第二十話『湖の街にて・その③』
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
あたしは旅する錬金術師メイ。今日から魚釣りのお仕事開始ということで、朝日とともに湖へ繰り出していた。
「他の漁船も集まっているし、この辺かしら。それいけーー!」
湖の真ん中あたりにやってくると、他の船に交じって釣り糸を垂れる。と言っても、魚釣りは全自動の釣り竿にお任せだった。船の左右に五本ずつ、等間隔で並べた釣り竿が、まるで意志があるかのように魚と駆け引きを始める。
「お!? さっそく釣れた! すごいすごい!」
さすが究極の錬金釜で作った釣り竿。ものの数分と経たぬうちに、次から次に魚を釣り上げていた。そりゃもう、ばっしゃばっしゃと。
……ところであたし、釣り針にエサつけた記憶ないんだけど。なんでこんだけ入れ食いになんの? ルアーでもついてるのかしら。
「……まあ、いっか。釣れてるんだし」
あたしは深く考えるのをやめて、まるで、以前テレビで見たカツオの一本釣りみたいだなぁ……なんて呑気なことを思いながら、釣り上げられた魚を船の水槽に移す作業に集中することにした。ぴちぴちと跳ねて、すごく活きが良い。
○ ○ ○
さらに一時間ほど釣り続けていると、一艘の船が近づいてきた。あたしの船より一回りほど大きな船で、三人の作業員が乗っていた。
「よう、お嬢さん、えらく景気がいいな」
乗っている三人のうち、船長らしき男性が声を張り上げる。その視線は、魚で一杯になったあたしの船の水槽に向けられていた。
「一人かい? それだけの魚、どうやって釣り上げたんだ?」
「それは秘密です!」
あたしも負けじと大きな声で言うけど、あたしの背後では全自動の釣り竿がリアルタイムで魚を釣り上げている。これは隠しようがない。
「たまげたなぁ。どんな魔法だ?」
魚を満載した水槽から、勝手に動いている釣り竿に視線を移しながら、船長が驚いた顔で言う。
「これは、錬金術です!」と、胸を張って答えるも、向こうの船の三人は首を傾げていた。はいはい、分かってもらえるなんて思ってないですよーだ。
「よくわからねぇが、うちにもその釣竿を貸してくれねぇか? もちろん、タダとは言わねぇ。一日1000フォルでどうだ?」
「ざ、残念ですが、レンタルは無理です。これはメイ工房の専売特許なので」
1000フォルという値段に一瞬心が揺らいだけど、なんとか断った。この全自動シリーズ、下手に使われて楽を覚えられても困るしさ。
「そりゃ残念だ。じゃあ、俺たちもお嬢さんに負けねぇように、漁に励まねぇとな! お前ら、別の漁場へ向かうぞ!」
へーい、という部下の声を合図に船が方向を変え、遠ざかっていった。思えば、あちこちの船から似たような視線が向けられている気がする。やっぱり、目立つわよねぇ。
あたしとしては、今更隠す気もないんだけど……なんて思いつつ、水槽が一杯になった船を一旦港へ戻すことにした。
○ ○ ○
「お、もう戻ってきたのか?」
港に戻ると、そこには例の冒険者ギルドの男性がいた。ギルドの建物はここから近いし、きっとあたしが戻ってくるのが見えたんだろう。
「自分の昼飯くらいは釣れたか?」と言いながら船の水槽を覗き込んできたその人に、「見ての通りです」と、水槽の中を見せる。男性は目を丸くしていた。
「どうぞ、必要な分は持って行ってください」と伝えると、慌てた様子で木箱を用意して、何匹かの魚を持って行った。まだまだたくさん残っているし、残った魚は容量無限バッグに放り込んだ。地域限定、魚素材大量ゲット!
「さーて、少し休憩したら、また頑張りますかねー」
あたしは余裕綽々で陸に上がると、大通りの屋台でお昼ご飯を食べる。悩んだ末、フィッシュバーガーにした。このタルタルソース、絶品。
そんな小休止を挟んで、午後からも湖へ。水温の関係なのか、一時釣れない時間帯もあったけど、先に納品を終えている余裕もあって、お昼からは船の上でお菓子を食べたり、日光浴をしたり。素敵なオーシャン……いや、レイクライフを満喫した。
それでも夕方には朝と似た釣果を上げて港に戻り、その日の仕事は終わった。
○ ○ ○
翌日もその翌日も、同じように働く。午前中に納品用の魚はある程度確保して、午後は自由気ままなレイクライフを送る。
余った魚はそのまま市場に売りに行き、お金に変える。全自動釣り竿で釣った魚は手頃なサイズが多いらしく、一日平均5000フォルの売り上げ。
本来なら必要なはずの船の経費も、自前で揃えてるからなし。乗組員への給料も、あたし一人だから必要ない。これはなかなかに美味しい商売な気がする。
……冒険者ギルドの人、会うたびに顔が青ざめてたけどさ。ふふふ、どーしたのかしらねー。
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