第五十話『発見!錬金術師の理想郷!?』
あたしは旅する錬金術師メイ。現在、空飛ぶ絨毯に乗って、砂漠を鳥のように進んでいた。
「これだけ速いなら、万能地図の表示範囲広げてもいいわよねー」
万能地図を指先で操作し、ズームアウト。基本的な操作は、スマホの地図アプリと一緒。
ながら運転は駄目って習ったけど、この絨毯はオートパイロット対応。目の前に障害物が現れれば、即座に回避、停止ができる優秀な子。
「このまま進めば、一時間もしないうちに砂漠を抜けるだろうし……うん?」
独り言を口にしながら、万能地図を操作していた時、信じられない表記が飛び込んできた。
「……錬金術師の街・マナニケア?」
なにそれ。この近くに? あたしは周囲を見渡すも、見えるのは砂ばかり。だけど、地図にはしっかりと街の名前が記されていた。錬金術師の街? ほっほー。実に興味深い。
「えーっと、この辺よね」
はやる気持ちを抑えつつ、地図を見ながら場所を微調整。ここだと思った場所で絨毯から降り立つ。ふわりと砂が舞った。
「えー、何もないんだけどー」
絨毯を容量無限バッグにしまい、もう一度周りを確認。僅かに風の音がするくらいで、それらしいものはない。
……もしかして、かつてここにそんな名前の街があったってことかしら? でも、普通の地図なら古いって場合もあるけど、万能地図が古いはずが……。
なんて考えながら歩いてると、かちりと砂の下の何かを踏んだ音がした。はて、何を踏んだのかしらと首を傾げた時。目の前の景色が揺らいだ。
「おわあーーーー!?」
次の瞬間、体が持ち上げられるような感覚がして、視界が白く染まる。あたしは思わず目をつむった。
○ ○ ○
「え、ここどこ?」
次に目を開くと、目の前には薄暗い通路が続いていた。カーブになっているのか、先は見えない。
反射的に背後を振り返ると、淡い光を放つ、いかにもな転移装置があった。え、まさかの空間転移?
気になったけど、あの淡い光にもう一度触れてみる気は起きなくて、とりあえず通路を進むことにした。もしかしたら、別の場所に飛ばされるかもしれないし。次は、すなのなかにいる……なんて嫌よ。
「なんか急にダンジョンっぽくなったけど、魔物なんて出てこないわよね……」
あたしは護身用の火炎放射器を装備して、慎重に通路を進む。ものの数分のうちに、前方に明かりが見えてきた。
「お、おお!?」
おっかなびっくりに明かりの元へ辿り着くと、急に視界が開けた。
これまでの細い通路が嘘のようなだだっ広い空間に、巨大な街があった。例えるなら、すっごく広いドーム球場の中に街がある感じ。
「もしかして、ここってさっきの砂漠の地下なのかしら」
なんとなくそんな気がした。ふいに天井を見上げると、本来空があるべき場所は黒っぽい天井に覆われていた。たっかい。あそこまで、何百メートルあるのかしら。
加えて、その天井付近には小さな太陽まであった。ちょっと明るさが足りない気もするけど、錬金術師の街ってことは、あの太陽も錬金術で作ったのかしら。
そうなると、さっきの転移装置も、この街を覆うドームも、全部錬金術で作ってたりする? いやー、なんか、レベルが違うわねー。
初めて遊園地に来た子どものような気持ちになりつつ、浮足立って歩いていると、やがて大きな門が見えてきた。
そこにはいかにも錬金術師っぽい人が門番に立っていて、その服装を見ただけであたしのテンションは上がる。
「この街に旅人とは珍しいですね」
そうでしょうそうでしょう。あんな砂漠の真ん中に入口があるなんて思わないし、あたしも万能地図で見つけなかったら普通にスルーしてたと思う。
「ここが錬金術師の街ですか?」
「いかにも。錬金術師の街・マナニケアへようこそ。この街にはどのくらい滞在予定でしょうか?」
門番さんの“錬金術師の街”というワードに踊りだしそうになるのを必死に堪えながら、「ひとまず、一週間ほど」と伝える。門番さんは「では、こちらの許可証にサインを」と、紙とペンを差し出してきた。すごい。これ、羽根ペンじゃない。万年筆。これも錬金術で作ったのかしら。
震える手でサインを書き終えて、手続き完了。あたしは晴れて、錬金術師の街の門をくぐった。
○ ○ ○
「へー、ぱっと見た感じ、普通の街とそこまで変わらないのねー」
錬金術師の街といっても、文明レベルが明らかに違う……なんてことはなく、その生活水準はこれまでの街とあまり変わらない印象を受けた。
ただ、先の万年筆のように、細部に若干の違いがある。街を歩く人も、そのほとんどがあたしと同じような、明らかに錬金術師とわかる格好をしている。
他にも錬金釜の専門店があったり、素材ショップがあったり、レシピ研究所があったり……これまで、この世界のどこにも存在していなかったお店が軒を連ねていた。
そんな魅力的なお店や施設に今すぐ飛び込んでいきたい気持ちを、あたしはぐっと我慢する。いやいや、まずは宿屋を決めないと。
それから大通りを歩いていると、控えめな宿屋の看板を見つけた。入ってみると、一階は雑貨屋さんで、二階に部屋が二つだけという、小さな宿屋だった。よく考えたら旅人そのものが珍しいんだし、専業の宿屋が成り立つはずがないわよね。
「いらっしゃいませ。お泊りですか」
「一週間ほど連泊したいんですけど、代金はいくらになります?」
「一泊、300フォルです。一週間ですと、合計2100フォルになりますね」
基本、食事はついていないとのことだけど、それにしたって安い。あたしはこの宿に即決した。
「あの、お客様は錬金釜をお持ちでないようですが、お部屋に備え付けの錬金釜はございませんので、ご注意ください」
「へっ?」
これまた万年筆で宿帳に記帳をしていると、これまでの宿屋では馴染みのない言葉が飛んできた。備え付けの? 錬金釜?
「あー、自前の錬金釜がありますんで、大丈夫ですー」と笑顔で返事をしつつも、このやりとりも錬金術の街ならではねー……なんて、これまたテンションが上がった。
ここはまさに、錬金術師の隠れ里だった。
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