第165話 心と体は常にご主人様のものですからね

 進が美冬に頼まれた買い物から帰ると、美冬は丁度、ベランダで洗濯物を干しているところだった。

 何もない休日なのに、陰キャを極めアクティブさのかけらも無い2人は、溜まった家事をする良い機会と言い訳して家に篭った生活をしている。

 家の中だというのに、ベランダの戸を開けているせいで外との気温差はなく、乾燥した東京特有の寒い空気が部屋に入り込んでいる。


 進が冷蔵庫に買ったものをしまったと同時に、外に干すものは終わったらしく、ベランダの戸が閉められた。後は室内に干す下着の類いを残すのみ。


「あれ、珍しく短いの履いてる」

 ふと、美冬の足元に気付いた。珍しく短いスカートで、引き締まった美脚を晒している。

「前に菊花と買いに行ったってやつだけ」

 洗濯物を干すのを手伝いながら、貴重な御足を見下ろす。

「部屋着用のスカート洗ったら部屋で履けるのこれしかなかったんですよ。外出ないから良いかなって思いまして」

「そっか」

「え、はしたないですか?」

「いや、美脚が拝めるんで寧ろ全然」

「じゃああとで膝枕してあげますね」

「よしじゃあ早く終わらせよう」

 

 そして張り切って拾い上げた洗濯物は、思いっきり美冬の下着だった。

 見慣れているものでも、いざその手に持ってしまうと少し戸惑う。


「ちょっと何じろじろ見てるんですか」

「いや、別に、なんでも」

「ご主人様って実はむっつりすけべですよね。安心してください。ご主人様がどれだけえっちで変態でも、美冬はちゃんと受け入れますよ。美冬の心と体は常にご主人様のものですからね」

 言いながら必要以上に体を近づけてくるその仕草こそは可愛らしいが。

「はいはいわかったわかった。作業しづらい」

「何ですかそれっ。美冬と洗濯物、どっちが大事なんですか」

「今は洗濯物が大事」

「手足切り落とされて美冬がいないと生活できない体にされたいんですか?」

「目がマジになってて怖い」


 そうこう話しているうちに、美冬の生足膝枕が遠のいていく。


 

 やっと洗濯物が終わって、美冬の膝枕を堪能することが出来た。普段は進が枕になることが多いし、美冬の膝枕もほぼ布越しなので非常に貴重な状況だ。

 素肌のもちもちすべすべ感や、温かな体温、優しく撫でてくる彼女の手が心地よい。

 

 そんな最中、スマホが通知音を鳴らした。何気なく手にとって画面を見ると、動画アプリの通知だった。VTuberが生配信を始めたらしい。

 そして何気なくタップしてみると、開始前の待機画面とBGMが……


「ふんっ!!」


「痛っ!!」


 進の身体がゴロゴロと転がり美冬の太腿から落され、ローテーブルに激突し背中を強打する。

 スマホは吹っ飛びカーペットの上を滑った。


「美冬の膝の上でV観賞とは、喧嘩売ってるんですか」

「む、無意識に……」

「は? アカウントごと消しますよ」


 美冬の真っ黒く蔑みと絶望と怒りの眼差しで見下された。

 黒いオーラを放ちながら、美冬がゆっくりと立ち上がる。指がバキバキと鳴って、漏れ出た魔力によってスカートと髪が揺れ始めた。


「今ここで決めてください。Vのチャンネル登録解除して土下座するか、今ここで美冬と一緒に死ぬか、裁判所行くか」

 

 美冬の足が、目前に迫った。

 進は後悔した。そして、察した。


 やばい、死ぬ。



 VTuberのいつもの挨拶が虚しく部屋に響いた。

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