第十話『旅の途中にて・その①』
あれからフィーリを追いかけ回し、ようやく回収したお金で花屋さんの建物を修理した。
ただ資金を出すだけじゃ悪いので、あたしたちはさらに数日間を花の都で過ごしながら、自律人形たちと一緒にその修復作業を手伝った。
「いやー、ありがとうございます。魔法使い様と、錬金術師さんたちのおかげです」
5日も経つと、花屋はすっかり元通りになった。お礼を言って頭を下げる青年に「元はあたしのせいなんだから、気にしないでいいわよー」と笑顔で伝えた。
ちなみに、全身銀色の自律人形たちが集まって作業する様子はものすごく目立ち、街中の話題になった。
見物人も多く集まったので、あたしは毎日のように「彼らは錬金術で作った自律人形たちです」と紹介しておいた。
それもあって、この街での錬金術師の評判は少しずつ……いや、かなり上がっていった。結局、あたしにとってもこの数日間は大変有意義なものとなった。
一方、街の皆からもらった報酬をあたしに巻き上げられたフィーリはずっと不満そうにしていたけど、街の本屋さんから魔導書をもらった途端、ごきげんになった。かなり高額な本だと言ってたけど、本当に良かったのかしら。
また、ルメイエは修復作業を手伝いはしなかったものの、何を思ったのか、あたしに色々な道具のレシピを教えるようせがんできた。
言われるがままにいくつものレシピを教え、その素材も手渡すと、彼女はお礼を言って、宿屋へと戻っていった。
「それじゃ、出発するわよ。忘れ物はない?」
……そんなこんなで花の都での日々が過ぎ、この街でもそれなりに錬金術師の名を売ることに成功したと悟ったあたしは、次の街へ行くことにした。
「メイ、次はどこに行くんだい?」
花の都から伸びる街道を歩いていると、一人空飛ぶ絨毯に乗ったルメイエが気だるげに訊いてくる。
「昨日、万能地図を見てたら、ここから北西に気になる街を見つけたのよ。山の上にあるんだけど、鳥の街だって」
「鳥って、あの空飛ぶ鳥かい?」
「そう。気にならない? どんな街なのか」
「そうだね。鳥料理の美味しい街だといいね」
ルメイエはそう言いながら、ぼふん、と絨毯に寝っ転がる。
今日は天気もいいからゆっくり歩きながら進もうと思っていたのだけど、彼女は頑として歩こうとしなかった。
だから仕方なく、彼女だけ絨毯移動なのだけど……さすが錬金術師。うまく扱ってるわね。
「ふんふんふーん♪」
隣を歩くフィーリに何か言ってもらおうかと思ったけど、魔導書を片手に、鼻歌交じりに歩いていた。
「その本、中級魔法が載ってるんだっけ?」
「そうなんです! 勉強が捗りますね!」
緑青色の表紙に視線を落としながら尋ねると、天使の笑顔でそう返してくれた。この子、魔導書をもらえたのが本当に嬉しかったのねぇ。
「……まぁ、今日はのんびり行きましょっか」
あたしもぐーっと背伸びをしたあと、どこまでも延びる道の先を見る。風が吹き、あたしとフィーリの髪が風にそよぐ。
乗り物を使った移動もいいけど、たまにはこういうのも旅らしくていいと思う。
○ ○ ○
……しばらく道なりに進んでいると、フィーリの腹時計が鳴った。
「あはは、そろそろお昼ごはんにしようかしらねー」
恥ずかしそうに顔を赤くし、お腹を抑えるフィーリを微笑ましく見てから、休憩場所を探す。
「メイ、あの木の陰なんて良さそうだよ。街道からも見えないしさ」
そのとき、ルメイエは街道の脇を指差す。そこには大きな木が生えていて、木陰を作り出していた。
「そうねー。なら、あそこでお昼にしましょー」
大きく広がる木の根に足を取られないよう気をつけて迂回し、街道から死角になっている場所に腰を下ろす。
そしてあたしは容量無限バッグから、水筒に入ったお茶とサンドイッチを取り出す。
これは花の都を出る時に買ったもので、お茶はローズリップティー。サンドイッチは食べられる花をペースト状にして、甘い味付けをしたものが挟んである。
「いただきまーす」
三人並んで腰を下ろし、サンドイッチを口に運ぶ。うん。美味しい。桜餅みたいな味がする。
「変わった味ですねぇ―」
そう言いながらご満悦なフィーリの声を聞きつつ、周囲の景色に目をやる。そこには見たことない、背の低い青い花が群生していた。
「……その花はブルーポーションになりたいと言っているよ」
あの花、この辺り限定の植物なのかしら……なんて考えていると、ローズリップティーに砂糖を追加投入していたルメイエが言う。
「ほう。ブルーポーションとな。どれどれ……」
あたしはおもむろにレシピ本を取り出し、ルメイエが聞き取った素材の言葉をヒントに、該当するレシピを探し出す。
「へー、ポーション系の上位アイテムなのね。他の素材は……ブルーローズと怪鳥の爪?」
先の青い花の他に、さらに青いバラと怪鳥の爪が必要らしい。これは作れるのは当分先ねー。
「もー、ご飯のときに本を読むのはお行儀が悪いですよ? わたしだって読みたいの、我慢してるんですから!」
サンドイッチを頬張りながらレシピ本を眺めていたら、フィーリから怒られた。
うぐ。そう言われたって、本来サンドイッチはサンドイッチ伯爵がカードゲームの片手間に食べられるように開発したのよ。理に適ってるんだからね。
10歳の女の子に注意されて、多少凹みながらレシピ本を閉じ、あたしは食事を再開した。
……食後は休憩を兼ねて、しばしの自由時間。
設置した万能テントの中にそそくさと潜り込もうとしたルメイエの腕をがっしりと掴み、あたしは素材集めを兼ねて、周辺の散策に繰り出した。
「離しておくれよ! 食後1時間は昼寝をしないと、食物から得た魔力の吸収効率が悪くなってしまうんだ!」
「そんなの初めて聞いたわよ。コアラみたいなこと言ってんじゃないの。ここまでの移動で一人楽してるんだから、素材集めに付き合いなさい」
「うぅ……仕方ないなぁ」
その小さな体をずるずると引きずっていると、観念したのか、天を仰いだあとにあたしに同行してくれた。
「……ほら見て! あの木、良いと思わない?」
「そうだね。あの子はテーブルになりたいと言ってるよ」
当初は面倒くさそうにしてたくせに、いざ連れ出してみるとルメイエは満更でもない様子。素材を見つけては、その銀色の瞳を輝かせていた。
「テーブルにはちょっと細いわねー。いいところ椅子かしら。ところでルメイエ、隣の木に生えてる赤い実ってわかる?」
「クネンの実だね。あの子はジャムになりたがっているよ。クネンジャムは甘酸っぱくて、パンとの相性は最高さ」
……さすがは伝説の大錬金術師。ルメイエは素材の知識が豊富だった。あたしはチートアイテムのおかげでレシピは無限にわかるけど、素材についてはまだまだ知らないことも多いから、ルメイエの知識は本当に参考になる。
「まったくもー。なんでもかんでも素材としてしか見てないんですね! これだから錬金術師さんたちは!」
……背後からフィーリのそんな声が聞こえたけど、採取モードに入ってしまったあたしには堪えない。
そんな彼女に、あたしとルメイエは向こうに見つけた池に行くと伝えると、フィーリは「この辺で本読んでます」と、手に持った魔導書を掲げて示した。
「じゃあ、行ってくるわねー」
木の根に腰掛けるフィーリにそう言って、あたしとルメイエは池へと向かった。
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