第四十一話『空の決戦! 後編』
あたしはその後も全自動発射台で飛竜たちを狙い続けるも、いかんせん数が多い。
数体は撃ち落とせたものの、気づけば周囲を取り囲まれてしまっていた。
「うわわわ、上から来るよー!」
「次は左からだ。メイ、避けるんだ」
四方八方から飛竜たちが迫りくる中、絨毯に乗ったあたしたちは必死に逃げ惑う。
こうなってしまうと距離が近すぎて発射台は役に立たないし、爆弾も使えない。無理やり使ったところで、巻き添えを食うだけだった。
「ひー、メイさーん、なんとかならないんですかー?」
そんなあたしたちと並走するように、フィーリがほうきを走らせていた。
新しいほうきの機動力は以前の比ではないので、簡単に捕まることはないだろうけど……飛竜たちはどこまでも執拗に追いかけてくる。
彼らは多くの仲間を殲滅したあたしたちを完全に敵とみなしたらしい。
飛竜たちの進行方向を変えられたし、山岳都市を守るという目的は達成した。
このあとは……どうしたもんかしら。
「うーん、こうなった以上、一匹残らず倒しちゃうのが手っ取り早いけど……メイ先輩、銃みたいな武器ないの? あれがあると楽にウロコを破壊できるんだけど」
「そんな危ない武器ないわよ。あるとすればハンマーくらい?」
「そういえば持ってたねぇ……メイ先輩、実は撲殺系錬金術師だったりする?」
「あたしはスローライフ系錬金術師よ。このハンマーも、色々あって使うことになったの。モンスターパレードの時もそうだったけど、要所でいい仕事してくれるんだから」
言いながら、容量無限バッグからビックリハンマーを取り出す。
あたしの背丈の倍ほどある巨大なハンマーは、素材としている浮遊石の欠片のおかげか、サイズの割に軽い。これなら不安定な絨毯の上でも十分に扱うことができそうだ。
ハンマーを構えて待つことしばし、一匹の飛竜が近づいてきた。
「おあつらえ向きに来たわねー。うっりゃーー!」
その一体に狙いを定め、あたしは全力でハンマーを振るう。
がしゃん、という音がして、その鏡のようなウロコに傷がついたのがわかった。
「フィーリ、今よ!」
「はい! ファイアーボール!」
その衝撃で吹き飛ばされていく飛竜を見ながら、フィーリに向けて叫ぶ。直後に火球が撃ち放たれ、飛竜は全身炎に包まれながら地上へと落下していった。
「この調子でバンバンいくわよー! てりゃー!」
近づいてきた別の飛竜に対し、あたしは再びハンマーを振るう。先程と同じように破砕音がし、ウロコが剥がれた。
それを見計らってフィーリが魔法を撃ち込む。いっちょ上がりだ。
「すごいねぇ。あの二人、息ピッタリ」
一連の流れを見ながら、カリンが称賛の声を上げていた。
ふっふっふー。あたしとフィーリはなんだかんだで長いこと一緒に旅してるし、連携には自信があるのよねー。
そんなことを考えていた矢先、飛竜たちは絨毯に近づいてこなくなる。さすがにあたしのハンマーが危険だと学習したらしい。
そしてその代わり、全員でフィーリを狙い始めた。
「ひー! 助けてくださーい!」
それに気づいたフィーリがほうきの速度を上げるも、飛竜たちはしつこく追いかけている。
「こらー! あんたたちの相手はこっちよ!」
思わず叫ぶも、飛竜たちはガン無視だった。
「来ないでくださーい!」
フィーリは苦し紛れに飛竜へ向けて魔法を放つも、その鏡のようなウロコに弾かれていた。
やはり、あのウロコを破壊しないとダメージは通らないようだった。
決死の覚悟で飛竜たちの群れに飛び込む手も考えたけど、そうするとカリンとルメイエにも危険が及ぶ。どうしたもんかしら。
「……そっか。連中がフィーリを狙うなら、あたしもフィーリと一緒に行動すればいいのよ!」
少し考えて、あたしはそう結論づける。
すぐにトークリングを起動すると、離れているフィーリに声をかけた。
「フィーリ、あたしをほうきに乗っけて!」
『え、本気ですか!?』
「本気よー! あの飛竜たち、一匹残らず叩き落としちゃいましょ!」
『わ、わかりました!』
言うが早いか、フィーリはほうきを巧みに操って飛竜たちを振り払うと、あたしの乗る絨毯に近づいてくる。
「メイさん、乗ってください!」
「せーのっ! うりゃっ!」
あたしはタイミングを見て、フィーリの後ろへ飛び移る。彼女はそれを確認すると、ほうきの速度を一気に上げた。
「うわわわーー! け、結構スピード出るのねーー!」
「これくらい、序の口ですよー!」
叫ぶように会話した直後、二色のオーラがあたしを包み込む。
一瞬で体が軽くなり、フィーリが身体能力強化魔法をかけてくれたのだと気づいた。
「よーし、それじゃ、一通り飛竜たちを掠めるように飛んで!」
「わかりました! メイさん、落っこちないでくださいね!」
言い終わらないうちに、フィーリは近場の飛竜に向けて突進していく。そのあまりの速度に、飛竜たちはまったくついていけない。
「これでも……食らいなさーい!」
そのまま一瞬で飛竜の背後を取ると、がら空きの背中に向けてあたしはハンマーを振り下ろす。ガラスの割れるような音がして、そのウロコが砕け散った。
「よし次!」
「はい!」
それを確認すると、あたしはすぐにフィーリに指示を出し、方向転換する。
各個撃破してもいいのだけど、それだとどうしても時間がかかる。まずはこの場にいる飛竜たちのウロコを全て破壊したうえで、広域魔法で一網打尽にする作戦だ。
「それそれそれーー!」
「うりゃうりゃうりゃーー!」
あたしとフィーリは呼吸を合わせ、まるで稲妻のような動きでその場に存在する
全ての飛竜のウロコを破壊し尽くす。
あたしも右へ左へと激しく揺られたけど、フィーリの身体能力強化魔法のおかげでバランスを保つことができた。
「見事だね。あとは……おわっ!?」
その時、絨毯からわずかに身を乗り出していたルメイエが、一匹の飛竜によって空中へと連れ去られてしまった。
「ル、ルメイエちゃんを離せ、こんにゃろー!」
カリンが叫び、半分放置されていた全自動発射台を操作するも……ルメイエに当たる可能性があるので爆弾は発射できなかった。
「って、ぎゃーー!」
そうこうしているうちに、今度はカリンが別の飛竜に捕まってしまい、空へと釣り上げられた。
……これはまずい。なんとかしなければ。
あたしが必死に考えを巡らせる間にも、飛竜たちは目的を果たしたと言わんばかりに、散り散りになって逃げていく。
「フィーリ、作戦変更! まずはカリンを助けるわよ!」
「はい!」
あたしはフィーリにそう伝え、まださほど距離が離れていないカリンを助けに向かう。
「カリンを離しなさい! こんにゃろ!」
わずか数秒で飛竜の背に肉薄したあと、あたしは全力でハンマーを振るう。
飛竜がその衝撃に耐えきれずにカリンを離した瞬間、掠めとるように彼女を救出した。
「た、助かったぁ……!」
次はルメイエの番……と考えるも、三人も乗ったほうきは明らかに定員オーバーだった。
バランスも取れないのでスピードも出せず、ルメイエを掴んだ飛竜はどんどん遠くへ行ってしまう。
「あたしとカリンが降りるから、フィーリ、ルメイエをお願い!」
「え、ちょっとメイ先輩、本気!?」
カリンは信じられないといった表情をするも、あたしは特に返事もしないまま、彼女の手を取ってほうきから飛び降りる。
「ぎゃーー! 落ちるーー!」
「飛竜の靴履いてるから落下する心配はないわよ! フィーリ、よろしく!」
「おまかせください!」
あたしたちが降りて身軽になったほうきを操り、フィーリは急加速して飛竜を追いかけていく。
やがて魔法の射程に捉えたのか、フィーリが杖を手にした……次の瞬間。
ルメイエを捕まえていた飛竜が、轟音とともに爆発した。
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