第219話 にゃああああ!!
「全員リレーの走順……」
後日開催される体育祭では、クラス全員で走るリレーがある。前後は運動部所属連中で固めるが、中間をどうするか、という議論。
特に、クラスでも目立たない進なんかは、素性を知っている者など極端に少ないので、適当に配置されるのがお決まりのはずだ。
「そう。日戸君、すごく足速いでしょ? テケテケに追いかけられたときとか」
芙蓉が弁当の蓋を開けながらきょとんと言った。
休憩時間の間にあらかた決めておけと担任に言われ、善良な生徒である芙蓉はそれに潔く従っているのだ。
「魔法使えば……。疲れるから使いたくないけど」
「私、日戸君の前がいいな。私足遅いから、遅れても日戸君なら巻き返せそう」
「いやプレッシャー……」
†
以上のやり取りがあり、体育祭当日。
集まったのは学校ではなく競技場。高校の体育祭は校庭ではなく競技場を借りてやるというやつだ。
生徒達がグラウンドに並び、宣誓などやっている最中。観覧席に異様な空気を纏う人物、否、妖が一匹。
そう、美冬である。
実家から送らせた十数万のカメラに十数万の望遠レンズを装着し、三脚を立て、ファインダーを覗くケモミミ娘が一匹。
挿入しているSDカードも一級品だ。
すべて父の私物である。
主の勇姿を永久保存すべく、シャッターを切り、シャッタースピードと絞り、ISO感度を今一度確認する。
「体操着姿のご主人様、なにげにレア」
垂れるヨダレを首に巻いたタオルで拭い、進のいかにもダサいジャージ姿をしっかり収める。
望遠レンズ越しに進を観察していると、ふと邪魔な遮蔽物が写り込んできた。
なにやら、女らしい。首には蛇が巻き付いているが……。
「あのブス女……!」
美冬の殺気を感じたのか、首の蛇が振り向き、口を大きく広げた。
「な!? やるか!?」
口を広げる威嚇は狐の得意分野だ。
美冬も負けじと口を大きくあけ牙を剥きながら「にゃああああ!!」と威嚇。
憑き纏う妖同士で静かな闘争を繰り広げる中、人間の二人は気付くことなく談笑を続けていた。
そうこうしているうちに、生徒達はグラウンドを出てクラスの待機席へ下がり始めた。
進は美冬に気付くこともなく、芙蓉と話しながら美冬の視界から消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます