第五十一話『困った時の鳥頼み』



「ええっ、船が来ない!?」


 港の受付で話を聞いてみると、どうやら今の時期は流氷の動きが読めないらしく、船が運休することが多いらしい。


「うそぉ……」と、思わず項垂れていると、受付のおじさんから「次の船は早くて一週間後だねぇ」なんて追い打ちをされる始末。


「メイさん、どうしましょう……」と、フィーリも不安顔。あたしもこれ以上、雪国でのスローライフは望んでいない。


 ……こうなったら、あたしも最後の手段を使うしかないわね。


 ○ ○ ○


「やっほー、ルマちゃん。待ってたわよー」


「やっほー、じゃないわよ! どーしてこんなクソ寒い場所にいるの!?」


 というわけで、最後の移動手段として怪鳥のルマちゃんを呼び出した。さすがに遠かったみたいで、リンクストーンで合図を送ってから、やってくるまで半日以上かかった。


「いいじゃない。羽毛に包まれてるし、寒さ感じないでしょ?」


「羽毛があっても寒いもんは寒いのよ! 乗るなら早く乗りなさい! 風邪ひくわ!」


 本当に寒いのか、その身を小刻みに震えさせるルマちゃんが可哀想になったので、「とりあえず南に適当に流してー」とだけ伝えて、あたしとフィーリはその背中へと乗り込んだ。


 もそもそと羽毛の中へ潜り込んでいると、「適当に流してって、タクシーじゃないのよ。まったくもう」なんて言葉が聞こえた。ここまで来ると、似たようなもんじゃない。


 ○ ○ ○


「うっわー、ちょっと鳥くさいけどあったかーい」


「鳥くさいけど、天国ですー」


 極寒の中、ふわふわの羽毛に包まれながら、あたしとフィーリは空を行く。


「二人してうるさいわねぇ……鳥なんだから、鳥くさいのは当たり前でしょ。ところで、なんであんな寒い場所にいたの?」


「ケルベロス相手に魔法と錬金術のハイブリッドを楽しんだメイさんがダウンしちゃいまして」


「は? ハイブリッド?」


 ルマちゃんの質問に、フィーリが超簡潔に答えていた。ちょっとフィーリ、簡素化しすぎ。


「それにはちゃんと理由があるのよ。ルマちゃん、聞いてくれる……?」




 ……それからあたしは、雪の街で起こった出来事を事細かにルマちゃんへ話して聞かせた。


「魔力酔いぃ? アンタ、魔力に弱いの?」


 すると、彼女が食いついてきたのはケルベロスでも新兵器でもなく、魔力酔いだった。魔力に弱い……そんな表現、初めて聞いたわ。


「れ、錬金術師だから、しょうがないじゃない。MP0なのよ」


「そうは言っても、最近の錬金術師はゲームの中でも普通にMP消費して戦ってたわよ?」


「う、うっさいわねー。ゲームと現実は違うのよ。ここ、異世界だけどさ」


 例によって、転生者同士の会話。隣のフィーリはそんな話に興味はないのか、いつの間にか寝息を立てていた。


「……ところで、本当にどこ行くの? だいぶ南下してきたから、そろそろ目的地決めて欲しいんだけど」


「そーねー。ルマちゃん、どこかあったかい場所知らない?」


「あったかい場所?」


「そう。ここ二週間近く、ずーっと寒い場所にいたからさ。そろそろあったかい場所で過ごしたくなって」


「あったかい場所ねぇ……あー、そう言えば最近、変わった町を見つけたわよ」


「変わった町?」


 あったかい場所と、変わった町。何か関係があるのかしら。


「ここから南東に進んだ海の真ん中に、小さな島があるんだけど、そこにこれまた小さな町があって、温泉があるのよ」


「ほう。温泉とな」


 あたしが疑問に思っていると、ルマちゃんがすぐに答えをくれた。この世界にも天然温泉ってあるのね。その島、火山島なのかしら。


「鳥同士の噂で聞いたんだけど、その島はつい最近まで外界と隔離されてて、独特の文化が花開いてるって話よ」


「ほっほー」


 そんなところにある温泉。まさに秘湯ね。これは一度行ってみたいかも。


「というわけで、雪国で身も心も冷えたアナタたちに送る温泉旅行プラン。今なら送り迎え付きで、お一人様トリア鳥50羽ポッキリ」


「買った」


 茶目っ気たっぷりな提案を受けて、あたしは即決した。温泉旅行。骨の髄まで冷え切ったあたしたちには夢のような響き。ルマちゃんも商売上手よねー。


「言っとくけど、アタシができるのは送り迎えだけだかんね。温泉や宿泊代金は自腹よ?」


「おっけーおっけー。ところで、子ども運賃は適応?」


「そーねー。本来はしないんだけど、可愛いフィーリちゃんのために、勉強させてもらおうかしら。半額でいいわ」


「ありがとー。じゃあ、二人合計でトリア鳥75羽ね。前払いするから、近くのメノウの街に向かってくれない? ここから西の方角」


 あたしが万能地図を片手に提案すると、「りょーかい。だいぶ日も傾いてきたし、ちょっと飛ばすわよー」と言い、速度を上げた。


 ……ほどなくして、メノウの街が見えてきた。船で十日かかっていた距離を僅か半日。さすがルマちゃん、そこに痺れる憧れる!


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