第六話『フィーリのアルバイト大作戦!?・その②』
あたしは旅する錬金術師メイ。現在、三日月島の近海で水中銃をぶっぱなしていた。
その理由はただひとつ。氷の確保。
冷凍庫もない常夏の島で、なんとか氷を入手できないか考えを巡らせていた時、ふと、人魚の国での出来事を思い出した。
あの時、あたしは冷凍弾を用いて、人魚姫のフィアンセ……名前は忘れたけど、なんとかいうタコ王子を凍らせた。それと同じ手法で、氷を作ろうと考えたのだ。
「よし、見つけた! 覚悟!」
酸素ドロップを舐めながら海底を闊歩し、適当な魚に狙いを定めて冷凍弾を放つ。
すると周囲の海水ごと魚が凍る。その氷塊を容量無限バッグに入れて、中で氷、魚、塩に素材分解する。
それから改めて、氷よ出てこい……と容量無限バッグを漁ると、あら不思議、まるで天然氷のような美しい氷が取り出せるというわけ。
試しにちょっと舐めてみたけど、全く塩辛くはない。純氷だ。よーし、これでいけるわよ!
○ ○ ○
「完成! チョコレートアイス!」
三日月カフェに戻ったあたしは、さっそくアイスを調合してみた。チョコの実の使用割合を増やしたチョコレートアイス。完成品を三人で試食してみたけど、超濃厚。これは売れるわ。
「初めて食べたが、美味いな。さっそく、明日から売り出そう」
試食を終えてすぐ、マスターは嬉しそうに言い、手早く準備に取り掛かった。時間は既に夕暮れが近く、窓からは西日が差し込んできたけど、こうなったら乗り掛かった舟だ。あたしたちも手伝うことにした。
「ミルクや砂糖、器は俺が用意するから、二人はメインストリートに設置する看板を作ってくれ。頼んだぞ」
マスターは言って、カウンターの奥で作業を始めた。
看板ねぇ……と少し考えて、木材や鉄を素材にミニ黒板を調合した。同時に浜辺で拾った貝殻を素材にしてチョークも作り、看板を描く準備を整えた。
準備は整った、けど……。
「ねぇ。フィーリ、あんた絵って……」
「メイさん、頑張ってください!」
描けるのー……? と聞こうと思ったら、超笑顔で言われた。ぐぬぬ。あたし、正直絵は苦手なんだけど。
「……わかったわよ。描くわよ。こ、こーんな感じ?」
あたしは茶色のチョークを手にし、自分の全スキルを使ってミニ黒板にアイスの絵を描く。これが広告代わりになるのだし、全力を尽くした。あたし的には。
「あっははは! メイさん、絵心ないですね!」
完成したあたしの絵を見て、フィーリがお腹を抱えて笑う。相変わらず毒舌ねぇ。
「むー、渾身の一作なのに。そこまで笑わなくてもいいじゃない?」
「だ、だって、これを描いたんですよね? とても見えませんよ!」
フィーリはテーブルに置かれたチョコレートアイスと、あたしの描いた絵を交互に見た後、再び笑い転げる。もー、おかしいのはわかるけど、床の上転がらないの! 借り物のメイド服が汚れるでしょ!
……その時、マスターがあたしとフィーリをカウンター越しにじっと見ているのに気づいた。ちょっとはしゃぎ過ぎたかしら。
「あー、ごめんなさい。ほら、フィーリ。埃が舞うでしょ」
「いやいや、いいんだよ。君たちを見てると、娘たちを思い出してなぁ。どっちも同じくらいの年になってるはずなんだ」
マスターはそう言って、カウンターに頬杖をつきながら微笑む。え、この人、娘さんがいるの?
「ちょうど五年前、妻と一緒に島を出て行っちまってなぁ。大した儲けもないくせに、親父から引き継いだこの店を守ろうと意気地になる俺に嫌気が差したんだろう」
自分の頭を掻きながら、ははは、と自虐的に笑う。それから、「ここから見てると、娘たちが店を手伝ってくれてるような、そんな気がしてな」と続けた。
あたしとフィーリが顔を見合わせて、どう言葉を返すべきか悩んでいると、マスターは「今頃、どこで何してるやら。さて、続きだ」と、無理矢理に話を打ち切って、作業に戻っていった。うーん、この人も色々あるのね。
……ちなみにその後、メイ画伯が描いた看板はマスターが描き直してくれた。
顔に似合わず、ものすごく絵が上手だった。ちょっとジェラシー。い、いいもん。絵なんて描けなくても、錬金術はできるし。
また、絵だけでなく『三日間限定! チョコレートフェア!』と、めちゃくちゃ可愛らしい文字も付け加えられていて、期間限定である旨がしっかりと明記されていた。食材の在庫との兼ね合いもあるけど、基本、観光客は期間限定品に弱いはず。マスター、やるわね。
○ ○ ○
その翌日。島のメインストリートに看板を設置したおかげか、三日月カフェは朝から大盛況だった。
「メイさん! またお客さんが来やがりました! チョコレートアイス3つです!」
フィーリ、敬語思いっきり間違ってるわよー? まぁ、今のあたしにそれを指摘する余裕はないけど!
頭の片隅でそんなことを考えながら、あたしは錬金釜に向かう。
現状、この世界に冷凍庫はない。つまり、チョコレートアイスは作り置きができず、作った傍から溶け始めてしまうわけで。注文を受けてから調合して、即提供する以外に方法がなかった。
というわけで、あたしは開店直後からフル稼働。日頃の運動不足が祟ってか、早くも腕が痛い。
「へぇ、こんな場所にカフェがあったのか」
「ここ、落ち着いた感じでステキね」
冒険者ギルドの裏手にあるせいか、ここにカフェがあることさえ知らないお客さんも多かった。まぁ、あたしもチョコの実を運んでこなかったら、その存在すら知らなかったかもしれない。
「メイさん、チョコレートアイス、5つ追加です! あと、ミルクチョコラテも2つ!」
「よしきた。すぐにできるぞ」
ドリンク系はマスターの担当。注文を受けて、素早くチョコの実から取り出したエキスと牛乳、砂糖をシェーカーで混ぜ合わせていく。さすが慣れてるわねー。
「すみませーん! 注文いいですかー?」
「こっちもお願いしまーす!」
「はーい! ただいまー!」
……一方、フィーリも上手く注文をさばいていた。あの子、見かけによらずやるわねぇ。
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