第197話 なんですかそのベタなオチ
美冬は基本的に他人が嫌いだ。人間でも妖怪でも動物でも、大体嫌いだ。
特に嫌いなのは、主人に近付く者。
その更に嫌いな3人と言えば、美夏と満里奈、そしてぶっちぎりで初花だ。
そして玄関で困った表情でダンボールを抱えているのが、初花だ。
美冬が反射的に立ち上がろうとしたのを、進が腕を引いて留まらせる。
美冬は何度も玄関の方と進を見て、観念し、諦め、立ち上がるのをやめた。
不機嫌を通り越して、絶望したような顔。
「ちょっと〜進も手伝ってよぉ〜」
満里奈に催促され、進が美冬を置いて立ち上がった。
部屋を出て、下の方で何か騒いでいる。アリスのエンジン音だ。特徴的なV8と4本のマフラーからでる排気音だからよくわかる。
部屋にはいくつかのダンボール箱が持ち込まれ、ダンボールに人間に、それに犬のサラまで部屋に入り込んで酷いことになっている。
美冬は台所に逃げることにした。
唯一、誰にも侵されない自分の持ち場だ。
居間では、壺の品評会が始まっていた。量販店で急いで買ってきたらしい花瓶や漬物用の壺から、魔導庁に押収されていたいわくつきのモノまで色々ある。
それを逐一蛇に見せつけては、蛇は賢いのか「これじゃない」と言わんばかりにそっぽを向いている。
「も〜この強欲な壺でもだめかあ。シンプルなだけになかなかに強いんだけどなぁ」
満里奈が自信満々に見せつけていた緑色の悪趣味なツボだが、蛇は悩んで悩んで……お気に召さなかったらしい。
「残ったのはすぅ君が選んだやつだけか」
初花がダンボールを開けた。
出てきたのは、ラッパのような形をして、透明な素材で出来た壺だ。
「え、なにその変なやつ。どうなってんのぉ?」
「クラインの壺」
「へ〜進は相変わらず変なこと知ってるね〜きもーい」
満里奈のきもーいには誰も触れず、初花が全く期待せず蛇に壺を近づけた。
すると、蛇は「お、ええやん」みたいにパッとした顔をして、するすると壺の中に入っていく。
開口部から細い管に入り込んで、ちょうどその細い管に体が完全にフィットした。ご満悦に舌をペロペロしはじめる。
「……あ、なんか少し肩が軽くなった気がする……」
芙蓉が肩をぐるぐる回し始めた。
「えっと……なに、え、これで解決したって事?」
「すぅ君お手柄だね」
「え、あ、ども。選ぶことしかしてないけど……」
傍から見ていただけの美冬は、深く深くため息を吐いた。
何一つ、状況が読めない。
もともとこの蛇は芙蓉の家を守っていたトウビョウだった。引っ越しの際に蛇が住み着いていた壺か何かを誤って処分してしまい、仕方なく芙蓉に取り憑いていた。
新しい壺を用意させるため、気付かせるために不幸を振りまいていた……と言うところが妥当か。
「なんですかそのベタなオチ。つまらないにも程がありますよ」
こんな雑な茶番に付き合わされ、家を占拠され、食料まで奪われ、主との時間も奪われた。
呆れから一周回って、またも殺意が湧いてきた。
「あの……なんですか、その……。とりあえずお前ら全員いっぺん死ねっ」
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