第218話 おだてれば言いなりになる都合のいい女としか思ってなかったんですね
「って言ってたじゃないですか。もう忘れたんですか。信じてたのに。嘘つき。ご主人様は美冬のことなんてやっぱりどうでも良かったんですね。おだてれば言いなりになる都合のいい女としか思ってなかったんですね」
そう言って、美冬は進に抱きついて離れない。
「そんなことを言われながら学校に行かなくちゃならない俺だってかなりしんどいんだからな」
「ご主人様が美冬の事をないがしろにするのが悪いんです」
しばらく言い合って、なんとか美冬に折れてもらい外出に成功する。
ここまで苦労しても行く先が大して面白くも無い学校というのは、中々に苦行だ。
だが、それでも弁当は持たせてくれるあたり、優しいのか。もしくは美冬は端から引き止められるとは思っていないのか。あるいは、一種の嫌がらせなのか。
駅に向かっている間と電車に乗っている間は不自由ながらも貴重な1人の時間だ。以前は学校にいる間も1人の時間だったが、2年になってからは芙蓉と行動する時間が大多数を締めている。
決して美冬を鬱陶しいと思っているわけではないが、ときには1人で頭や心を整理する時間が必要だ。
その点、美冬は不思議だ。
去年の夏に来て以来、初めの頃は多少距離感を保っていたようではあるが、やがて隣りにいる時間は増加の一途。休日ともなれば家に居ようがスーパーへ買い物に行こうが、半径1メートルより離れることはない。加えて連休の最終日は泣き喚く。
かえって疲れないのかと、心配になるほどだ。
「あ、日戸だ。久しぶり」
学校の手前、急に声をかけてきたのは菅谷飛鳥。1年の頃に知り合った、霊感持ちの女子。雷獣の菊花に襲われたのを助けたことがある。
1年の3学期以来、会っていなかった。
「ああ、久しぶり。元気そうで何より」
「まぁねえ」
「妖怪とかに襲われたりしてない?」
「そこまではね。正木ちゃんも居るし」
正木由良
精神支配と魔弾の使い手。
進を病院送りにした張本人だ。苦い思い出が蘇る。
「日戸こそ、コミュ障拗らせてボッチ生活送ってるんでしょ」
「いや……」
「おはよう日戸君」
と、横から話しかけてきたのは芙蓉だ。相変わらず首に蛇を巻いている。
「ねえ、あの彼女さん怒らない?」
「美冬さんに何か言われない?」
そして、飛鳥と芙蓉が互いを見て、本気の心配を進に向けた。
ボッチ生活を拗らせていれば平和だったかもしれない。今は、奇しくも異性の友人が出来てしまったがために、美冬の視線に怯える日々を送っている。
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