第199話 夫婦喧嘩は後にして

 美冬がサラを文字通り蹴落として、狐の姿になり進の膝の上に陣取る。

 こうしておかなければまた誰かに聖域を侵されてしまうかもしれない。

 

「ああ、そうだ。みなの話で思い出した。昨日遅くまでこっち来てたけど、亮平とか大丈夫だった?」

 美冬が安心したのも束の間、進は今度は初花に手を出し始めた。

「亮平? なんで?」

「なんでって、召喚してたわけだし、心配しないかなと思って」

「あ、すぅ君聞いてない? もうあの二人、召喚の契約終わったよ」

 一瞬だけ妙な沈黙。

 進を睨みつけていた美冬でさえ、身内の急な話題に関心が引っ張られてしまい、このまま話を聞くことにする。

 

「……え、へぇ。あ、そうなんだ。それは知らなかった」

 驚きが一周回って進の反応が素っ気なくなる。

 美冬の胸毛を撫でながらどうにもしっくりこない頭を整理する。

「えっと、早くない? 普通高校出るくらいまで続けるんじゃ?」

「さあ……でも、あの二人……そんな仲良くなかったし」

「喧嘩でもした?」

「いや? 普通に、もうそろそろ良いかな〜って」

 会話に夢中になってしまったため、美冬を撫でる手が止まる。それを許さない美冬の肉球が頬にぶっ刺さる。

「じゃあ、みなは? こっちに住んでるの」

「うん、花燐の家に居るみたい」

「そうなんだ。意外」

 言葉に出たほど意外だとは思っていないが、咄嗟過ぎてこういう反応しか出てこない。

 

「ちょっと〜身内しかわからない話しするの辞めてよお。ウチらついてけないんだけど〜」

 満里奈とサラはまだ通じるとして、芙蓉は完全に置いてけぼり。

「そーよ。みんながわかる話にしなさいよ」

 サラも満里奈に便乗して言うが、本人は芙蓉にモフられることに忙しそうで会話には困っていない様子。

「恋バナとか」

 よりにもよって

「はいはいはいはいはい! 芙蓉ちゃん彼氏いますか!」

 満里奈が一瞬で食い付く話題を提案してしまったのだ。

「居ませんけど」

「えー可愛いのに勿体無いね〜」

「……恐縮です」

 そして一瞬で終了した。

 

「あ、じゃあぁ〜、進とは学校だとどんな感じなの? よく喋ったりする?」

「いえ。えっと……最近クラス替えで一緒になったばかりであまり……」

「へーそぉなんだぁ」

「でも、その、今日とか助けてくれたりして……良い人だと思う」

「そっか〜。こいつにそう言うお世辞要らないからね〜」

 

 その話を聞いた美冬が、進をじっと睨む。

「そう言えば、どういう経緯で怪異だか妖怪だかに襲われたのを助けるのに至ったのか聞いてないですね」

「はいそこの2人〜夫婦喧嘩は後にして」

「じゃあこの人畜共が帰ったあとにじっくりお話聞きますからね」

「──あの、その、俺そんな悪い事してないつもりなんだけど」

「美冬以外の女と話しておいて? それが悪い事ではないと」

「だーかーら! あとにしてっ!」

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