第五十二話『錬金術師の隠れ里・その②』
……その後、その女性はロゼッタと名乗り、あたしを群衆から救い出してくれた。
そして案内されたのは、とある建物。どうやら彼女の自宅らしい。
「……なるほど。メイ様の錬金術は、いわば神からもたらされたものだと」
そこで改めて自己紹介をし、この街にやってきた経緯を説明するうちに、そんな話になった。
いわばじゃなくて、本当に神様からもらったんだけど……いや、それは話がややこしくなるから置いておこう。
「そうなんです。だから決してその、伝説の大錬金術師とかじゃないんですよ」
「早合点しました。あまりに容姿が似ていたもので、こちらも間違えてしまいました」
言って、ロゼッタさんは申し訳なさそうな顔をする。メイとルメイエ。名前は似てるけど、見た目もそんな似てるのかしら。
興味本位で聞いてみると、「メイさんがいた噴水広場、あそこに立っていたのが彼女の銅像ですよ」と教えてくれた。
思い出してみれば、それっぽい像が立っていた気がする。錬金釜と杖、そして本を持った、女性の像が。
「……似てた、かしらねぇ?」
近くにあった鏡を見やり、自分の頬に手を当てながら呟く。なにぶん、記憶があいまいなので。
となると、道行く人があたしを見てたのは、旅人が珍しいんじゃなくて、その、ルメイエさん? に似てたからだったのね。納得。
「ところで、ロゼッタさんはルメイエさんとどんな関係なんです?」
尋ねると、「そうですね。私の親友であり、錬金術の師匠みたいなものです」と、どこか懐かしそうに話してくれた。
「ほうほう。大錬金術師と言われるくらいですし、やっぱりすごい腕前だったんです?」
ずいっ、と前に出て、あたしは話を聞く体勢になる。伝説の大錬金術師、実に興味深い。
「ええ、錬金術師としての腕前は圧倒的でした。幼いころから神童と呼ばれるほどに。その代わり……」
そこで一度言葉を区切り、小さくため息をつく。そして言った。
「仕事は早いのですが、その分時間を持て余していて……悠々自適に暮らしていたというか、とにかくグータラで……」
……うわぁお。どこの世界にも、そういう人いるのね。スローライフ目指すの、あたしだけじゃないんだ。
「して、この街で悠々自適に暮らしていたはずのその人は、今どこに?」
「それが……今から15年前、突然旅に出ると言って姿をくらまして以後、戻ってこないのです」
もう一度、今度は先程より大きなため息をつきながら言う。うーん、暇すぎたのかしら。
……うん? ちょっと待って。その人が出ていったのって、15年も前の話なのよね?
一応確認すると、「そうですが」と言葉が返ってきた。
ということは、ルメイエさんは少なくともロゼッタさんに近い年齢のはず。あたしの見た目はどう見ても10代後半。ロゼッタさんとは20歳以上離れてると思う。なんであたしが間違えられるの?
その疑問を伝えると、「それはわかっているのですが、若い頃のルメイエに本当にそっくりで、つい」と、先程の広場での行動を恥じた。まぁ、いなくなった幼馴染にそっくりな人物が現れたら、動揺する気持ちもわかるけど……。
「それに彼女なら、若返りの秘薬くらい調合してしまいそうで。この街を覆うあの半球状の屋根も、あの空に浮かぶ太陽も、転送装置も、全て彼女が作ったものなんですよ。むしろ、彼女にしか作れません」
なんて、昔を懐かしむように言う。それ全部作ったの? すっご。あたしより前から、この世界にはチート級の錬金術師がいたのねー。
「ほうほう。それじゃあ、この街の基盤はほとんどルメイエさんが作ったと?」
「そうですね。それこそあなたより若い頃、砂漠の地下に秘密基地を作ると言いだしまして。ひと月のうちに完成させました」
窓の外の街並みを見ながら言う。まさかの衝撃の事実。この街の始まりは、凄腕錬金術師の秘密基地なわけ? 規模が違うわー。
「さすがに広く作りすぎたということで、次第にルメイエから錬金術を学びたいという者たちが集まってきて、今のような錬金術師の街ができたのです。ほら、錬金術師には世知辛い世の中でしょう?」
……うん。それは同意。激しく同意するわ。
「ですが、元々静かな環境が好きだったルメイエにとって、人が多くなりすぎたんでしょうね。次第に引きこも……いえ、実験室から出てこなくなり、やがて……」
「……うん。察しました」
……ある日、旅に出てしまったと。彼女にしか作れない道具――いわゆる、ロストテクノロジーを残して。だけど、彼女が旅に出たくなる気持ち、わかるかも。
「……では、昔話はこれくらいにしまして」
うんうん、と一人で頷いていると、ロゼッタさんが一転、真面目な顔であたしを見た。
「すでに伝説の大錬金術師が戻ったという噂は、街全体に広まっています。それはもう、もみ消せないくらいに」
「あー、そーですよねー」
思わず天井を見上げる。後先考えず、人前でチートアイテム使ったあたしも悪いけど、現状は困るわ。せっかく錬金術師の街に来たのに、自由に観光すらできないじゃない。
「そこで、メイさんに提案があるのですが」
「なんでしょう?」
「いっそ、この街に滞在する間、ルメイエとして振る舞ってみてはいかがですか?」
「はあぁぁーーー!?」
その提案を聞いた瞬間、あたしは街中に響く声で叫んでしまった。嘘でしょー――!?
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