第132話 なんか……変なことに巻き込まれ始めたな……
朝の忙しさは正しく嵐だ。深刻な寝不足でもなんとか起きて、朝食と弁当を作り、主を叩き起こして朝食を食べさせていると、甘えて
玄関で、美冬がいつも通り「ちゅー」とせがんで、これもいつもどおり拒否するのが定番だ。
「とにかく、あの女には気をつけて下さいね。何かあったら、すぐ
「はいはい、ありがとう気を付けるよ」
「あの女マジで殺すホントにマジで……!」
進は昨晩美冬に言われた事を思い出し、社会的に殺されていないかの方が心配なのだが。
†
教室に到着し、自分の机が健在で尚且つ周りからの怖い視線も無く人まずは安心した。
席につき、満員電車ですでに疲れ切った身体も一息ついた。
「日戸、おはよう」
突然話しかけてきたのは菅谷飛鳥だった。
学期が変わり最近席替えがあって隣同士でもなくなったのだが、未だ話す仲ではある。
「ちょっと話があるんだけど」
「……え、なんの」
「ここじゃあまりできない話」
菅谷飛鳥が妙に真面目な目で、だんだんと怖くなってきた。自分は本当に社会的に殺されるのではないだろうかと。
進が飛鳥に連れられて来たのは、校舎の階段をさらに登った屋上への入口前だ。確かにここはほとんど誰も寄りつかない。
「それで何の話」
「正木ちゃんのこと」
「正木の何?」
「わかってないの?」
「えっと……」
「あの学生魔導士連合の事」
「あ、ああ……」
昨日美冬が言っていた事でなくてひとまず安心だ。菅谷は怪訝そうな顔をしたが、それだけのこと。
「正木ちゃんが、日戸は人間の敵とか言ってたけど……どういう意味? ていうかすごい嫌ってたけど、何かした?」
「立場が違うだけで敵対しているとしか……。というか一方的に敵対視されてるとか」
美冬はまだしも、進の方からは彼女に対し敵対心を抱いてはいない。ただ危なそうだから気をつけておこう、と言う程度だ。
「それだけ?」
「むしろ昨日一方的に襲われたくらいだし」
「いつ? だって昨日帰りは私と正木ちゃんは一緒に帰ってたからそんなの出来ないでしょ?」
「昼休みに学校で」
「はあっ? なにそれ」
「無理に信じろなんて言わないけどさ……」
その時の美冬がいつになく怖かったのを思い出す。爪を剥がして歯を折ることを一度やってみたかったとか言っていたのは流石に耳を疑ったし、今でも彼自身、自分の記憶が信じられないでいる。
「まあいいよ。とにかく、学生魔導士連合のこと知ってるなら教えて」
興味本位、と言った風ではなくまるで喫緊の事かのように迫られた。
「俺も詳しくは知らない。霊感があるおかげで苦労してた学生が立ち上げて、とりあえず妖怪と、妖怪と仲良くしてる魔導庁をぶっ壊そうっていう組織みたいなのは聞いてる」
「魔導庁は正木ちゃんから少し聞いた。日戸はそこに居るの?」
「今は居ない。去年まで」
「人間の敵っていうのは?」
「否定しづらいな、それは。あくまで人間と妖怪の間を取り持つのが魔導庁の仕事だし」
飛鳥は釈然としない風だ。だが他に何を問い質せば良いかも決めかねている。そう言いながらまごついているうちに、予鈴が鳴った。
「はああぁぁ……まあいいや。教室戻ろう」
納得しきれないまま、進の横を通り階段を降りる。
「ああ、うん……」
倣って、踵を返した。
「ねえ日戸。事情とか知らないから何も言えないけど……日戸は悪い奴とかじゃないよね」
悪い奴かどうか、見る立場によって変わるだろうし一概に答えるわけにはいかない。
魔導庁は中立の立場だ。人間と妖の間を取り持つだけ。故に、妖に害をなす学生魔導士連合とは敵対する。そもそも今の彼は魔導庁にすら居ない。ただ巻き込まれただけの一般人だ。
「少なくとも、正木……いや、普通の人間からしたら大悪党」
「そ」
飛鳥はなおも釈然とせず小走りで去っていった。
なんとなく姿が見えなくなるまで見送ると、進も階段を降り始める。
「なんか……変なことに巻き込まれ始めたな……」
面倒くさいことになる前に、元同僚達がさっさと解決してくれれば良いのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます