第七話『フィーリのアルバイト大作戦!?・その③』
チョコレートアイスの物珍しさも手伝って、お昼時になるとお客さんはますます増えてきた。
ランチメニューになると、マスターの腕の見せ所。ミックスグリルにミートスパゲティ、シチューにサンドイッチ。バラエティーに富んだメニューが提供されていた。狭い厨房のどこにこれだけの食材置いてたのか、不思議なくらい。
「さすがにこの時間になると、手が足りないな。メイさん、下膳を手伝ってくれないかい?」
「はーい!」
時間的にアイスの注文は減るものの、ランチタイムの忙しさは異世界であっても同じらしい。
錬金術師の格好のままフロアに出るわけにもいかなかったので、あたしは奥の壁に掛けてあったメイド服を拝借した。てゆーか、なんであたしの分まであるわけ? サイズピッタリだし。
……うん? もしかして、娘さんたちが島を出ていった理由って……。
「メイさーん、早く手伝ってくださーい!」
一瞬、妙な考えが頭をよぎるも、直後にフィーリの悲痛な声が飛んできた。おっと、今はそんなこと気にしてる場合じゃない!
○ ○ ○
……そんなこんなで、嵐のような三日間が過ぎ去った。
あたしたちも一応宿はとっていたものの、後片付けやら準備やらで、ほとんど三日月カフェで寝泊りしていた。
頑張った甲斐あって、三日目のお昼過ぎにはアイスをはじめ、チョコレートを使った商品は見事完売した。なんか不思議な充実感がある。ドラゴンと戦った時以上に疲れたけどさ。
○ ○ ○
……久しぶりに宿屋のベッドでゆっくりと休んだ翌日、あたしとフィーリはお別れの挨拶のため、三日月カフェを訪れていた。
「この三日間、本当に助かったよ。これ、少ないけどお給料」
本当に挨拶だけして帰るつもりだったのに、どこか充実した表情を浮かべるマスターはあたしたちに向けて二通の封筒を差し出した。
いえいえそんな。さすがに悪いですよー……と、あたしが大人の対応をしようとした矢先、フィーリが子どもの対応をし、笑顔で「ありがとうございます!」と、がっしりと封筒を受け取ってしまった。
ええー、そこで受け取っちゃうの? 子どもの無邪気さって怖い。この子の場合、わかってやってそうだけどさ。
「ほら、メイさんもどうぞ」
「あー、うー、その、どうもすみませんー」
こうなると、あたしも受け取らざるを得ない。事の発端はフィーリのアルバイトだし、しょーがないわよねー……と、自分を納得させつつ、あたしも封筒を受け取った。
「お店、これからも流行るといいですね!」
「ああ。チョコレートアイスはないけど、チョコクッキーとミルクチョコラテは引き続き提供できそうだからね。頑張るさ」
フィーリに言われて、マスターが笑う。限定メニューこそなくなったけど、お店の名前は島中に広まっただろうし。後はマスターのやり方次第よね。
唯一の問題として、危険なチョコの実の採集を引き受けてくれる人がいるかどうかだけど。木の幹にロープで体をしっかり固定して、慎重に登れば行けるかしら。
「料理修行は日々続けておくから、良ければまた来ておくれ」と、名残惜しそうに言うマスターに、「まかない料理は美味しかったし、また島に寄った時はお邪魔するわねー」と答え、あたしたちは手を振ってその場を後にした。
○ ○ ○
「わ、見てください。3000フォルも入ってますよ」
路地を抜けてメインストリートに出るや否や、フィーリはさっそく封筒の中味を確認していた。お金を稼ぎたければアルバイトしなさいと言った手前、あたしは文句を言う立場にない。
「無駄遣いしちゃ駄目よー」とだけ伝えて、だいぶ高く昇った太陽に目を細める。今日も、この島は暑くなりそうだ。
「せっかくだし、何か朝ごはん食べて出発する? この島の名物、食べてない気がするしさ」
「そうですね!」
嬉しそうに跳ねるフィーリを微笑ましく思いつつ、周囲を流し見ると、ブイヤベースやアクアパッツァといった島の新鮮な魚介類を前面に押し出したお店が目につく。
朝からは重たそうなメニューばかりだけど、ちょうど朝の船が到着したのか、たくさんの観光客で活気に溢れていた。食べるなら早めに動かないと、席が埋まっちゃいそう。
「ねぇねぇ、この奥だよね! お父さんのお店!」
「そうよ。ネリネ、あの頃は小さかったのに、ちゃんと覚えてたわね」
「うん!」
「ふーん。大繁盛って言う割には全然人いないじゃない。ガセ?」
「きっと、それはまだ朝だからよ。お父さん、疲れて寝てるのかもしれないわ」
……その時、賑やかな親子連れがあたしたちの横を通り過ぎて、路地へと入っていた。
今の会話からして、もしかしてマスターの家族だったりするのかしら。
……カフェと同じく、家族との今後もマスターのやり方次第って感じね。今度はうまくいくといいわね。
「メイさん、どうしたんですか?」
「なんでもないわよー。それより、フィーリは何食べたい?」
「もしかして、メイさんの奢りです?」
「とーんでもない。自分の食べた分は、自分で払うのよ」
「えー」
キラキラと瞳を輝かせていたのが一転、ぶーぶー文句を言うフィーリに、「そうそう、帰りは船使わずに飛んで帰るから、しっかり体力つけるのよー?」と言って、あたしは近くの食堂へ足を向ける。
「メイさーん、船使いましょーよー。ほうきで飛ぶの、疲れるんですから―!」
そんな声が背後から聞こえる。あたしの作ったほうきで飛ぶんだから、そう簡単に疲れるわけないでしょー……なんて思いつつ、店先に置かれたメニューに目をやる。もし疲れたら絨毯に乗せてあげるから、頑張って飛びなさいなー。
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