第196話 愛してくれないなら死んだほうが良い

「それで、あなたは何をしにいらしたんですか。早く帰ってくれませんか」

「やーアリスに頼まれてぇ、それでって感じ? すぐにサラとアリスも来るよ〜。色々準備中」

「また増えるんですか」

 

 美冬はため息を吐きつつ進を睨みつける。

 何やら顔を合わせないように、壁の方を向いて必死にスマホを叩いている様子。

「ご しゅ じ ん さ ま ♡」

 その態度が気に入らない。

 しっとりと背中から抱き着いて、耳元で囁く。

「どう言う事なのか、説明して頂けませんこと?」

「色々状況が変わって……集まれるのがここしか無かったから仕方なく」

「ふうん? そうですか。今朝言いましたよね、このブスには関わるなって。ご主人様、いつから美冬とのお約束を守れない悪い子になっちゃったんですか?」

「これは怪異に襲われて致し方なく」

「美冬は、ご主人様のことを信じて学校に送り出したんですよ? 美冬はちゃんとお家に居て欲しいですってお願いしたのに、ご主人様のことを尊重したんですよ? ご主人様が学校に行きたいって言うから、美冬は寂しい気持ちとかいっぱい我慢してるんですよ? ご主人様の事を想って、考えて、美冬は頑張ってるんですよ? それなのに、美冬の気持ちを踏みにじって、裏切って、どういう事なんでしょう。ご主人様が美冬の事を好きって、愛してるって言ってくれたのは嘘だったんですか? その程度だったんですか? 美冬は、ご主人様のことを言葉じゃ足りないくらい想ってるのに、ご主人様は美冬の事なんてその程度にしか想ってなかったって事なんですか? どうなんですか? ねえ。もしそうだったらどうしましょう? 嫌ですよ。ご主人様が愛してくれないなら死んだほうが良いって毎日言ってますよね? 毎日毎日毎日毎日、言ってますよね。ご主人様、ご主人様? どうすればもっと美冬の事愛してくれますか? どうしたら美冬の気持ちに気づいてくれるんですか? もし美冬に悪いところがあって、それが嫌でこんなことするんだったら、すぐに直しますから。お願いです教えて下さい。美冬はご主人様と一緒に居たいだけなんですよ?」

 

 後ろで満里奈が「怖い妖怪ってああいうのも居るから気を付けてね」と小声で芙蓉に言っている。芙蓉も「──はい」と納得したように頷いた。

 

「はいはい夫婦喧嘩はワンワンも食わないって〜後にして、後に〜」

 満里奈が力尽くで美冬を進から引き剥がす。

「美冬に説明するとねぇ、芙蓉ちゃんに憑いてるトウビョウ、割と簡単に解決しそうだなってなってきたからなのね〜」

「それ美冬達に関係ありませんよね」

「なりゆきなりゆき〜」

 満里奈は美冬の主張は放っておいて、芙蓉に向き直った。

「芙蓉ちゃん、去年にこっち越して来たんでしょ? その時、変な壺とか処分したりしなかったかなあ?」

「壺……? あまり記憶にない……ですけど、その、古い家だったから、なにか捨てちゃっててもおかしくないかも……?」

「なーるほどねなるほどね〜じゃあねえ、多分なんだけどね? もしかしたらそのトウビョウが寝床にしてた壺も一緒に捨てちゃったんじゃないかにゃーって思うんだあ。ちょっと調べたら、壺に入れるのは四国の習わしらしいんだけどぉ、有り得なくもないかなって」

 

 丁度、ピンポンが鳴る。

「噂をすれば来たねぇ」

 家主よりも先に満里奈が先に立って、玄関を開けに行く。

「さ、入って入ってぇ」

「いや、あの、うん、入る前に荷物全部運びたいんだけど」

 

 その声に、美冬が一番最初に反応した。

「あの、満里奈さん。なんでよりにもよってその人を家に寄越すんですか」

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