第四十四話『砂漠の町にて・その①』
「あっつう……」
砂漠の真ん中に着地すると同時に、あたしとルマちゃんから同じ感想が漏れた。
「あー、蒸し鶏になりそう」
忌々しく太陽を見上げながら、ルマちゃんがぱたぱたと翼を羽ばたかせる。羽毛に覆われてるわけだし、暑そうねぇ。
「近くに町があるんでしょ。それじゃ、そこまで頑張んなさいね」
最後にそう言うと、ルマちゃんは足早に飛び去っていった。例によって町の近くに降りると騒ぎになると思い、離れた場所に降り立ったんだけど、完全に裏目に出た。暑い。
「緊急退避! いでよ、万能テント!」
容量無限バッグから万能テントを引っ張り出し、どすんと砂の上に置く。すかさず中に飛び込むと、さすが万能。理由はわからないけど、テントの中は温度が一定に保たれていて涼しい。あたしは胸をなで下ろす。
「さすがにこの格好で砂漠を歩くのもねー」
あたしは自分の服装を見る。こまめに洗濯はしてるけど、基本、この世界に転生した時の格好のまま。藍色のローブに杖、頭にはティアラみたいな髪飾り。
杖は錬金術師のアイデンティティーだから外せないし、このローブが諸悪の根源よ。何の素材でできてるのかわかんないけど、暑すぎるわ。
あたしは汗にまみれたローブをぱぱっと脱いで、下着姿になる。そのままレシピ本を開き、衣類のページに目を通す。
「これまであまり目を通さずにいたけど、服も色々あるのねぇ。甲冑みたいなのからメイド服まであるし、バラエティー豊かねー」
手持ちの素材と相談しながら、あーでもないこーでもないと考えた結果、あたしが調合したのはTシャツと短パン。それにサングラスと麦わら帽子。うーん、完全に夏休みスタイル。
「小麦を大量消費して麦わら帽子を調合するとか、勿体無いことこの上ないけど」なんて言いながら着替えて、万能テントから出る。同時に、強い日差しが容赦なくあたしを襲った。
「……無駄な抵抗かもしれないけど、一応日焼け止めクリームぬっとこ」
一度テント内に引っ込み、日焼け止めクリームを調合して塗りたくる。この世界に日焼け止めクリームがあったことにも驚いたけど、その素材にはハッピーハーブが含まれていた。そのせいか、薄くのばして塗ってもなんか赤っぽい。なんか嫌だけど、背に腹は代えられない。
その後、あたしは万能地図を片手に町へと向かいつつ、素材集めもした。
砂漠の代名詞サボテンの他、明らかに毒持ってそうなクモとか、サソリも見つけた。
リアルムシキングを素手で捕まえるのはさすがに無理があったので、ここは自律人形たちにお願いした。
彼らはその液体金属の身体で、躊躇することなくサソリたちを捕まえる。一方のあたしは視線を逸らしながら、「ありがとー。これに入れてねー」と、万能バッグの口を開けて待ち構えたのだった。
○ ○ ○
「ふー、やっとついた!」
それからしばらく歩いて、あたしはようやく砂漠の町に辿り着いた。
簡単に乗り越えられそうな背の低い柵に囲まれた、小さな町。狭い土地にぎゅっと集まっているのか、二階建ての建物がたくさん見える。
場所が場所だけに観光客の姿は無く、道行く人が物珍しそうにあたしを見る。ふっふっふ。錬金術師がそんな珍しいのかしら。
「ひぃっ」
その時、あたしを見た親子が小さな悲鳴を上げ、我が子を抱きかかえて家の中へ消えていった。めちゃくちゃ驚いてたけど、どうしたのかしら。
「……おい、そこの娘。止まれ!」
「はい?」
不思議に思っていたら、野太い声がした。思わず振り向くと、この街には似つかわしくない甲冑に身を包んだ兵士の姿。兵士があたしに何の用かしら。
なんて思っているうちに、つかつかと近づいてきて、あたしの全身を舐めるように見る。この兵士、暑くないのかしら。
「怪しい娘だな。その服装は何かのまじないか?」
「……はっ」
言われて気づいた。今のあたしはTシャツと短パン。それにサングラスに麦わら帽子の夏休みスタイル。しかも全身に赤い日焼け止めを塗りたくっている。ファンタジーなこの世界では、明らかに浮いてる。怪しすぎる。
「ち、違うんですよ。あたし、こう見えて錬金術師で」
「馬鹿を言うな。そんな格好の錬金術師がいるわけないだろう」
……ごもっとも。代わりの服を用意してた時のあたし、暑くて脳味噌やられてたのかなー。
「大方、その杖も盗品じゃないのか? ちょっと詰め所で話を聞こう」
言って、がっしとあたしの腕を掴んできた。ちょ、ちょっとタンマ! この流れ、まずくない!?
あたしはサングラスに麦わら帽子も外して、必死に弁解する。万一捕まって、牢屋でスローライフなんてまっぴらごめんだ。
「おい、どうした」
そんな矢先、別の声がした。やがて砂を踏む音が近づいてきて、兵士が増えた。うぁお、最悪。
「これは隊長殿。全身血まみれの、怪しい奴がうろついてまして」
「怪しい奴だと?」
語尾を強めながら、別の兵士があたしの顔を覗き込む。そして言った。
「……む? もしかして、メイさんでは?」
「へっ?」
あたしは状況が飲み込めず、素っ頓狂な声を出す。なんでこの人、あたしの名前知ってんの?
「ああ、私ですよ」
そして急に声が軽くなり、頭に被っていた兜を取った。顔に見覚えはなかったけど、その声に聞き覚えがあった。もしかして、リチャードさん?
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