第二十五話『再訪! 鉱山都市・その⑥』
……翌朝。あたしたちは四人で東の廃坑へとやってきた。
その入口には大きな板が何枚も打ち付けられ、『立入禁止』と書かれていた。
魔物が出るのだから、立入禁止というのは納得。だけど万能地図を索敵モードにしてみても、魔物がいるのは廃坑のかなり奥だった。
これは予想だけど、ここに潜む魔物は日の光が苦手なのかもしれない。
「ふむふむ。この廃坑、かなり入り組んではいるけどそこまで深くないし、最深部まであまり時間をかけずにたどり着けそうね」
あたしは廃坑内部の地図を拡大したり縮小したりしながら作戦を考える。リディオはそんな光景を不思議そうに眺めていたけど、フィーリに「板を剥がすの、手伝ってください!」と怒られて、あたしから離れていった。
やがて腐っていた一部の板を剥がして出入り口を確保すると、四人で坑内へ突入する。予想通り、中は真っ暗だった。
「皆さん、これを使ってください!」
その時、フィーリが火の属性媒体を使って小さな火球を生み出していた。それはあたしたちの周囲をふよふよと浮遊し、周囲を明るく照らす。以前、雪の街でお世話になった照明の魔法だった。
「相変わらず便利ねー」
……ちなみに昨日、あたしも廃坑探索用に懐中電灯を調合しようとしたのだけど、ライト光石とかいう未知の素材が必要とわかって断念したのだ。
いかにも明るそうだけど、ライト光石とか、どこにあるのよ……。
「魔法使い、この光、なんだよ?」
腕組みをしながら真っ暗な天井を見上げていると、リディオがそう問う。
「火属性の初級魔法です。思ったところに飛ぶ、松明のみたいなものですよ!」
視線を戻すと、フィーリがそう説明しながら球体を移動させる。見ていたリディオも同じようにしながら、「肉とか焼けるのか?」なんて聞いていた。
「熱くないから、無理だと思いますけど……焼けませんよね?」
「……そこでなんであたしを見るのよ。知らないわよそんなの」
全然熱さを感じないし、たぶん無理だと思うけど……なんて考えつつ、その明かりを頼りに再び万能地図を開く。
久々にナビゲーション機能を起動し、最深部までの最短ルートを検索し、頭に叩き込んだ。
「皆、絨毯に乗ってー。お昼までには探索を終えて帰るわよー」
あたしはそう口にし、容量無限バッグから空飛ぶ絨毯を取り出して広げる。直後、絨毯はふわりと浮かび上がった。
「メイねーちゃん、この布も錬金術で作ったのか? 浮いてるぞ?」
「そーよー。こう見えて乗り心地は最高なんだから、安心して乗りなさい」
言いながら、あたしは絨毯に腰を下ろす。それにルメイエが続くのを見て、リディオも恐る恐る絨毯に乗り込んだ。
「おおお、すげぇ。本当に浮いてる! 錬金術すげぇ!」
空飛ぶ絨毯初体験のリディオは年相応の反応を見せてはしゃいでいる。
なんか褒められてるし、魔法使いより立場が上になった気分ねー。
「むー」
「なにしてるの、フィーリも乗っていいわよー?」
そんな中、一人ほうきにまたがっていたフィーリにそう声をかける。坑道内は突然天井が低くなっている場所もあるから、ほうきは危ないと思う。
「でも、わたしも乗ったら狭くないですか?」
「ちょっと狭くなるけど、詰めて乗れば大丈夫よー。今日は絨毯のほうが安全だし、いいから早く乗りなさい」
そして手招きすると、フィーリは渋々絨毯へと乗ってきた。なんか不満そうだけど、どうしたのかしら。
「それじゃあ、最深部目指して出発! 落ちないようにしっかり掴まってなさい!」
一番前に陣取って万能地図を見つつ、背後の三人に声を飛ばす。あたしのすぐ後ろにはフィーリとリディオが横並びになって座り、しんがりはルメイエが務める。
