第217話 愛してるんですどうか許してください
正座させられ、足が痺れ始めて少し経った頃。
美冬の溜まりに溜まっていた不平不満を受け止め、そろそろ死ぬかと思い始めていた。
「どうせゴールデンウィーク終わったら、美冬を放って学校とか行っちゃうんですよね。だってご主人様は美冬より学校とか、教授とか高千穂とかそういう諸々の方が大事なんですものね。美冬はご主人様の事は全部わかりますから、ええ、お気持ちはわかります。美冬はご主人様を世界で最も理解していますから」
「いえ、あの、みふが一番大事だと思っています。はい」
「口で言うのは簡単ですね」
「すべてみふを思っての事なのでどうか勘弁を……」
「は? どこが」
「学校行くのは将来みふを養うためだし、手伝いしに行くのはバイト代わりになるし、今のうちに借りを作っておけば後々でリターンがあるんで。どうかそういうことでご容赦を賜りたく」
「ふ~ん」
「大学とか、ほら、仙台の方に進学して、ね。みふとまた暮らすためにさ。だから学校行って勉強する必要があるわけで」
「へ~」
何を言っても美冬に対する効果は薄いようだ。彼女のどす黒い眼差しには、光が戻ってくる気配は一切ない。
「ごめんなさいでもみふの事は世界で一番愛してるんですどうか許してください」
こうなったら力技に出るしかない。土下座だ。土下座で納めるしかない。
額を床に擦りながら愛していますとほざく輩の姿など、中々に珍しい光景だ。だが恥じている場合ではない。そんなちっぽけな意地程度捨てさり、美冬の怒りを収めてもらわなければならないのだ。
「そうですか」
わかってくれたか、と恐る恐る顔を上げる。
美冬の目には、薄っすらと光が戻り始めていた。
「そ れ で ?」
まだ足りないか。畳み掛けるか。
「みふが居ないと生きていけないんです」
「あらあらそれは仕方が無い人ですね」
「で? 可愛いは?」
「それはもう、宇宙の原初から森羅万象に至るまで最も可愛い」
「ふ〜ん」
美冬は、低く下がった進の頭を撫で、満足気に咳払いした。
「今の、言葉だけじゃないと良いんですけどね」
勝ち誇った顔をしているが、世間ではこれをちょろいと言う。
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