第十二話『錬金術師の移動手段』
200フォルの研磨剤と、適当な宝石の原石を一緒に錬金釜へ放り込む。者の数秒で、煌く宝石が飛び出してくる。
それを持って、街の雑貨屋さんへ。すると、だいたい3000フォルで買い取ってくれる。
原石は大量にあるので、その資金でまた研磨剤を買って、同じように宝石を生み出す。それを売る。資金が手に入る。
まさに錬金術のようにお金が生まれていた。いやこれ、錬金術だけどさ。
とにかく、このサイクルを続けていけば、お金がいくらでも集められる……と、あたしは有頂天になっていたと思う。その時は。
「悪いけど、もう宝石は買い取れないです……」
宝石を作っては売る、そんな生活を続けて3日目。合計80000フォルを荒稼ぎしたところで、雑貨屋さんからストップがかかった。
理由は単純明快。雑貨屋さんの貯蓄が尽きてしまったから。
言われてみれば、お金持ちばかりが暮らす街じゃない限り、宝石がホイホイ売れるはずがない。お店としても、宝石を仕入れても売れなければ、生活が立ち行かなくなる。
これがゲームの世界と、異世界とはいえ実際に人が生活している世界の違いなのか……と、あたしは一人、何かを悟った気がした。お金は、無限ではないのだ。
そして同時に、あたし本来の目的を思い出した。お金ももちろん大切だけど、あたしは旅する錬金術師なのだ。ここでは生活に不自由しないけど、刺激がない。
「……旅に出よう」
あたしはそう心に決めて、万能地図を開く。次はどこの街に行こうかしら。
「……って、あれ?」
今いる街周辺の地図を表示させると、鉱山の街らしく周囲は見事に山だらけだった。いくら地図をズームアウトさせても、山越えをしない限り別の街には行けそうにない。
「山越え……」
既に時間はお昼近くだし、今から移動できる距離には限界がある。このまま山に入ったら野宿は必須。いやまぁ、万能テントあるから快適なんだけど、せっかくだし、山の麓に小さな村でもないかしら。
そう考えつつ、地図を拡大したり縮小したりしていたら、少し離れた山裾に村を見つけた。思いっきり拡大しないと見つけられなかったくらいだし、本当に小さな村なんだと思う。
「まあいっか。行ってみよ」
最近大きな街ばかり立ち寄ってるし、たまにはそういうところに行ってもいいかも。素朴な田園風景とか広がってるかもだし。
というわけで、あたしはお世話になった鉱山都市を後にして、山の近くにあるという村に向かって歩き出した。
○ ○ ○
「ちょっと待った。ストップ」
歩き出してすぐ、あたしは道の脇に座り込んだ。この道、すごく歩きにくい。
一応、目的の村に向かって道が伸びてはいるんだけど、もちろん舗装なんてされていないし、山の近くということもあって、そこら中に石が落ちてる。気を抜いたら変な踏み方をして、足を挫きかねない。
「快適な移動を実現する道具とか作れないかしら」
バッグから錬金釜とレシピ本をひっぱり出して、パラパラとめくる。カボチャとネズミを調合して馬車とか作れたら便利そう。あ、別にシンデレラになりたいわけじゃないのよ? 変な王子様とか出てきたら、爆弾で吹っ飛ばすから。
「あ、この辺それっぽい」
開いたページに書かれていたのは、空飛ぶ絨毯に、魔女のほうき。いかにもなアイテムだ。これ作りたい。
でも、空飛ぶ絨毯……は、翼竜のウロコとかいう危険な匂いしかしない素材が必要なので即却下した。
じゃあ、こっちの魔女のほうきは? マンドラゴラとか必要なのかしら……なんて思いながらレシピを確認すると、こっちは至ってシンプル。木材と鳥の羽があれば作れそう。
「えーっと、木材も鳥の羽も、それなりの数拾ってたはずだけど」
あたしはぶつぶつ言いながら、バッグから定められた素材を取り出す。うん。数は十分。
その時ふと、鳥一匹捕まえてバッグに放り込めば、分解されて鶏肉や素材を大量ゲットできるかも……なんて考えたけど、それはそれで可哀想になった。うん。動物愛護大事。
そんな風に自分を戒めながら、木材に続いて鳥の羽を錬金釜にばっさばっさと放り込む。うひゃー、鳥くさい!
……直後、立派なほうきが釜から吐き出された。イメージ通りの魔女のほうき。鳥の羽使ったはずだけど、見た目は普通のほうきだった。
唯一違うのは、完成したほうきは地面から1メートル程の空中に浮遊している点。これ、乗って大丈夫かしら。
「ま、究極の錬金釜で作った品だし、安全でしょ。それじゃ、さっそく試乗をば」
外に出していた道具を一通り片付けたあたしは、えいやっ、と、ほうきに飛び乗った。
ぼよん、と見えないバネでもついているかのような反発があって、体がほうきの上で安定する。おお、なんか気持ちいい。
ところで、これってどう操作するのかしら。ブレーキとアクセルがあるわけでもないし、ほうきの運転講習なんて聞いたこともない。
適当に「上がれー!」とか念じてみると、ふよふよと高度が上がっていく。目測で電柱くらいの高さまで浮かび上がった。
続けて「進めー!」と念じると、じわじわとスピードが出る。あたしも転生前は自転車通学してたけど、それより速い。体感で時速30キロくらい出てるかも。
……その後、15分ほど訓練した。頭の中で考えるだけで操作できるので、慣れてしまえば楽なものだった。
「それじゃ、麓の村に向けて全速前進!」
ふわふわと最高高度まで上がって、そこから一気に加速する。空で障害物がないとはいえ、結構な速度。
「うっわー、これ、たのっしー!」
理由はよくわからないけど、お尻がほうきにぴったりくっついてる感じで、振り落とされる気がしない。それでいて考える通りに動くし、これ、最高。
悪路も関係ないし、今まで作らなかったのが本当に悔やまれる。
ふんふんふーん。と、鼻歌混じりに空の旅を楽しんでいると、目の前に川が現れた。山から流れ込む水で増水しているのか、橋が流されていた。
「まぁ、あたしには関係ないけどねー」
流された橋の残骸を横目に、すいーっと川の上をほうきで渡る。そこまで高度は出ないし、山をひとっ飛び……というわけにはいかないけど、これくらいの川なららくしょーで渡れる。
「……あら?」
川を越え、村までもう少し……というところで、地面に人が倒れてるのが見えた。その体の大きさから、子供みたい。
「緊急停止!」
頭に浮かぶだけで制御できるんだけど、思わず声に出してしまった。そのまま高度を下げて、ゆっくりとその子の近くに着地する。生きてるわよね……?
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