数時間で地下迷宮を攻略した経験もあるし、こんな廃坑、速攻で攻略してあげるわよ。
「……ここは右ね。次もまた右。今度は左で、この先はちょっと狭いから迂回して……」
それなりの速度で飛行しつつ、ナビを頼りにどんどん廃坑の奥へと進んでいく。
「フィーリ、もうちょっと進んだら魔物がいるから、先制攻撃お願いね!」
「おまかせください!」
あたしがそう指示を出すと、フィーリは鞄から雷属性の属性媒体と杖を取り出す。
ここまではなんとか魔物との遭遇を避けてきたけど、そろそろ厳しい。
廃坑はそれ自体が古くなっているので、強い衝撃を与えると崩れる危険がある。そうなると爆弾は使えないので、ここはフィーリの魔法に頼るしかない。
……そんなことを考えていると、次第に魔物の反応が近づいてきた。暗闇に目を凝らす。そこには巨大なクモの姿をした魔物が数体うごめいていた。
「前方に魔物発見! フィーリ、よろしく!」
「はい! ライトニングスピア!」
絨毯の速度を緩め、背後を振り向きながら言うと、立ち上がったフィーリが全身に僅かな雷を纏いながら叫ぶ。
次の瞬間には一筋の光が走り、魔物を卒倒させた。
……その後も最短ルートを進んでいると、数体の魔物と遭遇した。どれも蜘蛛のような姿をしていて、目が退化しているのか、音に反応してきていた。
「……ライトニングスピア!」
だけどフィーリの雷魔法は音より早く、魔物たちはなす術なく蹴散らされていった。
「……すっげ」
「フィーリ無双だね。これは問題なく最深部までたどり着けそうだ」
背後からそんな会話が聞こえる中、さらに奥へ進んでいくと、急に目の前がひらけ、あたしの視界にあるものが飛び込んできた。
それはこれまで何度か見たことのある、妖精石が放つ淡い光だった。
「ちょっとストップ!」
思わず絨毯を止めたあたしは、万能地図で周囲に魔物がいないことを確認して地面に降り立つ。
「……どうしたんだい? 急に止めて危ないじゃないか」
「ごめんごめん。妖精石見つけちゃってさ。つい」
地面に半分ほど埋まっていた妖精石を掘り起こし、皆に見せてから容量無限バッグへしまう。
「そういえば、ここでは妖精石が採れるんだったね」
「そうよー。ほら、あっちにもあるし」
あたしは照明魔法の光量を落としてから、少し離れた場所を指差す。
自ら光を放つ妖精石は暗闇だと見つけやすく、あちらこちらにその姿が散見できた。
「この際、皆で集めない? この辺、魔物もいないみたいだしさ」
万能地図を索敵モードにして、常にその状況変化に気を配りながら言う。
「えー、ここまで来て石集めかよー」
「あの石、お店に持っていけばいい値段で買い取ってくれるわよ。手伝ってくれたら、少し分けてあげる」
不満そうに言うリディオにそう伝えると「もしかして、廃坑のお宝ってこの石のことなのか?」と、目を輝かせる。
お宝……なのかは疑問だけど、盗賊団を抜けた後のことを考えたら、多少お金に変えられるものを持っていたほうが良いと思う。
「……メイ、あれを見てごらん」
「拾うぞ! 魔法使い!」なんて言って、フィーリを巻き込んで妖精石を集めはじめたリディオを微笑ましく見ていると、ルメイエがあたしのスカートを引っ張りながら言った。
「あの独特の輝きはもしかして、ガルマン鉱石じゃないかい?」
「へっ?」
ルメイエが指し示す先を見ると、以前鉱山カフェで見たガルマン鉱石が岩壁にへばりつくように存在していた。
……サイズはそこまで大きくないけど、カフェのマスターが言った通り、ちゃんと存在するんだ。
これはゲットするしかないと、あたしは周辺の警戒をルメイエに任せ、採取に取り掛かったのだった。
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