第40話 巨乳で年上が好み
とある休日。
日戸家のリビングにて。
朝乃、進、初花、亮平、日戸家子供世代が一同に会していた。
「えー、これより、緊急親族会議を始めます」
そして、神妙な面持ちの最年長、朝乃が議長となり会議が始まった。
「高千穂のボンボンが帰ってきたので、どうにかアレを殺したいと思うんですが、なんかいい案がある人、挙手願います」
高千穂のボンボンとは、当然、ケント高千穂の事だ。
「ハイ質問」
とりあえず手を挙げたのは、初花だった。
「はい初花、質問を許す」
「高千穂って、横浜方面に行ったんでしょ? どうしてまた?」
「それが、今週突然帰ってきたのよ! 死ねばいいのに!!」
さて、朝乃がこうもケントを嫌うのには簡単な理由がある。
口説かれまくるのだ。朝乃はケントにやけに好かれていて、色々酷い。
「愛しのフィアンセ」とか「我が心に咲く一輪の花」とか、その他諸々、きざで在り来りなセリフを吐くし、その他諸々がキモイので嫌いなのだ。
「せっかく居なくなってスッキリしてたのに!! なんで帰ってくるのよ!! お姉さん激おこ!!」
なお、事情をよく知っている亮平はポテチをかじり、一方、どうでも良くなっている進はスマホを弄っている。
「そこの男子二人! 真面目に話し合いなさいよ!!」
そして怒られたが、亮平は強かった。
「俺の知ったこっちゃねえ〜」
と、マジで動じない。
「進!! あなただって、みふちゃんの事を考えると、今のうちにどうにかしておいた方が良いじゃないの?」
「それは、まあ、うん」
と、進は知らん顔して茶を啜った。
このことに関しては、既に美冬との情報共有を済ませている。
先日の雷獣の件だ。
ケントが去った後、進は雷獣をそのまま家まで連れて帰った。
当然、血だらけのハクビシンを連れて電車に乗る訳にもいかず、魔法で身体能力の向上と力場操作で、家まで建物の屋根と屋上を飛び移ったのだ。
電車よりも早いが、体力と魔力の消費が半端無く、そして帰宅後にヘトヘトになりながら雷獣の治療をしたので、その後はぶっ倒れ、目が覚めた後にブチ切れていた美冬への弁明も合わせて、体力がマイナスに振り切ったのであった。
ちなみに、美冬のブチ切れていた理由は「なんなんですか、このメスイタチは。それに、ご主人様からオンナの匂いがするんですが」という事だった。
あの荒い口調の雷獣がメスだったことに一番驚いたのだが。
なお、雷獣は後で颯爽と帰っていった。
さて、その弁明の中で、ケントと遭遇したことも伝えたのだ。
美冬にとって、ケントはある意味で微妙な敵である。
高千穂は召喚術士で、美冬は召喚獣。
美冬は運用に難が有るが、剣術の腕が良いなどのポテンシャルは相当高い。故に、ケントはある時に彼女を欲しがった。
進が引退するとき、「使わないならボクが貰おう」とか言っていたが、当然それも阻止して今の今まで平和だった。
こればっかりは、美冬をケントの元へ行かせるわけにはいかないのは確か。
それに関しては、美冬が一番嫌がっている。
曰く「金髪は嫌い」「ご主人様から離れるくらいなら死んだほうがマシ」との事。
「っていうかっ、なんでみふちゃん居ないの? 呼んでよ。家に居るんでしょ?」
「いや、今日はどっか遊びに行ってる」
「んんん、こんな時に!! って、あのこ、こっちに友達居たんだ」
「最近出来たんだって」
それがあの雷獣だ。
美冬とあの雷獣だが、気が合うらしく、先日あんなことがあったばかりだと言うのに、すぐに仲良くなっていたのだ。いつの間にか連絡先を交換していたらしい。
だが、あの見た目完全にハクビシンが、何をどうして遊ぶのか不思議である。
「ま、まあ。来れないなら仕方ないとして、なんか無いの?? こー、あいつから近付かれなくなる方法!!」
そして話はなおも続く。
†
