第三十一話『第二回錬金術教室、開校ピンチ?』


 市長から錬金術学校の許可をもらってすぐ、あたしたちは開校準備に取りかかった。


 教室としてアクエの家の空き部屋を借り、人の集まる彼女のお店に開校を知らせるポスターを貼らせてもらう。


「さーて、皆さまご立会! 世にも珍しい錬金術でございます!」


 そしてその翌日には、あたしは街の中央広場にお店を出したカリンの隣で、錬金釜をかき混ぜていた。


 街の人たちに錬金術を知ってもらう目的で始めたものの……結果は芳しくなかった。


 ポーションを作ろうが、パンを作ろうが……皆、遠巻きに見るだけで誰も近づいては来ない。


「えー、反応わるぅ……。どういうことー?」


「なんか皆、怖がっちゃってる感じだねぇ……あ、お買い上げありがとうございまーす」


 隣で接客するカリンに小声で話しかけてみるも、彼女も首を傾げるだけだった。


 カリンのお店は大盛況だし、旅人のあたしたちを疎ましく思っているわけではなさそうだ。


「狭い土地だし、錬金術は奇妙な術……みたいな噂が独り歩きしてたりする? どのみち、これは何か手を打たないとねぇ」


「そうねぇ……ちょっと、ルメイエに相談してくるわ」


 そう言うが早いか、あたしは錬金釜を片付け、いそいそとその場をあとにした。


「……というわけなんだけど、ルメイエ、原因は何だと思う?」


 やがてアクエのお店に戻ったあたしは、二階のリビングで一人くつろいでいたルメイエに疑問を投げかける。


「山裾の村ではうまくいったのに……まさか、あの市長が錬金術の悪い噂を流してるとか?」


「昨日の今日で、さすがにそれはないだろうね。となると、原因は一つかな」


 ルメイエはそう言うと、ソファーから起き上がって窓辺へと歩いていく。


「錬金術を広めるにあたり、山裾の村にあって、この街にないもの……わかるかい?」


「うーん……もしかして、錬金術による実績?」


「そう。山裾の村は、キミが錬金術を用いて幾度となく人々を救ってきた場所だ。それだけに錬金術が信頼されているし、認知度も高いわけだよ。対して、この街はどうだい?」


「アクエにちょっと見せてあげたくらいね……認知度なんて、ないに等しいかも」


「だろう。いくらカリンの力を借りて開校にこぎつけたとしても、生徒が集まらないんじゃ話にならないよ。まずは、実績を作るんだ」


 窓の縁に体を預けながら、ルメイエは続ける。その言葉は、この世界では錬金術がマイナーだという事実を、あたしに思い出させてくれた。


「実績って言われても……この街には冒険者ギルドもないのよね。どうしたものかしら」


 あたしはこめかみに手を当てて考え込むも、なかなかいい案は浮かばない。


「フィーリちゃん、ここまでおいでー!」


「むむむ……ニーシャ、早いですー!」


 思い悩んでいたその時、窓の外から賑やかな声が聞こえた。


 ルメイエとともに視線を向けると、フィーリとニーシャがほうきに乗り、空中でじゃれあっていた。あたしは思わず笑みを浮かべる。


「あの二人、のんきなものねー」


「すっかり仲良くなっているみたいだよ。昨日も夜遅くまで、魔法談義に花を咲かせていた」


 その様子を見たルメイエも表情を緩め、晴れ渡った空を飛び交う二人を微笑ましく見る。


 旅をしている関係上、フィーリはなかなか親しい友達ができない。


 まして、ニーシャのような魔法使いの友達は初めてかもしれない。フィーリは本当に楽しそうだった。


 それを見ていると嬉しくなる一方、あの場に混ぜてもらいたいという気持ちが強くなった。


「せっかくだし、あたしたちも参加する?」


「キミは何を言っているんだい? 今はそれどころじゃないだろう?」


「いいじゃない。なんか気分転換したいのよ」


 そう言いながら、あたしは容量無限バッグから空飛ぶ絨毯を取り出す。


 目の前で広がった絨毯は、床から数センチの高さにふよふよと浮遊していた。


「そうかい。ボクは遠慮するよ。読みたい本があるから……おわっ」


 そう言って背を向けたルメイエの襟首を掴み、その小さな体をひょいと持ち上げる。


「そんなこと言わないで、一緒に遊びましょ。よいしょーっと」


 そのまま放り投げるように絨毯に乗せる。ぽすん、といい音がした。


 あたしはため息をつくルメイエを横目に絨毯に乗り込むと、窓の外へ向けて発進させた。


 頭空っぽにして遊べば、いいアイデアも浮かぶかもしれないわよね!

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