第四十四話『絵本を旅する錬金術師!?・その④』


「ぜー、はー、な、なんとか逃げ切ったぁ……」


 必死の思いで森を抜けると、キノコ軍団はそれ以上追ってくることはなかった。


 今になって思い返してみると、あのキノコは以前、迷いの森で出会った守り神に酷似していた気がする。


 まぁ、本物に比べればミニチュアサイズだったけれど、数が多かったし。あれは引く。


 それにミニチュアだろうとなんだろうと、キノコは怖い。まして、今のあたしはまともに戦うこともできないし。


「……いやぁ、魔女様は思った以上に足がお速いですね」


 膝に手をつき、肩で息をしていると、疲れ切った顔のランスロットさんが追いついてきた。


 その全身は黄緑色の謎の液体がつきまくっていたので、あたしは笑顔で距離を置いた。



 ……それからしばらく歩くと、今度は川が見えてきた。


 見たところ橋もなく、川幅も広くて流れも早いので、泳いで渡るのも無理そうだった。


 かといって道具は使えないし、どうしたもんかしら。


「そこのアンタ! 川を渡れなくて困ってるんでしょ!」


 考えあぐねていた時、頭上から声がした。思わず見上げると、これまた見知った怪鳥さんの姿があった。


「ルマちゃん!? って、なんかちっちゃくない?」


 やがて目の前に下りてきたのは、それこそミニチュアサイズのルマちゃんだった。見た感じ、翼を広げても1メートルもない。


「ルマちゃん? 鳥違いじゃない? アタシは幸せの青い鳥よ!」


「ダウト! あんた、青くない! どっちかって言うと白いじゃないの!」


「細かいことはいいのよ! それより、アタシを仲間に入れなさい! 真珠、持ってるんでしょ!」


 言うが早いか、自称青い鳥さんはあたしの容量無限バッグを突っつきはじめる。


「ちょっとやめなさい! わかったから!」


 そんな鳥さんをあたしは手で追い払って、バッグからきびだんご……じゃない、オーロラ姫からもらった真珠を差し出した。


 鳥さんはあたしの手からそれをかっさらうと、ごくりと飲み込んだ。え、飲んじゃうんだ。


「契約成立ね。アタシが仲間になったからには、大船に乗ったつもりでいなさい!」


 彼女はそう言いながら、あたしたちの周りを旋回した。これは心強い……のかしら?


「ところで鳥さん、目の前の川を渡るのに、さっそくその大船が必要そうなんだけど」


 轟々と流れゆく川を指差しながらそう口にすると、鳥さんはドヤ顔をした。いや、表情は変わらないんだけど、そんな気がした。


「任せなさい。アタシにかかれば、こんな川なんてひとっ飛びよ」


 そう言って、あたしの目の高さにその両足を持ってきた。掴まりなさい……ってことかしら。


 意を決してその両足を掴むと、体が一気に持ち上げられた。


「おお、さすがルマちゃん、ちっちゃくても力強い!」


「だから、アタシは青い鳥だって言ってるでしょ! 対岸まで飛ぶから、しっかり掴まってなさい!」


 直後に彼女は急発進し、キラキラと輝く水面ギリギリを滑るように飛んでいく。


「うひゃーー! これ、楽しいーー!」


 ぶら下がりながら高速で飛ぶというのは初めての経験で、これまでに乗ったどの乗り物とも違う感じだった。


 風を切る感覚というか、飛んでる感がすごい。ターザンロープのアトラクションってこんな感じなのかも。乗ったことないけど!



「いやー、面白かったー。鳥さん、もう一回」


「遊園地じゃないんだから、一回きりよ。次はあの騎士を連れてくるから、ちょっと待ってなさい」


 夢心地のうちに対岸にたどり着いてしまい、あたしは地面に降り立ちながらそう懇願する。


 けれど、そんな願いを彼女は一蹴。川の向こうへ飛び去ってしまった。


 その背を見送りながら、あたしはふと思うことがあった。


 ランスロットさんが仲間になった辺りから、話の展開がなんとなく桃太郎になってきたな……と。


 つまり、ランスロットさんがサルで、青い鳥さんがキジのポジションだ。


 サルの代わりに騎士さんがいるのは心強いけど、40人の盗賊を相手にするには、ちょっと……いや、かなり心許ない。


 こうなると最後の家来に期待するしかないのだけど……残りは犬かしら?


「犬……犬ねぇ……」


 一番に頭に浮かんだのは、雪の国で戦ったケルベロスだ。あれが犬っぽかった。


 素早い動きであたしやフィーリの攻撃を避け、2つの口から炎を撒き散らす強敵。あの子が仲間になってくれれば、40人の盗賊とも渡り合えるかも。


「す、すまない青い鳥さん! もっと高く飛んでくれないか!?」


「うっさいわねー。アンタ、鎧なんて着てるから重いのよ! 妙に汚れてたし、川で洗濯されて綺麗になったと思いなさい!」


 考えを巡らせていると、そんな会話とともに家来の二人が戻ってきた。それじゃ、旅を再開するわよ!

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