第七話『山裾の村にて、転生仲間と語らう』
村長さんに川の上流の状況を説明したあと、あたしはカリンの待つ村の宿へと向かう。
一人だとなんとなく心細かったので、フィーリとルメイエにも同行してもらった。
当人たちは渋っていたけど、ここまで来たら
「あー、メイ先輩、いらっしゃーい」
部屋に足を踏み入れると、自前の食料で食事を終えたばかりだったのか、カリンは急いで口元を拭いていた。
「ルメイエちゃんたちも来てくれたんだねー。まー、座って座ってー。鉱山都市のおいしいお菓子を出すからさー」
ニコニコ顔の彼女が出してくれたのは、鉱山ビスケットだった。
それを見て、あたしたちは顔を見合わせる。
名前の通り岩のように硬いお菓子で、かつて鉱山都市にあるカフェで食べたことがある。
あの時は、不用意にかじりついたフィーリが歯を痛めていた。
「ありがとー。せっかくだし、あたしたちからはお茶をごちそうするわねー」
その特性を知るあたしは、容量無限バッグから茶葉とティーセットを取り出す。お茶と一緒に口の中で溶かして食べると良い……と、以前学んだのだ。
「鉱山ビスケット、知ってたかー。残念」
間違って大量に買っちゃって、全然売れなくて困ってるんだよねー……なんて続けながら、彼女も一緒にビスケットを口の中で転がす。
そんなカリンをしばし眺めたあと、あたしはかつて自分の身に起こった出来事について、彼女に話して聞かせた。
「……神様のミスで、若返ったルメイエちゃんの体にメイ先輩の魂が入って、ルメイエちゃんの魂は自律人形に……そんな漫画みたいな展開、あるんだねー」
話を聞いた彼女はあたしとルメイエを交互に指差しながら眉をひそめていたが、最後は笑い飛ばしていた。
あたしはともかく、ルメイエにとっては笑い事じゃないのだけど。
「ということは、メイ先輩の名前は元の世界でもらった名前のまま?」
「そうなのよねー。あたし、5月1日生まれだったからさ。親が単純につけたの」
「あー、なるほどねー」
おもむろにそう口にすると、彼女には伝わったらしい。この手の話ができるのはルマちゃんくらいだったので、少し嬉しくなる。
「ちなみに、私は普通に商人の家の長女として生まれて……あ、転生前の話は聞かないでね。アニキと一緒に事故に遭ったんだけど、あんま思い出したくないから」
「もちろんよー」
元の世界を知る人物相手に、おのずと会話に花が咲く。
ルメイエとフィーリは、そんなあたしたちの会話を興味深そうに聞いていた。
「そうだ。一つ聞きたいんだけど、あんたも何かチートアイテム持ってたりするの?」
「チートアイテム?」
ふと気になって、あたしはそんなことを訊いてみる。カリンは首を傾げていた。
「例の神様からもらってない? あたしの場合、さっき見せた容量無限バッグとかがそうなんだけど」
「あれ便利そうだよねぇ。私のバッグもいくらでも物が入ればいいのに」
あたしは詳細を話すも、彼女は苦笑しながら首をひねるだけだった。
その言い方からして、何も持っていないの? あるいは、バレるのが嫌で隠してるとか?
それとなくカリンの服装を確かめるも、その隣に置かれた大きなリュック以外、気になるものはない。
そのリュックも至るところに修繕のあとがあり、あれがチートアイテムだとは考えられなかった。
……まあ、全員が全員、チートアイテムを持って転生してくるわけでもないのかも。ルマちゃんなんて、鳥だしさ。
あたしがそんな結論に行き着いた一方で、カリンは「ぐぬぬ……私もチートアイテム欲しい……」と、ぼやいていたのだった。
◯ ◯ ◯
その翌朝。外に出てみると、村の景色が様変わりしていた。そこらかしこで、無数の布が風になびいている。
「へー、これが例の染め物? 工場の前だけじゃなく、村中で干すのねー」
一人で村を歩きながら、その様子に見入る。赤く染め上げられた布が風になびく光景は、どこか幻想的だった。
「メイさーん、やっと起きたんですかー?」
その時、空からフィーリの声が降ってきた。
「おはよー。フィーリ、朝からほうきに乗って何してるの?」
「カリンさんに雇われて、荷物の配達中です!」
フィーリはそう言うと、あたしの目の前でくるりと旋回する。そのほうきの柄先には、いくつかの袋がくくりつけられていた。
「配達? 小さな村なのに、それまたどうして?」
「あの人、村の広場でお店始めたんですが、そこに来られないお年寄りの家まで、荷物を運んでくれと頼まれまして」
「あー、そういうこと……」
「タクハイビン、ソクタツでよろしくー……って言われたんですが、なんのことでしょうか」
あたしが納得顔をする一方で、フィーリは首を傾げていた。
「……まったく、朝から人使いの荒い商人さんだよ」
そうこうしていると、ルメイエが小走りにあたしたちのもとへとやってきた。
「ルメイエ、あんたは何してるの?」
「カリンに頼まれて、御用聞きに歩いていたのさ。フィーリ、その配達が終わったら、こっちを頼むよ」
彼女はため息まじりに言って、フィーリにメモを手渡す。
それを見たフィーリは顔をひきつらせたあと、いずこへと飛び去っていった。
「朝から動きがすごいわねぇ……」
「感心してないで、キミも手伝ってくれないかい?」
「そうねー。ちょっとカリンのところに行ってみるわ。広場だっけ?」
「ああ、たっぷり仕事を振られてくるといい」
ひらひらと手を振りながら、ルメイエは立ち去っていく。それを見送ってから、あたしは広場へと足を向けた。
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