第四十話『図書館島にて・その③』
その後、再びやってきたカーナさんから夕食が提供された。
器とトレイが一体化したような容器に、オートミールのような主食とペースト状の野菜、ミートボールのようなものが分けて盛られていた。
ルメイエとフィーリは見た目も変わっていて美味しいと言っていたけど、あたしはなんとなくレトルト食品っぽい感じがして、あまり美味しく食べられなかった。
食事を済ませた後は特にやることもなく、適当な空き部屋に全自動風呂釜を設置して入浴を済ませ、明かりを小さくしてベッドに入る。
「……メイ、一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかい?」
ベッドに寝っ転がり、分厚い魔導書を読んでいたフィーリに眠るように伝えた矢先、先にベッドに入っていたルメイエが上体を起こし、真剣な眼差しであたしを見てきた。
「え、聞きたいことって?」
「キミがこの図書館島に来た理由だよ。錬金術の本を探していたのはわかったけど、詳しい話は聞いていないからね」
「あー……」
ルメイエからの質問に、あたしは言葉に詰まる。
リチャードさんからこの島の話を聞いて、勢いそのままに二人を引っ張ってきてしまったけど、その理由を話してなかった。
「古今東西の本が集まるこの図書館島なら、錬金術の本もあって、その本には魂を移す道具の作り方も載ってるはず……って思ったの。結果的に収穫なしだったけど」
「……図書館所蔵の本にレシピが載っているのなら、キミの持つ伝説のレシピ本にその作り方も載ってるんじゃないのかい? その本こそ、あらゆるレシピが載っているんだろう?」
「そのはずなんだけどね……何度調べても、魂を移す道具のレシピは載ってないのよ。さっきの容量拡大バッグのレシピとか、すぐ出てきたのにさ」
言いながら、これまで何十回と使ってきたレシピ本をぱらぱらとめくる。
……その時、あたしの脳裏にある憶測が浮かんだ。
……まさかこのレシピ本、この世に存在するレシピの中から『あたしが望むレシピ』を出してくれるのかしら。
つまり、あたしは心のどこかで、この体をルメイエに返したくないと思っていて、魂を移す道具を『望んでいない』。だから、レシピも表示されないと。
「……何度も言うけど、ボクは急ぎはしないよ。時間はいくらでもあるから、体を返すのは、そのうちで構わない」
まるであたしの心を見透かすようにルメイエが言う。あたしは返す言葉が見つからなかった。
「じゃあ、おやすみ。フィーリも根を詰めないようにね」
あたしが困惑しているうちに、ルメイエはそう言ってベッドに潜り込んでしまった。
やがてフィーリも魔導書を閉じると、そのままあたしに挨拶をして、明かりを消した。
残されたあたしも横になって、目を閉じる。だけど、眠気は一向に訪れなかった。
……ボクは急ぎはしないよ。時間はいくらでもあるから、体を返すのは、そのうちで構わない。
ルメイエはああ言ってくれたけど、あたしの内心は複雑だ。
彼女に体を返したいという思いは少なからずあるはずなのに、レシピが出てこないということは、それを拒む自分がいるのも事実なわけで。
心の中にモヤモヤしたものが広がって、とてもじゃないけど眠れなかった。
……駄目だわ。ちょっと風に当たってこよう。
そう思い立って、あたしは宿泊棟を抜け出したのだった。
「……あ、いい風」
外に出ると、程よい海風が顔に当たる。ここが島だということを忘れていた。
気が向くままに歩き、たまたま目についた流木に腰を下ろす。
そして空を見ると、満天の星を四角く切り取ったような蔵書棟のシルエットが見える。
「こうやって見ると、大きな建物よねぇ……」
なんとなくその影像を眺めていると、その一角に赤い光があった。
「え、なにあの光?」
目を凝らしてよく見ると、蔵書棟の5階部分にある窓がほのかに赤く輝いていた。
「……もしかして、火事?」
一瞬でそんな考えに至り、背筋が寒くなる。本は紙だし、火事になったらひとたまりもない。
あたしは腰に容量無限バッグがあるのを確認すると、蔵書棟に向かって走り出した。
たどり着いた蔵書棟には鍵がかかってなく、入口の扉は軽く押すだけで開いた。
カーナさんがいるかと思い呼びかけるも、反応はなかった。自律人形もどこかで休んでいるのかしら。
そんなことを考えながら、先の光源を探す。やがて上空にその光を見つけた。
「……なんか、火じゃないみたいね。何かしら」
空飛ぶ絨毯に乗り込み、ゆっくりと近づいていく。その光の中心には、一冊の本があった。
本棚の前で絨毯を停止させ、手すりを乗り越えて狭い通路へと移動する。
「……人魚姫と40人の盗賊?」
赤く光る本を手に取ってみると、それは絵本だった。なんか、色々と混ざっている気がする。
少し考えてから、どうせ眠れないし……と、あたしはその絵本を開いた。
……直後、あたしの視界が白く染まった。
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