会議の中で「重度のブラコンで弟しか愛せない、と理由をつけて高千穂をフる」という案が亮平から出て、朝乃本人を含む周りが賛同する中、進だけが断固拒否したところまで会議は進んだ頃。亮平の「腹減った」の一言から、時計の針が12時を回っていることに全員がやっと気付き、会議は一旦休憩となった。
ただし、実質的に家主の朝乃が「我が家の冷蔵庫に食材などという高級品は無い!!」と言い張ったおかげで、どうしてか、4人総出で近所のスーパーに赴くことになったのだった。
悩みに悩んだ末、カレーでいいか、という女性陣2人の判断により、その食材集めの最中だった。
と言っても、肉と野菜を買えばそれで済むが。
進はカートを押し、他がそれぞれの担当したモノを買いに行った。
ただ、初花は野菜担当で、数が多いからと進を連れ回していた。
「さっき、美冬が、家に居るとか、こっちの友達とか、話がよく掴めなかったんだけど」
初花がニンジンを選びながらそれとなく言った。
恐らく、進を連れ回そうとした目的はこの話をすることだろうが。
初花は、進と美冬が一緒に住んでいることを知らない。わざわざ誰かに教えることでも、広める事でもないからだ。
進は悩んで、別に言い訳をすることも無い、と渋々ながらも話した。
「一応、みふと同居してるから」
「そうなんだ」
初花は、一瞬黙って、また話し始めた。
「大変じゃない? 色々と」
初花は、手に取った中で一番芯が細いニンジンをカゴの中に入れた。
「いや、何も。みふが家事やってくれるからむしろ助かってる」
「そういうことじゃなくて……。まあ、あなた達の事だし、もう何言ってもダメか。特に美冬の方。傍から見たら、美冬がすぅ君に依存してるようにしか見えないし」
初花は呆れた様に苦笑いして言った。
長い付き合いだから、2人のことは良く知っている。
美冬がどれだけ彼に執着しているかは、特に。
「高千穂が美冬の事を欲しがってるって話。普通に考えたら、使い魔なんだから、使い魔らしく使ってくれる主の下へ行った方が良いんじゃないかって思うんだけど」
客観的に見た一般論としての正論では、当然そうなるだろう。
美冬は戦うために生まれた妖で、今は彼女は家事をやっている。本来の“機能”とはかけ離れているのだ。
「まあ、でも、別に無理矢理そうする必要も無いし。そもそも、みふは戦うの向いてないし。『こうあるべき』とか一切無く、あの娘のやりたいようにやればいいと思うよ」
「ほんと、とことん甘いよね」
「手厳しい誰かさんと違ってね」
軽口を叩いてやった。
と言うか、嫌味だ。
「それに、一緒に居たいから一緒にいるだけだし。そこに、みふが戦うための妖だからとか、そういうの関係ないから」
そこだけは、重要だからはっきりと言った。
初花は一瞬黙った。
元は主だった彼女にも、長いこと2人を見て知っているからこそ、思うことはある。
「そういえば、いつから私から美冬に乗り換えたの?」
そして嫌味は爆弾で返された。 進の初恋の相手と言うか憧れていた人は初花で、当然それには彼女が気付いていた。
「さ、さあ……、なんのことやら」
苦笑いすら出来ず、引きつった真顔で答えた。それは、爆弾では済まない。ナパーム、否、水爆だ。
「ねえねえ、どうなの? 巨乳で年上が好みのススム君?? お姉さんにそこんところしっかり教えてくれない??」
初花は悪戯にニヤケながら進に肩を組んで、精神攻撃を開始した。
彼女からフローラルな香りが、本当に心臓に悪い。
爆弾を投下された挙句、今なお時限爆弾も設置されているのだ。
ひっつかれると、匂いが移る。
その匂いに美冬が気付かない訳が無い。
帰るのが今から怖くなった。
最悪の場合、美冬に刺される。
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