張ってねー」


「は、はい……」


「むー」


 さすが商人というべきか、一気に距離を詰めて親しく会話をするカリンを横目に、フィーリは頬を膨らませていた。


 それから人数分の鉱山カレーを注文し、料理の到着を待つ。


「あ、メイさんメイさん、これ見てくださいよ」


 思い思いの時間を過ごしていると、フィーリがご機嫌顔で一枚の写真を差し出してきた。


「お、おい、見せるなよ。恥ずかしいだろ」


「いいじゃないですか。減るものじゃないですし」


「俺の神経はすり減るんだよっ……」


 うまいことを言うリディオに感心しながら、あたしはその写真に目を通す。


 それはフィーリが念写魔法で作った、リディオとのツーショット写真だった。肩をくっつけて満面の笑みのフィーリと、引きつった表情のリディオが写っている。


 あくまで魔法なので撮影位置も自由に決められるのか、いわゆる自撮り写真のようなアングルになっていた。


「うわー、これは恥ずかしいでしょうねー」


 思わずそう口にすると、リディオはますます顔を赤くしてうつむいてしまった。


 フィーリいわく、同じものをリディオにも手渡したと言うし、着々と仲良くなっているようで何よりだ。


「へー、この世界、写真あるんだね」


「あくまで魔法なんだけどね。見る?」


「やめてくれー!」


 悲痛な声を上げるリディオを無視して、あたしは持っていた写真をカリンに手渡す。


「うっわー、仲睦まじいー。ラブラブだねー」


 それを見て、カリンは頬を緩ませる。二人にはラブラブの意味が通じていないのが幸いだった。


「よーう、リディオ、それが噂の彼女か?」


「昼間から女たちをはべらせて、いいご身分だなー」


 そんな様子を微笑ましく見ていた矢先、店から出てきた鉱山作業員たちが親しげにリディオに話しかけていた。


「ち、違うっての!」


 彼は立ち上がって声を荒らげるも、今になって思えば、このテーブルは彼以外全員女性。そう言われても仕方がなかった。


 ……その後、到着した鉱山カレーを堪能しながら、採掘ギルドから商人ギルドに至るまでの経緯をカリンやフィーリに話して聞かせた。


「……というわけで、あたしたちは商人ギルドから門前払いを食らいましたとさ」


「商人たちって、いつも忙しそうにしてるからなぁ」


「だよねー。声かけるのためらっちゃう」


 あたしの話を聞いたリディオとカリンは、各々そんな感想を口にしていた。


「というか、今のカリンを見ているととても忙しそうには思えないけどね」


「ルメイエちゃん、それは言わない約束。こう見えて、今日も忙しく町中を駆け回っていたんだよ?」


 鉱山カレーのルーにパンをつけながら、彼女は口を尖らせる。


「それで、カリンの用事は終わったのかい?」


「ううん、あとは商人ギルドを残すのみ」


「あれ、まだ行ってなかったの?」


 ルメイエの問いに対するカリンの答えに、あたしは思わず口を挟む。


「うん、なんだかんだ用事を済ませてたら、遅くなっちゃって」


 もぐもぐとパンを咀嚼しながら、彼女は言う。


 元々商人ギルドに所属しているらしいし、山裾の村関連の報告でもあるのかしら。


「そうだ。せっかくだし、メイ先輩たちも私と一緒に商人ギルドに行こう?」


「……カリン、キミはボクたちの話を聞いていたかい? ボクらの面会予定は10日後だよ」


「問題なーし! 私のツテでなんとかしてみせよう!」


 彼女はそう言うと、元気いっぱいに鉱山カレーを頬張る。


 ……よくわからないけど、同じギルドの一員なら、なんとかできるものなのかしら。

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