第198話 エキノコックスなら犬だって感染しますから
そしてなぜ、ここにいる連中で食卓を囲んでいるのかが謎だ。
これでも美冬は断った。家に食材が無いからと。そもそも主人との時間を奪うなとも言った。言って尚、満里奈がアリスに乗って食材を調達してきてしまったのだ。
仕方なく、本当に仕方なく、この有象無象の人間畜生と犬畜生のために台所に立ったのだ。
「美冬はねえ〜じつは頼まれると断れないし何だかんだ言って優しいよね〜」
満里奈が言う。
そして美冬の殺意が増す。
「あなたに頼まれたつもりも優しくしたつもりもありませんし、勝手に始めたのはあなたであって、美冬は巻き込まれただけなんですが。殺されたいんですか」
「進〜さっきから美冬が怖い〜なんとかしてよぉ」
「いや、今のは完全にみふに同意」
「わあひっどーい! いいじゃんお金出したのサラなんだから」
「え、そうなの?」
「んやいいよいいよ手伝ってくれたお礼だし実質蒼樹のお金だから」
ボーダーコリーがはっはっしながら答えた。
それに何故か進の膝の上にお座りして、モフられている。
進は犬猫を見るといつもこれだ。息をするようにモフっているのだ。息をするようにというか、実際に埋もれて息をしているのだ。
「あの。サラさん。ご主人様から降りてくれませんか。そこ美冬専用の席なんですけど」
「いいじゃないたまには。彼ね、ツボ抑えてて上手いわ」
「は?」
「包丁置いたら?」
「今にも手が滑りそうなんです。ご主人様もなんでそんなノミとダニの塊なんか触ってるんですか。移りますからやめてください。浮気だったら泣きますよ今ここで。発狂しながら泣き叫びますよ」
「なにそれひどい! ちゃんと予防接種してるから! 美冬の方こそエキノコックスじゃん!」
「はぁぁぁぁあああ!? エキノコックスは北海道ですから! 美冬は東北ですから! 東北の狐にエキノコックス居ませんから! それにエキノコックスなら犬だって感染しますからそこんところ勘違いしないでいただけます!?」
「落ち着きなよ二人とも」
進がまあまあと止めるが
「だいたい! ご主人様がこのブス女の問題に首突っ込んだり、サラさんをモフったりしなければ良かったんですよ!?」
むしろ元凶なので逆効果である。
「あ、美冬ぅ〜お醤油取ってきて〜」
そして満里奈は相変わらず自由だ。
凄まじい喧騒に戸惑う芙蓉には、既に慣れきった初花が「気にせず食べよ」と皿に料理を取り分けている。
そして美冬の中で、現状で最も存在が謎なのが初花だ。
なぜ彼女がここに居るのか。
絶対にこの家には入れたくなかった人物だ。ここは美冬と進だけの空間のはずだ。そこに、この人間だけは絶対に入れてはならなかった。
「あの、なんであなたがここに居るんですか」
「……あ、私?」
「ええ」
「美夏の代理。あの娘忙しいから」
「アレの代わりって言ったって、そもそも──」
「今日は荷物が多いから人手が欲しかっんだよ」
サラが割り込んで入る。
未だに進にモフられ──
「あの、サラさん、いいから早くご主人様から離れてくださいませんか」
どころか仰向けになって腹をワシャワシャされながら真面目そうな口調で言っても一切説得力がない。
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