第216話 嫉妬で発狂しそう

 帰ってきてから、美冬の機嫌が良くない。不貞腐れたように布団に寝転がって、ゲーム機のボタンを叩きながら尻尾をべしべしと布団に叩きつけている。

 

 進はそれを台所に立ってコーヒーを飲みながら見た。

 一応、美冬にもコーヒーを飲むか聞いたのだが、要らないと即答されてしまった。

 

「それで、アリスの整備士とか、やるんですか」

「……聞いてたんだ。まあ、うん……考えてないこともないけど」

「それってつまり考えてるってことですよね」

「そう……なるか」

「アリスに言われたからですよね」

「それは、アリスに言われないと考え付かなかったし」

「泣いていいですか」

「ええ、なんで」

「ちょっと仲いいヒトに言われたからってすぐに靡いちゃうんですね。というか美夏とかに魔導庁に戻って来いって言われても渋るのに、アリスに言われたら前向きに検討するあたりご主人様の意思の弱さとか考えの甘さなどが露呈してますね」

「選択肢にあるってだけで、そうするって決めてるわけじゃないから。それに、車の整備とかだったら魔法使って戦うとか関係ないし」

「まるで車の整備なら病まずに楽に出来そうとか思っているような口ぶりですね。全世界の整備士にスライディング土下座した方が良いと思うんですけども。それに選択肢には入ってるんですね」

「まって、なんでそんな怒るの。確かに至極真っ当なこと言ってるから言い返せないんだけどさ。そんなにアリスの事とか気に入らない?」

「ご主人様とアリスが仲良くしてるのが気に食わないんです」

「ええぇ」

「どうせ面倒くさい女だって思ってるんでしょう」

「いや思わないけどさ……」

 

 美冬はゲームを一時停止し、枕元に置くと正座で居直った。

 対する進は、非常に居心地の悪い思いをしながら歯磨きを始めた。

 

「過去の事は水に流そうとか言いだしたりしないでくださいよ。アリスだったり葵さんだったり、よくわかんない所から変な魔法教わってきて。と思ったら美冬には一切の相談せず魔導庁辞めるとか言い出して。今度は教授の研究の手伝いとか、満里奈の仕事の手伝いとか、と思ったら高千穂の使い魔育てる手伝いまで勝手にやりだして。これだって美冬に相談も無かったじゃないですか。というか魔導庁辞めた意味って何だったんですか? やってること無茶苦茶だって自覚あります? とにかく振り回されて疲れますし、嫉妬で発狂しそうなんですよ。わかりますか」

「はひ……」

「喋るか歯磨きするかどっちかにしてください」

「……はみがきひまふ」

 

 すると美冬は黙り、進の方をじーっと睨み続けた。

 話は終わっていない。早くしろ。という圧力。

 進はむしろその圧力には屈しないという鋼の意思で以って、丁寧に歯磨きをした。

 そしてとうとう、うがいをした瞬間を見計らって、美冬が一手先に出る。

 

「ここ、座ってください」

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