第十五話『授業用の素材採取!』
それから数日が経過し、今日は久しぶりの休みだ。
ここ最近、スローライフはどこに行ったのかと思うほど多忙な日々を送っていたあたしたちは、久々の休日を満喫していた。
あたしとフィーリ、そしてルメイエ。三人が三人とも、お昼近くまでベッドの中で惰眠を貪る。
「……メイさん、そろそろお腹空きませんか?」
「そうねー。いい加減起きようかしら」
万能テントの窓から見える太陽がかなり高いことに気づき、あたしは髪の毛を爆発させたまま、もそもそとベッドから這い出す。
同じようにフィーリも起きてきて、思いっきり背伸びをする。
こうやって見ると、フィーリもだいぶ背が高くなったわね。
なんとなしにそんなことを考えつつ、あたしは軽く身支度を整え、究極の錬金釜を取り出す。
「フィーリ、ごはん何食べたい?」
「おまかせしまふ……」
あくびを噛み殺しながら言う。その返答が一番困るのよねー。
「じゃあ、スフレパンケーキにするわねー。すぐに調合しちゃうから、ルメイエ起こしてー」
「わかりましたー。ルメイエさん、そろそろ起きてください!」
「んぎゃあ!?」
フィーリはルメイエの眠るベッドにふらふらと近づいていったかと思うと、そのままベッドに飛び込んだ。ぼふっ、という音と、ルメイエの叫び声が重なる。
「荒々しい起こし方ねー。まぁ、オフモードのルメイエはあれくらいしないと起きないかもだけど」
久々の光景に目を細めたあと、あたしは卵にハチミツ、小麦粉といった素材を錬金釜に投入したのだった。
朝食と昼食の中間のような食事を済ませると、それを見計らったかのように、カリンが万能テントの入口を叩いた。
「こんちわー。フィーリ先生はご在宅?」
「いませんよー」
カリンがテントを覗き込むと、フィーリは全力で机の下に隠れていた。
慌てていたのか、頭しか隠れていない。
「いるじゃないですかー。フィーリ先生、補習をお願いします」
そう言うが早いか、カリンは笑顔をたたえたまま、ゴロゴロとメイの錬金釜を転がしてくる。
「だから、カリンさんに錬金術は無理ですってばー」
「むむむ……なら、メイ先生かルメイエ先生でも……!」
フィーリから呆れた口調で言われたカリンは、続いてあたしたちに視線を移す。
「錬金術ができれば、色々な人を助けられるの……!」
そう言いながら一心に拝んでくる。
「錬金術で皆を助けたいって気持ちは理解できるし、応援してあげたい、けど……」
これまでの実力を見た限り、彼女に錬金術の素質はないと思う。こればかりはどうしようもない。
「じゃあせめて、お手伝いだけでもさせて! 必要な素材があったら覚えるからさ! 私、記憶力には自信あるの!」
どうしたものかと思案していると、カリンはあたしに泣きついてきた。
瞬間記憶能力の持ち主だし、そりゃあ自信あるでしょうけど……。
困り果てたあたしは、助けを求めるようにルメイエへ視線を送る。
「うーん……そうだね。確かに錬金術は調合が全てじゃない。素材の入手も重要な要素だけど……」
「だよね! だったら、得意分野で貢献したいの! ルメイエちゃん、お願い!」
続いてそう言葉を紡いだルメイエに向けて、カリンは土下座をした。
「わ、わかった。わかったよ。ちょうど午後から授業用の素材採取に行こうと思っていたところだ。キミも同行するといい」
「やった! ルメイエちゃん、ありがとう!」
「むぎゅ!?」
地面に額をこすりつけんばかりのカリンに根負けしたルメイエがそう言うと、彼女は花が咲いたような顔になり、ルメイエに抱きついた。
押し切られる形で同行を許可したけど、確かにカリンの言い分は一理ある。
瞬間記憶能力を持つ彼女なら、森のどこに何の素材があるかすぐに把握できるはずだし、その情報をまとめれば、授業で間違いなく役に立つと思う。
伝説のレシピ本をもってしても、素材の採取地だけはわからないし。
「じゃあ、今から準備してくるよ! あ、鎌とか虫取り網が必要かな? 地面を掘るなら、スコップも?」
「採取道具はあたしがあらかた持ってるから、気にしなくていいわよー」
「さっすがメイ先生! それじゃ、またあとで!」
カリンはにじみ出る感情を隠すことなく、スキップしながら去っていった。
あたしたちは苦笑いを浮かべてその背を見送ったあと、それぞれ準備に取り掛かったのだった。
準備を整えたあたしたちは、四人で村近くの森へとやってきた。
この森は山裾の村から少し離れているのもあって日当たりもよく、様々な植物が自生している。
奥まで進むと魔物が出ることもあるけど、錬金術の素材は入口付近でも採取できる。
もし魔物と遭遇してしまったとしても、今はフィーリが一緒だし、戦力的には申し分ない。
「それで、ここで何を探せばいいの?」
「グリーングラスとハッピーハーブと……そうだ。今、現物を見せるから」
あたしは指折り数えたあと、容量無限バッグからグリーングラスを取り出してみせる。
「ふむふむ。じゃあ、ちょっくら森の中を見てくるね。ついでに他の植物も覚えてくる」
カリンはそう言うと、目の前の茂みをかき分けていく。
「ちょっと、奥のほうには魔物もいるんだから、気をつけなさいよー!」
「その時は全力で叫ぶー!」
そんな言葉を残し、彼女は草藪の向こうへと消えていった。
大丈夫かしらと思いつつ、待つことしばし。両手いっぱいに植物を抱えたカリンが戻ってきた。
「ただいまー。グリーングラスってこれだよね?」
手渡されたそれを確かめるも、全てグリーングラスで間違いなかった。
「さっき見せた一瞬で、植物の特徴を覚えたのね……」
「そう。ついでに、この辺に生えてる植物の特徴も全部覚えてきた」
「……それ、本気で言っているのかい?」
「うん」
見るからにドン引きしているルメイエに対し、カリンはあっけらかんと言った。
「じゃあ……これ、どこに生えてる?」
ものは試しと、あたしはハッピーハーブを取り出してカリンに見せる。村の特産品の染物や薬の原料になる、真っ赤な植物だ。
「それはわかりやすいよねー。こっちだよ」
すぐに頷いた彼女は、笑顔で先導してくれる。それについて森の中を進んでいくと、木の根元に数本だけ生えたハッピーハーブが見つかった。
「……こんなところに生えてるなんて。種が鳥にでも運ばれたのかしら」
この植物は本来、もう少し森を進んだ先にある、日当たりのいい場所に群生している。こんな森の入口で見つかるとは思わなかった。
「合ってた? 次は何?」
「じゃあ……これ」
次にあたしが取り出したのは、見た目が風車の形をした植物……
「あったあった。見た目がかわいいやつだよね。こっちだよ」
うんうんと頷いたあと、彼女は迷いなく歩き出す。それについていくと、風車草が群生している場所にたどり着いた。
「これ、リティちゃんが珍しい草だって言ってたのに……よくこれだけ生えてる場所を見つけたわね」
「すごいでしょー。褒めて褒めてー」
驚愕するあたしたちをよそに、カリンはそう言って胸を張る。
……この子の能力、実はものすごく使える能力なのでは?
あたしはルメイエと顔を見合わせながら、真剣にそんなことを考えたのだった。
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