第二十三話『山裾の村の卒業式』
翌日、あたしたちは生徒の皆に集まってもらう。
その目的は、錬金術学校の卒業式を行うためだ。
「え、卒業式をするんですか?」
「そーよー。ルメイエと話し合って、ここにいる10人、全員卒業ってことになったの」
子どもたちは実習期間中も練習を重ね、教科書にあるものは全員が作れるようになっていた。
もうこれ以上教えることはないと、ルメイエが判断したのだ。
「卒業式ってどんなことするのかな? オレ、初めてなんだけど」
この小さな村には学校らしい学校もなく、誰もが卒業式は初めての経験らしい。
「そんな固くならなくていいわよー。いいからほら、横一列に並んで。卒業証書渡すわよ」
あたしがそう伝えると、生徒たちはわあわあ言いながら整列していく。
その様子を微笑ましく眺めたあと、頃合いを見て開式を宣言する。
それからはルメイエが一人ずつ名前を読み上げ、錬金術で作った卒業証書を手渡していく。
「……以上10名。卒業、おめでとう」
彼女は最後にそう締めくくり、あたしとフィーリが拍手を送る。
本当に慎ましい卒業式だけど、彼らにはいい経験になったと思う。
……そんなことを考えていると、不意に拍手が大きくなる。
見ると、そこにはいつの間にか生徒たちの家族が集まっていた。
あたしたちが呆気にとられていると、その中央で誇らしげに親指を立てるカリンの姿が見えた。
どうやら、彼女が招集をかけてくれたようだ。
「いやー、先生がた、華々しい卒業式をありがとうございます」
拍手が収まったあとにそう口を開いたのは、ティッド君の父親のヒイロさんだった。
そんな彼の隣には、リティちゃんの弟のティム君と、その父親のダナンさんの姿もある。
「メイ姉ちゃん、これ見てよ! 姉ちゃんに作ってもらったんだ!」
その直後、ティム君は嬉々として持っていた鞄を見せてくる。
そのままお店で売れそうな出来栄えの鞄の中には、なぜか大量のシップが詰まっていた。
「……シップ?」
「へへー、これ、父ちゃんの背中に貼ってあげるんだー」
「これもリティが作ってくれたんでさぁ。すぐ腰悪くするからって」
どこか恥ずかしそうに言うダナンさんを見ながら、あたしは初めてこの村を訪れた時のことを思い出していた。
あの時は、魔女の一撃――いわゆるギックリ腰になってしまったダナンさんを助けたんだっけ。
当時は錬金術なんてまったく知らなかったリティちゃんが、今やこの村一番の錬金術師になっている……そう考えると、なんとも感傷深いものがあった。
「それでは皆さん、こちらに集まってください! 最後に集合写真撮りますよー!」
その時、フィーリがそう言ってあたしたちを手招きする。
多くの人々が「写真ってなんだ?」と首を傾げながら、彼女に誘われるがままその周囲に集まっていく。
当然、あたしとルメイエもその中に加わることになる。
「カリンさんによると、こういう場では皆で写真を撮る決まりらしいんです。それでは、準備はいいですか?」
全員が一ヶ所に集まったのを確かめて、フィーリは前方へ光の玉を飛ばす。
「皆さん、あの光に注目してください!」
その後の説明によると、あの光の玉は移動式のカメラのようなもので、好きな位置から写真を撮ることができるようだ。
言われてみれば、以前見せてもらったフィーリとリディオとの写真には、いかにも自撮りっぽいアングルの写真があった気がする。
どうやって撮ったのか不思議だったけど、こんなカラクリがあったわけだ。
「メイ先生、本当にお世話になりましたっ」
そんなことを考えていた矢先、隣にいたリティちゃんが満面の笑みを向けてくる。
彼女だけでなく、その場にいる誰もが幸せそうにしていた。
この表情を見ることができただけで、これまでの多くの苦労が報われたような、そんな気がした。
「それじゃ、撮ります! 一瞬眩しくなりますので、目をつぶらないように!」
そうフィーリが叫んだ直後に光球が弾け、視界が白く染まる。
その光が収まる頃には、立派な卒業写真ができあがっていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます