第十七話『竜の山にて、竜を倒す』
あたしは旅する錬金術師メイ。万能地図を強化するための素材『竜の目玉』を手に入れるため、つい先ほどドラゴン討伐を決意した。
「……いた。あれがドラゴンね」
ドラゴンがいるなら高い場所だろうと、山の頂目指して登っている最中、その姿を見つけた。目測で全長3メートルくらいの赤い竜。都合のいいことに、眠っているみたい。
「よーし、不意を突いて、一発で仕留めてあげるわよー……」
そろりそろりと距離を詰めながら、あたしは懐から対ドラゴン用に開発した爆弾を取り出す。全くもって錬金術師らしくない行動だけど、四の五の言ってられない。
「せーのっ……」
野球の投球モーションよろしく、まさに爆弾を投じようとしたその時。背後からけたたましい声が聞こえた。
その声で、背後を振り向いたあたしは、心臓が飛び出そうになった。一匹だと思ってたのに、背後にもう一匹別のドラゴンがいた。こっちは青い竜だ。
「おわあ!?」
たまらず横に転がると、直後に青いドラゴンが吐いた炎の息が、あたしのローブの端を焦がした。
「あっぶなぁぁ」
あたしは這いつくばりながら近くの岩陰に隠れる。追撃が来るかと思ったけど、寝ていた方のドラゴンが今の騒ぎで起きたらしく、炎のブレスで反撃。結果、二匹のドラゴンによる戦いが始まった。もしかしてあたし、最悪のタイミングで飛びこんじゃった?
「ひー」
岩の陰に身を縮みこませて、火炎放射器のように火を噴きあう二匹の様子をうかがう。お互いの炎がぶつかりあって弾け、周囲の岩肌を溶かす。続く咆哮。大迫力。まるで怪獣映画みたい。
映画といえば、圧倒的力を持つ種族間の戦いに巻き込まれた人類が逃げ惑う……みたいな映画があった気がするけど、今のあたし、まさにそれかも。
その映画、ラストはどうなったっけ……と記憶の糸を辿ってみて、人類にとってあまりいい結末じゃなかったことを思い出して気分がブルーになった。
「どーしよーかしら……」
轟々と炎が揺らめく中、あたしは途方に暮れる。このまま争っているうちに共倒れしてくれたら嬉しいんだけど、この調子だとその前にあたしが倒れる。
先日作った見えない盾を周囲に展開してはいるけど、めっちゃ熱い。これ、炎の前には無力っぽい。
……それなら、やることは決まってる。やられる前にやるだけ。
「あんたたち! 大人しく素材になりなさい!」
というわけで、あたしは開き直り、二匹同時に相手にすることにした。タイミングを見て岩の上に立つと、勝手に戦う剣をドラゴンたちへ差し向ける。
究極の錬金釜で作っただけあって、まるで見えない騎士がその剣を振るっているかのような、しなやかな動きを見せる。
さすがに鱗が硬いのか、剣くらいじゃダメージ与えられないっぽいけど、気を散らすことには成功してるっぽい。
「喧嘩両成敗! うっりゃあ!」
その隙をついて、あたしは全力で爆弾を投げつける。対ドラゴン用の爆弾。その名もーーデスドラボム。
……何よ? あたしが名前決めたんじゃないんだからね。元からそういう名前なの。
そのネーミングセンスとは裏腹に、レシピ本によると、ドラゴンにドラゴンの力をぶつけて絶大なダメージを与える爆弾……らしい。ドラゴン属性の弱点はドラゴン属性。どこのゲームよそれ。
半信半疑で使ってみたけど、その威力は絶大らしく、直撃を受けた青いドラゴンが断末魔をあげて崩れ落ちた。おお、効果抜群ね!
「うひゃーーー!?」
喜んだのも束の間、対戦相手を倒したあたしの方を脅威だと思ったのか、生き残った赤い方が口から火球を撃ってきた。ほうきで超低空飛行をしてギリギリ避ける。あたし、超絶バトルしてるんだけど!
「そっちがその気なら、受けて立つわよ! 対ドラゴン用の爆弾、第二弾! くっらえーー!」
そして空を飛んだあたしを追うように飛翔したドラゴンに向けて、もう一つの爆弾を投じる。この爆弾の名はーービリドラボム。
……ダサいとか思ってんじゃないわよ。その名の通り、飛んでるドラゴンに雷を落とす爆弾! どうして爆弾で雷が落ちるのかって? あたしも知らないわよ!
心の中で誰かに向けて叫んだ矢先、轟音とともに強烈な稲光がドラゴンを直撃した。
「どっひゃーーー!」
目の前が白く染まった直後、落雷の余波らしき電気の波が周囲を駆け巡った。それをもろに受けたあたしは情けない声をあげながら、地面に軟着陸した。予想以上の威力。これ、こんな至近距離で使うもんじゃないわ。
バチバチと強い静電気のようなものを体に感じつつ起き上がると、雷が直撃したドラゴンは先の青い竜と同じように、地面に力なく横たわっていた。
「よ、よし! なんとかなった! 討ち取ったり!」
勝利を確信したあたしは、ドラゴン二匹を前に容量無限バッグの口を開く。すると、バッグは空間法則を無視して巨大な竜の亡骸を飲み込んでいく。後はバッグの中で分解されて素材になるので、これで準備万端整った。
○ ○ ○
安全そうな場所を探し、そこに万能テントを張ったあたしは、その中で調合作業をしていた。
強化元になる万能地図に加えて、エルトニア鉱石、妖精石を各5個ずつ錬金釜に放り込み、残るは最後のキーアイテム。
「いでよ、竜の目玉―!」
どんなグロテスクな一品が出てくるのかと、おっかなびっくり取り出したそれは、まるで宝石のような煌きを放っていた。
思わず室内の灯りに透かしてみると、鮮やかなエメラルドグリーンの中に光が乱反射し、虹が見える。なにこれ、きれー。
「見た目も綺麗だし名残惜しいけど、それっ」
ひとしきり堪能した後、錬金釜の中へちゃぽん、と竜の目玉を放り込む。難しい調合なのか少しの間があって、一回り分厚くなった万能地図が吐き出された。どれどれ、機能増えてるかな?
アップグレードされた地図を開いて、さっそく追加された機能を確認する。
「やた! あるある! ルート検索機能にナビゲーション機能!」
地図上のとある点をタッチすると、そこまでの道順が青い色で事細かに表示された。あたしは思わず「キター」と叫びながらガッツポーズをする。
「よーし、脱出ルートさえわかれば、今日中にこの山を下りるわよ―!」
一気にテンションが上がったあたしは、荷物をバッグの中へ片付けると、意気揚々とほうきに跨り、山道を突き進んでいった。
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