第二十六話『山岳都市を目指して』



「ふんぬぬぬ……も、もうちょっとぉ……」


 あたしは旅する錬金術師メイ。今日は全力で山登り。


 山に足を向けた理由は些細なものだった。先の村で会ったミズリ、そのお姉ちゃんに会ってみたくなったから。


 ミズリ曰く、彼女のお姉ちゃんは『山岳都市』で暮らしているとのことで、その場所を万能地図で調べてみたら、割と近かった。バージョンアップした万能地図のナビゲーション機能もあるし楽勝ーと、かるーい気持ちで向かったんだけど……。


『このまま直進してください』


 万能地図のナビゲーション機能が、道なき道を進むよう無慈悲な指示を出す。高低差すっごぉい。


 以前彷徨った山も結構ややこしかったけど、人里を繋いでいた分、まだ道が整備されている方だったみたい。この山に至っては本当に岩山を行く感じで、跨ったほうきも頼りない。このほうきは元々速度に特化しているので、その高度は最大で5メートルほど。すなわち、ここでは役に立たない。


「高低差激しくてほうきも役に立たないし、この道も無理。別ルートは?」


『迂回路を検索します。右折先を直進してください』


「崖―――!」


 迂回先を確認したあたしは、天を仰ぎながら叫ぶ。『山岳都市』を行き先に指定してのナビゲーション機能は、登山初心者のあたしが進むにはいささか無理のある地形ばかりをおすすめしてくる。どーいうことかしら?


「はぁ。これは険しい山肌を素早く移動できるような、これまでの移動手段とは根本的に違う道具を作らないといけないわねー」


 一旦小休止。あたしは崖下で万能テントを張り、その中で水分補給をしながらレシピ本を片手に考える。


 普段運動してない分、これ明日は筋肉痛確定よね。ハッピーハーブを使ったシップのお世話になるのかしら……なんて考えながらレシピ本をめくっていると『飛竜の靴』という道具を見つけた。


「ほう。飛竜の靴」


 名前からして、軽やかに空を飛べそうな感じね。少なくとも、今履いてる靴より断然移動が楽になりそう。


 というわけで、レッツ調合。


 錬金釜を取り出した後、速やかに素材をチェック。布に動物の皮、いかにも靴の材料っぽい素材の数々に続いて『竜の翼』と書かれていた。それも四枚。


「竜の翼ぁ?」


 思わず声が出た。そんなの持ってたっけ。


 ないよなー。なかったよなー。とか思いながら万能バッグの中を漁ると、あった。しかもピッタリ四枚。


 なんで持ってるんだっけ……と記憶の糸を手繰り寄せてみる。そういえば以前、ドラゴン二体を同時に相手をしたっけ。


 その時は竜の目玉が目的で、倒した竜をまるごと素材回収したんだけど、その過程で分解されたのねー。ラッキー。


 ○ ○ ○


「よーし、でっきたー!」


 素材を錬金釜に放り込むと、すぐに立派な靴が吐き出された。藍色を基調とした落ち着いた生地に銀色の縁取りがされ、くるぶし辺りに竜の翼をモチーフにした飾りがついていた。結構好きなデザインかも。


 試しに履いてみると、サイズもピッタリ。さて、その性能はどんなもんかしら。


 あたしは外に出ると、テントを容量無限バッグにしまう。それから目の前の崖に向かって助走をつける。いざ。


「ジャーンプ! うっひゃー!?」


 思い切って跳んでみると、靴にジェットエンジンでもついてるかのように、軽々と跳び上がった。


 瞬く間に近づいてきた岩肌の中腹を反射的に蹴ると、さらに上へと跳ねあがる。なんか昔、こうやって壁を登るゲームあった気がする。


「ていっ! とうっ! ほいっ!」


 すぐにコツを掴んだあたしは、ジャンプした先に新しいでっぱりを見つけては、そこを蹴ってさらに上へ飛ぶ。


 ちなみにこの靴、落下時にはその小さな翼が羽ばたいて、落下速度がぐんと下がる。なんか滑空してるみたいで楽しい。


 滑空中も体重移動で安全に着地地点を探せるし、予想以上に小回り効くし、これ、便利かも。


 どっちかっていうと上下の動きに強くて、長距離の移動には使えないけど、ここみたいに高低差がある山とか、ほうきで飛べなさそうな森の中は使いやすそう。


 ○ ○ ○


 飛竜の靴も手に入れたし、改めて万能地図のナビゲーションを再開。先程までと違って、トントン調子で岩壁を登ること、数分。『山岳都市トリア』と書かれた看板が見えた。やっとついたっぽい。


「こんな場所にどうやってこんなの作ったのかしら。おっきいわねー」


 長年過酷な環境にさらされたためか、山肌と同系色になってしまった門を見上げる。それは都市というより、さながら砦のよう。


「やっとここまで来たんだし、とりあえず入れてもらいましょ」


 その大きさに圧倒されながらも、あたしは一回だけ深呼吸をしてから、その巨大な門を叩いた。


 ……無反応。


「あれっ?」


 もう一度叩く。今度はちょっと強めに。


 中からの反応はない。


「あの、すみませーん! ごめんくださーい!」


 ドンドンと門を叩きながら声を張り上げる。同じく反応なし。えぇ、ここまで来て入れないの?


 あたしは固く閉じられた門を見上げて、ため息をついた。正直、ショックだ。


 ……って、あれは?


 その時、頭上にでっぱりを見つけた。松明を置く燭台らしいけど、あれなら足を引っかけられそう。


「よーし、門を開けてくれないんなら、城壁を駆け上がるまでよ!」


 これまでのあたしだったら諦めてたかもだけど、今のあたしには飛竜の靴がある。数歩下がって助走をつけると、その城壁を一気に駆け上った。


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